マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿

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意外な打ち明け話

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「怪しまれてないのならいいんですが。この丸眼鏡に、女性の名前が刻んであったのをきっと見付けたのだろうなと思って。普通、変に感じるものでしょう、男が女性の名前の入った眼鏡を持っているなんて」
「確かに、お客様を探す手掛かりがないかと調べましたから、そのお名前にはもちろん気付いていました。ですが、怪しむなんてとんでもないです」
「そうですか。でも、気になってはいる。だから、先程からちらちらとこっちを窺っていた。そう推測したのですが」
「すみません。お客様が現在一人なので、様子を窺っているのは心配りのつもりだったのですが、視線が気になるようでしたらやめます」
 そうなんです実は凄く気になっていたんですよという本音は一応隠したまま、自然な対応に努めた。
「秋上さんは、どうして喫茶店を開かれたんです?」
「どうしてと言われましても……えっ今、私の名前を」
「お店の名前から当てずっぽうです」
 微笑みながら男性は続けた。
「他の店員さんと違っていつもおられるし、名札も唯一付けていない。となると、お店を経営している人なのは間違いない。名字まで言い当てられるかは、まあ六分四分ってところを見積もっていましたが、当たってよかったです」
「はあ」
 喋ってみると、かなり人なつっこい方だと分かってきた。むしろ、これまでが仮面を被っていたかのようにすら思える。
「秋上さん。僕は三沢慶重みさわよししげと言います」
「え? は、はい。ご丁寧に自己紹介までしていただいて」
 急な成り行きに、思考がついて行けない。眼鏡の女性名について説明してくれるというのだろうか。なるほど、名字は同じ“みさわ”のようだけれども。
「もう仕事は終わりましたし、守秘義務も解除されたので、全て打ち明けようと思いました。実を言いますと、僕は覆面調査員なんです」
「はい?」
 フクメンチョーサインという言葉が、脳内ですぐには漢字変換されなかった。無意識の内に、小首を傾げていた。
「具体的な企業名は明かせないのですが、格付けやランキングも行っているところとして、真っ先に浮かぶところです」
 言われてやっとピンと来た。異趣欄いしゅらんだわ。たとえば料理屋に調査員が身分を隠して入店し、一定のサービスを受けて、味や接客態度などを評価・採点。それらに従って、ランキングや格付けを行っている。最初は料理関係のみだったのが徐々に対象を広げていっている感があった。
「え、でも、うちはそんな、格付けの対象になるような店ではありませんが」
「はい。その通りなんですが」
 溜めは一切なく、肯定されると、ちょっと悲しい。
「喫茶店やカフェをまとめて評価するカテゴリーがないだけで、いずれ対象になるかもしれません。と、それでですね、この二週間から三週間ほどの期間、調査のために足を運んだのは、個人の方からの依頼でした」
「個人……そういうお仕事も引き受けるんですね」
「はい、部署が色々と多岐に渡っています。今回、僕は応援に駆り出された口なのですが」
「応援と言うからには、もしかして他にも調査員の方が?」
「はい。ただ、彼ら彼女らのことは詮索しないでください。正体がばれると、やりにくくなる職業なので」
 それなら今語っている三沢さんはどうなるのだろう、という疑問が湧いたが、それ以上に複数の覆面調査員が来ていたこと自体に、衝撃を受けていた。
「依頼は、あなたの普段の仕事ぶりの調査でした」
「もしや私の父や母が心配して……とかじゃないですよね」
「それは違います。本来であれば、こんな形で僕がお伝えすることにはならなかったんでしょうが……ご依頼主の方がお亡くなりになり、弊社への依頼に関しても、遺言書の中で指定がされていたため、説明の機会を探っていたところでした」
「……」
 まさか人の死が関わっているような話だとは想像だにせず、しばらくの間、黙り込んでしまった。

 つづく
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