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8.手探りのスタート
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「まず、当たり前だけど、神取さんとその奥さん、それから知子さん。知子さんのクラスメイトがたくさん来ていました。いちいち列挙するのは大変だから、こちらのリストを見て」
と、デウィーバーは一枚の紙を持ち出してきた。ワープロの印刷文字が並んでいる。ざっと見て、十余名といったところだろうか。
「これ、誰が作ったの?」
「知子さんらしいよ。警察に言われて、招いた友達を全部書いたそうです。そのコピーをもらいました」
「分かった。これについては、あとで知子っていう子に聞くとして……」
私は名前のリストを受け取ると、折り畳んでポケットに仕舞った。
「他には?」
「他は片岡博好さん、緑川千鶴子さんの二人だけだよ。片岡さんは親戚で、知子さんから見れば……。何て言うのか分からないけど、知子さんの母親の姉の息子さん」
「叔母の息子だから、従兄弟って言うんだ」
私は念のため、頭の中で確認してから、そう言った。ややこしい表現をされると、単純な間柄でも自信がなくなってしまう。
「ああ、それです、イトコだ。片岡さん、十九歳で大学一回生。緑川さんは知子さんの今の家庭教師で、大学三回生。歳は聞いてないよ」
「なるほど、エチケットか」
私が笑うと、デウィーバーはぱちりと音がしそうなウィンクを返してよこした。
「まあ、大学三回と言えば二十一ぐらいだろ。この二人、同じ大学なのかな?」
「そう。でも、片岡さんと緑川さんは、お互いのことを知らなかった。緑川さんが知子さんの家庭教師を始める前までは」
「待った。片岡は神取氏の家にちょくちょく顔を出しているのかい? そうでないと、いくら緑川が家庭教師になったからって、顔を合わせるとは思えないが……」
「ああ、忘れてた。片岡さんは、現在、神取氏の家に泊まり込んでいるのです」
「泊まり込んで? 家出でもしているのかっ?」
「違う違う」
私がびっくりしているのに、デウィーバーはのんびりと否定してくれた。
「自分の家よりも、神取さんの家の方が、大学に通うのに便利だから……」
「ああ、そういうことか」
納得してから、事件の話に戻る。
「この二人も、知子に懐かれているのかい?」
「そう、懐かれている」
デウィーバーは新しく覚えた言葉を使うのが嬉しそうだ。
「特に、片岡さんのことは兄のように慕っていると聞いたよ」
「ふうん。これで全員?」
「そうだよ。ああ、もちろん、僕もいたけど」
「結構。ここからが本題なのだが……神取氏を殺す理由を持っていそうな人物は、この中にいるだろうか? 君の知っている範囲でいい」
「残念だけど、それについてはさっぱり関知していない。そもそも、神取さんが殺されること自体、信じられないのだから」
「うーん、奥さんあるいは娘さんとの仲が悪かったとか、片岡を下宿させることに反対していたとか……」
「聞いたことがないよ。尤も、神取さんが日本に戻ってから、そう何度も出会っているわけじゃないからね。断定できない」
「そうか。動機についても、こちらで調べよう」
それから私は、人の出入りについて、相手から詳しく聞き出した。聞き終わって、
「うん、今日のところはこれでいい」
と、私は腰を上げた。
「どうにかなるのか、京極?」
さすがに興奮したような口調で、デウィーバーはまくし立てた。
「まだ分からない。でも、君を信じる。とりあえず、こうして解放されたんだから、それだけでも前途有望さ」
元気づけの言葉をかけてやる。本人が気力を失ってしまっては困る。実際、デウィーバーは参考人として事情聴取されたものの、現在は家(大学から貸与された住宅)に帰されている。当然、見張りは着いているのだろうが、こうして自由に話を聞き出せるのだから、ずいぶんと楽だ。
「京極」
家を出るとき、デウィーバーから声をかけられた。
「何だい?」
「来てくれて嬉しかったよ」
「私もだ。けれど、再会の祝杯は、今度の事件が片付いてからにしよう。これからだ」
私が親指をぐっと突き出すポーズをすると、デウィーバーも同じポーズをした。
「ああ。これからだね」
と、デウィーバーは一枚の紙を持ち出してきた。ワープロの印刷文字が並んでいる。ざっと見て、十余名といったところだろうか。
「これ、誰が作ったの?」
「知子さんらしいよ。警察に言われて、招いた友達を全部書いたそうです。そのコピーをもらいました」
「分かった。これについては、あとで知子っていう子に聞くとして……」
私は名前のリストを受け取ると、折り畳んでポケットに仕舞った。
「他には?」
「他は片岡博好さん、緑川千鶴子さんの二人だけだよ。片岡さんは親戚で、知子さんから見れば……。何て言うのか分からないけど、知子さんの母親の姉の息子さん」
「叔母の息子だから、従兄弟って言うんだ」
私は念のため、頭の中で確認してから、そう言った。ややこしい表現をされると、単純な間柄でも自信がなくなってしまう。
「ああ、それです、イトコだ。片岡さん、十九歳で大学一回生。緑川さんは知子さんの今の家庭教師で、大学三回生。歳は聞いてないよ」
「なるほど、エチケットか」
私が笑うと、デウィーバーはぱちりと音がしそうなウィンクを返してよこした。
「まあ、大学三回と言えば二十一ぐらいだろ。この二人、同じ大学なのかな?」
「そう。でも、片岡さんと緑川さんは、お互いのことを知らなかった。緑川さんが知子さんの家庭教師を始める前までは」
「待った。片岡は神取氏の家にちょくちょく顔を出しているのかい? そうでないと、いくら緑川が家庭教師になったからって、顔を合わせるとは思えないが……」
「ああ、忘れてた。片岡さんは、現在、神取氏の家に泊まり込んでいるのです」
「泊まり込んで? 家出でもしているのかっ?」
「違う違う」
私がびっくりしているのに、デウィーバーはのんびりと否定してくれた。
「自分の家よりも、神取さんの家の方が、大学に通うのに便利だから……」
「ああ、そういうことか」
納得してから、事件の話に戻る。
「この二人も、知子に懐かれているのかい?」
「そう、懐かれている」
デウィーバーは新しく覚えた言葉を使うのが嬉しそうだ。
「特に、片岡さんのことは兄のように慕っていると聞いたよ」
「ふうん。これで全員?」
「そうだよ。ああ、もちろん、僕もいたけど」
「結構。ここからが本題なのだが……神取氏を殺す理由を持っていそうな人物は、この中にいるだろうか? 君の知っている範囲でいい」
「残念だけど、それについてはさっぱり関知していない。そもそも、神取さんが殺されること自体、信じられないのだから」
「うーん、奥さんあるいは娘さんとの仲が悪かったとか、片岡を下宿させることに反対していたとか……」
「聞いたことがないよ。尤も、神取さんが日本に戻ってから、そう何度も出会っているわけじゃないからね。断定できない」
「そうか。動機についても、こちらで調べよう」
それから私は、人の出入りについて、相手から詳しく聞き出した。聞き終わって、
「うん、今日のところはこれでいい」
と、私は腰を上げた。
「どうにかなるのか、京極?」
さすがに興奮したような口調で、デウィーバーはまくし立てた。
「まだ分からない。でも、君を信じる。とりあえず、こうして解放されたんだから、それだけでも前途有望さ」
元気づけの言葉をかけてやる。本人が気力を失ってしまっては困る。実際、デウィーバーは参考人として事情聴取されたものの、現在は家(大学から貸与された住宅)に帰されている。当然、見張りは着いているのだろうが、こうして自由に話を聞き出せるのだから、ずいぶんと楽だ。
「京極」
家を出るとき、デウィーバーから声をかけられた。
「何だい?」
「来てくれて嬉しかったよ」
「私もだ。けれど、再会の祝杯は、今度の事件が片付いてからにしよう。これからだ」
私が親指をぐっと突き出すポーズをすると、デウィーバーも同じポーズをした。
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