コイカケ

崎田毅駿

文字の大きさ
5 / 59

コイカケその5

しおりを挟む
「え? ですが」
 使用人として静流の反応を待ち、自分自身は喜びを爆発させないようにと動きを止めていた寺角だったが、予想外の台詞に、慌てて己のカードを確かめた。
「な……」
 意味が分からなかった。彼の手にはスペードの5があった。
「ね、私の勝ち。間違いないわよね?」
「は、はあ」
「随分、不思議そうな態度を取るのね」
「い、いえ。勝てると思っていたものですから」
「だったら、もう少し注意深くならなくちゃ。あなた、あれを見て惑わされたのね」
 立ち上がった静流が、数歩横に動く。寺角はその向こうに丸窓を見た。
「あそこに自分の手札が反射して、映ったと思い込んだんでしょう?」
「……」
 何も答えられず、寺角は窓を凝視した。すると今頃になってやっとおかしなことに気付けた。
 とっくにインディアンポーカー勝負は終わったというのに、窓ガラスには赤い絵札らしき物がある。あれは……。
「お嬢様が描かれたんですか」
「ええ。暇で時間を持て余していたから。でも、どうせ描くのなら、いざって言うときに役立つものにしようと思ったの。それで、あなたが私とほぼ同じ身長だというのを思い出して、うまくすれば偽物のトランプカードを本物に見せ掛けられるじゃないと閃いたわけ。ちょうどこの髪だったから、壁になれると思ったの。ただ、ほんの少し足りない感じがしたので、椅子の背もたれが高くなるように、後ろの脚にはスリッパやハンカチをかましておいた。どうだった?」
 無邪気なまでに得意げに語う静流。寺角は苦笑を小さく浮かべ、頭をちょっとだけ掻いた。
「お見事でした。ですが、お嬢様が私の本当の手札を知っているだけで、どうしてオールインができたのでしょうか。スペードの5よりも弱い手札だったらどうしようかと、お迷いになるのは当然だと思うのです」
「ふふふ。ごめんなさいね」
 明るく含み笑いした知る図は、右手の甲を見せた。その小指にはまる銀のリングを、左手で指し示した。
「このピンキーリング、伊達や酔狂で着けている訳じゃないのよ。鏡として役に立つように、普段から磨いて、この細い鏡像でもしっかり読み取れるように、訓練しているんだから」
「ははあ。ということはつまり、お嬢様はご自身の手札がハートの8だと知っていた?」
「そう。額に持って行くまでの間に、数とスートを映してね。だから勝負に行けた」
「もしも仮に、私の手札の方が強かったらどうなりましたんでしょう?」
「チャンスが来るまで待つに決まっているわ」
「しかし、時間が経てば経つほど、あの窓の仕掛けは気付かれる恐れが大きくなるのではありませんか」
「気付かれたって問題ない。だって、あれはいかさまの証拠にはならないもの」
 なるほどと納得する寺角。言われるまで、そんなことにも気付けないでいた。
「それにね、私が丸窓の仕掛けをしたのは、なるべく短期で勝負を決めたかったから。寺角は自分の手札が強いと信じたから、絶対に勝てると確信したから、全額勝負に出たんでしょう?」
「そうなります」
「短期決戦に拘らなかったら、私はこの指輪の力で一つずつ勝っていけばいい」
 事も無げに言った静流は、ピンキーリングをさすった。
 寺角は心の中で両手を挙げて降参した。それからもう一度、「お見事でございました」と伝えた。
「それでも最後に一言、老婆心から忠告を申し上げると」
「何なに?」
「勝ったからといって、あとでとくとくと種を明かす行為は、なるべく自重した方がよろしいかと。特に、トーナメント優勝者との勝負では」
「うん、分かった。肝に銘じておくわ」
 神田部家のお嬢様は、これまた軽い返事で請け負った。

             *            *
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サウンド&サイレンス

崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

神の威を借る狐

崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。

籠の鳥はそれでも鳴き続ける

崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。

処理中です...