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「水上のハーレム」
4.試行錯誤
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最後になった中上妙子(二十六歳)は、特徴といえば髪の一部を茶色に染めている程度で、どこにでもいそうな平凡さの持ち主だった。クラスで何番目とかではなく、クラスに何人もいるタイプ。分類すればタヌキ顔というやつで、男の中にはこんな子が大の好みだという人もいるだろうと言えるぐらいには愛らしい。両親の離婚で、母親及び仲のいい妹と離れ離れに暮らさざるを得なくなり、精神的に参っていた時期があったというが、その心労がにじみ出ているようなくたびれた雰囲気があった。
「緊急ボタンなんて押してませんよ」
同じ質問を重ねてきただけあって、同じ返答に、「でしょうね」と相槌を打ちそうになった刑事達。
「他に何か?」
「確認になりますが、あなたの物と思われる髪の毛が数本、このペンションから出る桟橋のガイドに絡まっているのが見つかりました。覚えは?」
「さあ、抜けやすい髪質だとあきらめていたから、意識はしてなかったかな。昨日はゲームで橋を渡ったけれども、途中まででしたから。どの辺に絡まってました?」
「岸辺近くですね。それこそ手の届く範囲で」
「だったら、何の不思議もないわ。何度か渡ったし、一度は顔を洗ったから、そのときに抜けた物が絡まったんでしょう」
「顔? 何でまた」
聞きとがめた権藤が表情を歪めると、中上は対象的に笑みを浮かべた。
「ゲームの一環ですよ。負けたら顔にペイントされるの。言うまでもなく、水溶き絵の具で。ゲームの名前はハイパー羽根つき、だったかしら」
「そのゲームじゃなくてもかまわないんですが、他のお三方にあなたの特徴的な毛髪が渡る可能性は?」
「そりゃあ、いくらでも接触はあったんだから、あると言えるけれども」
質問の意図は?と目で問うてくる中上。
「実は、他のガイドからも同じような毛髪が見付かっていて、恐らく中上さんの物だろうという見込みなんです。量の多少はありますが、残り三つとも」
「……多分、ゲームで身体がぶつかった際、髪の毛が移って張り付いちゃったんじゃない? そのあと、三人が各々、水に浸かるような機会があって、流れた髪が絡みついた……」
「濡れ衣を着せられたとは考えられない?」
権藤が尋ねるのへ、中上は目をぱちくりさせた。
「まさかっ! ガイドに髪の毛が絡んでいただけで、何の証拠になると言うんでしょう? 濡れ衣を着せるのでしたら、犯行現場に遺すのが常道というものでは?」
「まあ、最も効果的なのはね。中上さんは、他の方を善人だと信じておられるようで」
「違うんですか?」
邪気の感じられない眼で見つめ返され、権藤は思わず顔を背けた。
「一通り聞いてみて、容疑者のランキングは変化したか?」
権藤の問いに俣野は顎をひと掻きしてから答えた。
「滝田がランクダウンしたのは言えますね。押し相撲で負けたのにはちゃんと裏の理由があった。くわえて、彼女が今、殺しをやらかして捕まったら、病気の身内の面倒を看る者がいるのかっていう疑問もあります。治療代をこんなバラエティのあぶく銭に頼るなんて、相当追い込まれているはず」
「やけに肩入れするじゃないか。ま、俺も同意見だがな。んで、必然的に北野が浮上した。残る三名の中で、水に濡れたのをごまかせるのは北野だけだ」
「そこなんですが、ちょっと変じゃありません?」
「変だと思ってたら、浮上したなんて言ってないさ。具体的に頼む」
「はあ。緊急ボタンを押したのは犯人。これが前提の一つですよね」
「ああ。犯人以外が押す理由がない。殺人が起きたことを知りようがないのだから」
「では犯人がボタンを押す理由は」
「早く遺体を見付けさせ、犯人は髪の濡れた者だと認識させるため……あれ?」
「ね、おかしいでしょう。ボタンを押したのが犯人なら、それは江利か中上でないと辻褄が合わないんです」
「……犯行可能かどうかばかりに固執して、こんな単純な点を見落とすたぁ、俺も歳だな」
「緊急ボタンなんて押してませんよ」
同じ質問を重ねてきただけあって、同じ返答に、「でしょうね」と相槌を打ちそうになった刑事達。
「他に何か?」
「確認になりますが、あなたの物と思われる髪の毛が数本、このペンションから出る桟橋のガイドに絡まっているのが見つかりました。覚えは?」
「さあ、抜けやすい髪質だとあきらめていたから、意識はしてなかったかな。昨日はゲームで橋を渡ったけれども、途中まででしたから。どの辺に絡まってました?」
「岸辺近くですね。それこそ手の届く範囲で」
「だったら、何の不思議もないわ。何度か渡ったし、一度は顔を洗ったから、そのときに抜けた物が絡まったんでしょう」
「顔? 何でまた」
聞きとがめた権藤が表情を歪めると、中上は対象的に笑みを浮かべた。
「ゲームの一環ですよ。負けたら顔にペイントされるの。言うまでもなく、水溶き絵の具で。ゲームの名前はハイパー羽根つき、だったかしら」
「そのゲームじゃなくてもかまわないんですが、他のお三方にあなたの特徴的な毛髪が渡る可能性は?」
「そりゃあ、いくらでも接触はあったんだから、あると言えるけれども」
質問の意図は?と目で問うてくる中上。
「実は、他のガイドからも同じような毛髪が見付かっていて、恐らく中上さんの物だろうという見込みなんです。量の多少はありますが、残り三つとも」
「……多分、ゲームで身体がぶつかった際、髪の毛が移って張り付いちゃったんじゃない? そのあと、三人が各々、水に浸かるような機会があって、流れた髪が絡みついた……」
「濡れ衣を着せられたとは考えられない?」
権藤が尋ねるのへ、中上は目をぱちくりさせた。
「まさかっ! ガイドに髪の毛が絡んでいただけで、何の証拠になると言うんでしょう? 濡れ衣を着せるのでしたら、犯行現場に遺すのが常道というものでは?」
「まあ、最も効果的なのはね。中上さんは、他の方を善人だと信じておられるようで」
「違うんですか?」
邪気の感じられない眼で見つめ返され、権藤は思わず顔を背けた。
「一通り聞いてみて、容疑者のランキングは変化したか?」
権藤の問いに俣野は顎をひと掻きしてから答えた。
「滝田がランクダウンしたのは言えますね。押し相撲で負けたのにはちゃんと裏の理由があった。くわえて、彼女が今、殺しをやらかして捕まったら、病気の身内の面倒を看る者がいるのかっていう疑問もあります。治療代をこんなバラエティのあぶく銭に頼るなんて、相当追い込まれているはず」
「やけに肩入れするじゃないか。ま、俺も同意見だがな。んで、必然的に北野が浮上した。残る三名の中で、水に濡れたのをごまかせるのは北野だけだ」
「そこなんですが、ちょっと変じゃありません?」
「変だと思ってたら、浮上したなんて言ってないさ。具体的に頼む」
「はあ。緊急ボタンを押したのは犯人。これが前提の一つですよね」
「ああ。犯人以外が押す理由がない。殺人が起きたことを知りようがないのだから」
「では犯人がボタンを押す理由は」
「早く遺体を見付けさせ、犯人は髪の濡れた者だと認識させるため……あれ?」
「ね、おかしいでしょう。ボタンを押したのが犯人なら、それは江利か中上でないと辻褄が合わないんです」
「……犯行可能かどうかばかりに固執して、こんな単純な点を見落とすたぁ、俺も歳だな」
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