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2.記憶の中の二人
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笑われるかと覚悟していた。だが、実際の反応は違った。
「そうよ」
答えたのは女の子だった。少し、自慢するような響きがある。加えて、何だか楽しそうだ。
「おじさん、分かるの?」
「あ、ああ。マッチ箱を当てる様子を見ていたら、そうとしか思えなくなった。それに、さっき、私の方に近付いて、君は警戒心を解いたようだったから……。私の心を読んで、本当に怪しくないかどうか、確かめたんじゃないのかね?」
「うん」
あっさりと認める少年。
私は内心、叫び出したかった。目の前に、超能力を使う少年がいる……。
「あの、ごめんなさい」
不意に、少年は、すまなさそうに頭を下げてきた。
「何を謝っているんだい?」
「勝手に、おじさんの考えていること、覗いちゃって……」
「あ、ああ、そのこと。うーん。まあ、今はいいよ。しょうがない。それよりもさ、どの程度読めるんだろう? ぜひ知りたいな」
私は、相手に何もかも見透かされているかもしれぬことに、微妙な恐怖心を感じながらも、聞かずにはおられなかった。
「実は、私は超能力の研究をしている者なんだ」
そう名乗ると、二人の目の色が変わった。いや、変わったのは女の子の方だけで、北川君には分かっていたのかもしれない。
「そうなんですか……。自分の力なのに、自分でもよく分からないけど……だいたい、相手の人に二メートルぐらいまで近付けば、いいみたい。それに、何でも分かるんじゃなくて、『はい』か『いいえ』で答えられるような質問に対する答を、『心の声』で返してもらえるだけで……」
なるほど、そうか。だからこそ、先ほど、彼は私との距離を縮めるために一歩、踏み出したのだ。そして「あなたは僕の能力に興味を持っている?」という主旨の質問を、私の精神にぶつけてきたのだろう。私の精神が「はい」と答えたから、簡単に信用してくれたに違いない。
「マッチ箱を当てるのも、同じなんだね? 箱一つ一つについて、『紙の入っているのはこの箱?』というような質問を、相手の精神というか意識に聞いてみて、『はい』という答が返ってきたら、分かるというわけだ」
「うん。でも、箱を動かす相手が、どれに紙を入れたのか分かっていないこともあるでしょう? そんなときは、答を返してもらえないんです。だから、最後の一回は、じいっと、紙の入ったマッチ箱を見ているしかなくて」
なるほど。私は納得した。あの眼鏡の子は自分自身、どのマッチ箱に紙を入れたのか分かっていなかった。それを見越して北川少年は、最初からマッチ箱の動きを目で追っていたのだ。つまり、最後に当てたのは超能力によるものではなかった、と。
「まず、自己紹介だ。京極雄嵩、K**大で、超心理学という学問について、研究をしているんだ。君のことを、そこで本格的に調べてみたいんだが、どうだろう? もちろん、お父さんやお母さんの許可ももらわないといけないんも分かるんだけど」
私は名乗ってから、聞いてみた。そのときの私の目は、きっと、飼い主に取り残された子犬の瞳に似ていただろう。
しばしの沈黙。一度、女の子と顔を見合わせてから、やがて、少年は口を開いた。
「うん、いいよ。僕、北川義治。今度、四年生になるんです」
思わず、私は北川君の手を握りしめていた。これで、他の連中を見返してやれる。もう、あいつらに俺のことを馬鹿にさせない。そんな気持ちが、大きく沸き起こっていた。
私の気持ちに気付いているかもしれない北川少年は、さらにこう言った。
「でも、もう一つだけ。さっきの続きなんだけど、この子と一緒にいた方が、ずっとよく当てられるみたいなんだ!」
少年に手で示された女の子は、ちょっとはにかんだ表情を見せてから、
「篠原涼美……です」
と、ぺこりと頭を下げた。ポニーテールが上下に揺れる。
私は、二人で一組の超能力という可能性について、色々と考え始めていた。
「そうよ」
答えたのは女の子だった。少し、自慢するような響きがある。加えて、何だか楽しそうだ。
「おじさん、分かるの?」
「あ、ああ。マッチ箱を当てる様子を見ていたら、そうとしか思えなくなった。それに、さっき、私の方に近付いて、君は警戒心を解いたようだったから……。私の心を読んで、本当に怪しくないかどうか、確かめたんじゃないのかね?」
「うん」
あっさりと認める少年。
私は内心、叫び出したかった。目の前に、超能力を使う少年がいる……。
「あの、ごめんなさい」
不意に、少年は、すまなさそうに頭を下げてきた。
「何を謝っているんだい?」
「勝手に、おじさんの考えていること、覗いちゃって……」
「あ、ああ、そのこと。うーん。まあ、今はいいよ。しょうがない。それよりもさ、どの程度読めるんだろう? ぜひ知りたいな」
私は、相手に何もかも見透かされているかもしれぬことに、微妙な恐怖心を感じながらも、聞かずにはおられなかった。
「実は、私は超能力の研究をしている者なんだ」
そう名乗ると、二人の目の色が変わった。いや、変わったのは女の子の方だけで、北川君には分かっていたのかもしれない。
「そうなんですか……。自分の力なのに、自分でもよく分からないけど……だいたい、相手の人に二メートルぐらいまで近付けば、いいみたい。それに、何でも分かるんじゃなくて、『はい』か『いいえ』で答えられるような質問に対する答を、『心の声』で返してもらえるだけで……」
なるほど、そうか。だからこそ、先ほど、彼は私との距離を縮めるために一歩、踏み出したのだ。そして「あなたは僕の能力に興味を持っている?」という主旨の質問を、私の精神にぶつけてきたのだろう。私の精神が「はい」と答えたから、簡単に信用してくれたに違いない。
「マッチ箱を当てるのも、同じなんだね? 箱一つ一つについて、『紙の入っているのはこの箱?』というような質問を、相手の精神というか意識に聞いてみて、『はい』という答が返ってきたら、分かるというわけだ」
「うん。でも、箱を動かす相手が、どれに紙を入れたのか分かっていないこともあるでしょう? そんなときは、答を返してもらえないんです。だから、最後の一回は、じいっと、紙の入ったマッチ箱を見ているしかなくて」
なるほど。私は納得した。あの眼鏡の子は自分自身、どのマッチ箱に紙を入れたのか分かっていなかった。それを見越して北川少年は、最初からマッチ箱の動きを目で追っていたのだ。つまり、最後に当てたのは超能力によるものではなかった、と。
「まず、自己紹介だ。京極雄嵩、K**大で、超心理学という学問について、研究をしているんだ。君のことを、そこで本格的に調べてみたいんだが、どうだろう? もちろん、お父さんやお母さんの許可ももらわないといけないんも分かるんだけど」
私は名乗ってから、聞いてみた。そのときの私の目は、きっと、飼い主に取り残された子犬の瞳に似ていただろう。
しばしの沈黙。一度、女の子と顔を見合わせてから、やがて、少年は口を開いた。
「うん、いいよ。僕、北川義治。今度、四年生になるんです」
思わず、私は北川君の手を握りしめていた。これで、他の連中を見返してやれる。もう、あいつらに俺のことを馬鹿にさせない。そんな気持ちが、大きく沸き起こっていた。
私の気持ちに気付いているかもしれない北川少年は、さらにこう言った。
「でも、もう一つだけ。さっきの続きなんだけど、この子と一緒にいた方が、ずっとよく当てられるみたいなんだ!」
少年に手で示された女の子は、ちょっとはにかんだ表情を見せてから、
「篠原涼美……です」
と、ぺこりと頭を下げた。ポニーテールが上下に揺れる。
私は、二人で一組の超能力という可能性について、色々と考え始めていた。
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