ホシは誰だか知っている、が

崎田毅駿

文字の大きさ
6 / 14

6.調査依頼

しおりを挟む
「それならいいんですけど……じゃあ、どんな理由があるんですか」
「私のせいで、篠原涼美ちゃんと彼女の両親はあんな目に遭ったようなものだからね」
「あ……そのことでしたら」
「いいんだ。事実は事実さ」
 北川君の言葉を遮り、私は強い調子で言い続けた。
「私が、涼美ちゃんを実験に協力してもらえるよう、ご両親に頼みに行ったのは九月十二日、日曜日だった。はっきり覚えている。本来なら、この日、涼美ちゃん達は日帰り旅行に出かける予定だったのに、私が無理を言って日を変えてもらった。そして三日後の祝日、九月十五日に涼美ちゃん達は出かけて、あの事件に巻き込まれた」
「……」
「事件後すぐ、大学に辞表を提出した。それはちょうど五十日目、受理された」
「お葬式のときも、お見舞いに来られたときも、京極さん、そんなこと言ってくれなかったです」
「言ったら、篠原さんの親類の方――おばあさん一人だったけど――にとって、嫌味じゃないかと思ったんだ」
 篠原涼美にとっての祖母は当時、私を責めた。息子夫婦や孫娘が事件に巻き込まれたのは、私のせいだと。あのおばあさんも今は亡くなっていた。
「私は嫌われていたから、何の知らせももらえなかった。結局、君達が篠原さん達と一緒に東京の方に越してしまったきり、消息がつかめなくなった。できれば彼女――涼美ちゃんの世話をしてあげたかったのだが……。あの当時、私はぼーっとして毎日を送っていたのだろう。交通事故に遭って、自分が世話を受ける身になったんだ」
 ふと気付くと、自嘲の笑いを無意識の内に浮かべていた。真向かいの少年――やはり少年だ――は、心配そうに口を開いてきた。
「事故に遭っていたんですか? どの程度の?」
「おいおい、そんなに心配しないでくれ。十年前の話だ、今、これだけぴんぴんしてるんだから、分かるだろう。足の骨を折っただけだよ」
「だけって……それでも大変じゃないですか」
「こんなもの……。ま、そういういきさつで、君達の行き先をたどる糸は完全に断ち切られた。ただ、涼美ちゃんの治療のためとだけは、耳にしたがね。入院して生活費も底をついてきた私は、知り合いのつてを頼りに、職を転々として……よそう、苦労話をしてもしょうがない。今は保険会社の調査員だ」
「保険会社? だったら、こんなところでぶらぶらしているのはおかしいんじゃないですか」
「いや、だから、調査員なんだよ。保険会社に縛られてるんじゃない。保険金の支払いに関して、不審な点がないかどうか調べるのが仕事。言うなれば、探偵ってところか。現在は調査物件を抱えていないから、こうしていられるわけだ」
「はあ……。だったら、僕のこの力、使えますね」
 冗談のつもりか、含み笑いをする北川君。このとき初めて、私はその可能性に思い当たった。
「言われてみれば……。卒業したら来ないかな。君なら一発で採用だ」
「履歴書の特技の欄に、超能力とでも書けと?」
 表情がほころぶ。私もつられた。
 非常に若い頃は、科学の進歩により超能力についてある程度解明され、超能力者そのものも社会的に認知されるのではないかと空想していたのだが……実際にはそうなっていない。履歴書に特技として超能力と書けるようになるのは、まだ先のようだ。
 ようやく自然に笑えてから、私と北川君は別れた。お互いの連絡先を教え合って。

「依頼が入ってるわよ」
 理恵子りえこさんの目は、私を責めるように射ている。定刻通りに出てきたのに、どうして非難されねばならないのだ。
「どれ」
 意味のない声を上げて、私は机に向かった。山積みのファイルを押しのけ、スペースを確保し、理恵子さんから手渡されたメモを落とす。これらのメモは、理恵子さんが依頼内容を簡潔にまとめてくれた物だ。全部が全部、保険会社関係の調査依頼というわけではなく、浮気の証拠探しや素行調査、果ては迷い子の猫探しまで舞い込む。今朝の分は、昨日一日に届いた依頼にしては件数が多い。
「お薦めの物件はあるかな?」
「私は不動産屋じゃありませんので」
 冷たく言い放たれた。そもそも、彼女は主に経理ばかりやっているから、仕事の選り好みをしない。実際に調査する私からすれば、何でもかんでも引き受けるわけにはいかないのだが、それを分かってもらえない。
「支払い条件がいいのだったら、すぐにでも上から順に列挙してみせるけど」
 理恵子さんが言ったが、私はこれまでの経験から断る。支払い条件のよい依頼は、たいていが無茶な仕事なのだ。
 ぱらぱらとメモを眺めていたところ、ある単語が目に飛び込んできた。
「『殺人事件の犯人探し』だって?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

観察者たち

崎田毅駿
ライト文芸
 夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?  ――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サウンド&サイレンス

崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。

籠の鳥はそれでも鳴き続ける

崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つむいでつなぐ

崎田毅駿
ライト文芸
 物語はある病院の待合ロビーから始まる。言葉遊び的な話題でおしゃべりをしていた不知火と源に、後ろの席にいた子が話し掛けてきて……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

集めましょ、個性の欠片たち

崎田毅駿
ライト文芸
とある中学を中心に、あれやこれやの出来事を綴っていきます。1.「まずいはきまずいはずなのに」:中学では調理部に入りたかったのに、なかったため断念した篠宮理恵。二年生になり、有名なシェフの息子がクラスに転校して来た。彼の力を借りれば一から調理部を起ち上げられるかも? 2.「罪な罰」:人気男性タレントが大病を患ったことを告白。その芸能ニュースの話題でクラスの女子は朝から持ちきり。男子の一人が悪ぶってちょっと口を挟んだところ、普段は大人しくて目立たない女子が、いきなり彼を平手打ち! 一体何が?

処理中です...