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人間観察
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問題の……と言っては失礼に当たるわよね。調査対象のカレー屋さんは『和カレーの逢太郎』というのが店名だ。事前に検索などをして店について予備知識を得ないようにとのお達しが異趣欄から示されていたので、私も当然、何も調べていない。店名から想像するに、出汁を利かせた風味豊かなカレーライスなのかな? 激辛じゃなかったら何でもいいけれど、お出汁の味は好き。
時間帯は指定されていない。お店は午前十一時から夜十一時までの十二時間営業。なので、初日の月曜日は、一番真っ当な感じのお昼に行ってみることにした。大学からちょっと離れたところにあるため、三限目の講義をほんの少し自主短縮して、大教室の後方ドアからそっと抜け出し、店最寄りのバス停までバスに揺られて行く。
十二時半頃に着き、店までは徒歩五分ほど。角を曲がって店舗が見通せる位置に来ると、行列が見えた。あちゃ、待たされるのかしらと不安になったが、近くまで来て行列は短いと分かった。自分を入れて四人。店の構造上、食べ終えて出てくるお客の邪魔にならないよう、外に並ばざるをえないようだ。まあ、中で待たされるよりも外の方が、臭いが付かない分、いいかもしれない。
と、最後尾に並んですぐに、サラリーマン風の二人組が店を出て、さらに店のロゴ入りのエプロンをした女性店員が姿を現した。
「相席でかまいませんか」
その問い掛けに、列前方の二人は元々知り合いなのか、「かまいません」と即答し、店内に消えた。
ここでちょっぴり、違和感を覚える。
ルールを押し付けてくる頑固な店長がいるカレー屋と聞いていたせいか、「相席でかまいませんか」と確認してくることにギャップを感じたのだ。でもまあ、押し付けは食べ方とかマナーとかであって、座る場所ぐらいは客の意志に任せているということなのかもしれない。
普段なら待ち時間はスマホをいじっていることが多いのだけれど、今回は違う。覆面調査の仕事で来ている、しかも初仕事だ。調査項目の重要ポイントとはされていないけれども、店構えや店内の雰囲気なんかも見ておこうと、ちらちらと視線を送る。
外観はカレー屋というよりも、老舗のうどんかそば屋さんて印象。和風の建屋で、地面に置くタイプの店名看板と、メニューのサンプルを展示したショーケースがなければ普通の家に見えるかもしれない。尤も、壁の一部が大きくガラス張りになっていて、明らかに普通の家じゃないけど。
そのガラス張りの部分から中を窺うと、四人掛けのテーブル席が三つにカウンター席が六つから八つぐらい? つまり二十人ほどで満席かしら。当たり前だが、どの椅子もきれいに埋まっている様子。そして皆さん夢中になってカレーライスをかき込んでいる。ちょっとでも早く済ませて、席を空けようということなのかな。でも、行列は二人だけ。私の後ろには、まだ人はいない。そんなに急ぐ必要はないだろうに……ということは、味は期待していいってことよね、多分。
それよりも……。私はあまりじろじろ見すぎないように注意しながら、お客の表情を知ろうとした。お客への注文が多いカレー屋であるなら、言われたお客の方は大なり小なり、感情が表に出るんじゃないかと思ったのだ。そして、怒っているような人はいないとしても、苦虫を噛み潰したような、面白くなさそうにした人や、びくびくしながら食べている人がそこそこいるものと想像していた。
けれども――実際には拍子抜けした。少なくとも目の届いた範囲では、誰も先に述べたような顔つきにはなっていない。全員が笑顔という訳ではないものの、満足げに映る。
どういうことなんだろう。少し考えて、辻褄の合う答を見付けた。
現時点で店にいるお客は全員、常連さんなんだ。常連なら店のルールをよく承知していて、店長の機嫌を損ねることもない。きっとこれに違いない。
つづく
時間帯は指定されていない。お店は午前十一時から夜十一時までの十二時間営業。なので、初日の月曜日は、一番真っ当な感じのお昼に行ってみることにした。大学からちょっと離れたところにあるため、三限目の講義をほんの少し自主短縮して、大教室の後方ドアからそっと抜け出し、店最寄りのバス停までバスに揺られて行く。
十二時半頃に着き、店までは徒歩五分ほど。角を曲がって店舗が見通せる位置に来ると、行列が見えた。あちゃ、待たされるのかしらと不安になったが、近くまで来て行列は短いと分かった。自分を入れて四人。店の構造上、食べ終えて出てくるお客の邪魔にならないよう、外に並ばざるをえないようだ。まあ、中で待たされるよりも外の方が、臭いが付かない分、いいかもしれない。
と、最後尾に並んですぐに、サラリーマン風の二人組が店を出て、さらに店のロゴ入りのエプロンをした女性店員が姿を現した。
「相席でかまいませんか」
その問い掛けに、列前方の二人は元々知り合いなのか、「かまいません」と即答し、店内に消えた。
ここでちょっぴり、違和感を覚える。
ルールを押し付けてくる頑固な店長がいるカレー屋と聞いていたせいか、「相席でかまいませんか」と確認してくることにギャップを感じたのだ。でもまあ、押し付けは食べ方とかマナーとかであって、座る場所ぐらいは客の意志に任せているということなのかもしれない。
普段なら待ち時間はスマホをいじっていることが多いのだけれど、今回は違う。覆面調査の仕事で来ている、しかも初仕事だ。調査項目の重要ポイントとはされていないけれども、店構えや店内の雰囲気なんかも見ておこうと、ちらちらと視線を送る。
外観はカレー屋というよりも、老舗のうどんかそば屋さんて印象。和風の建屋で、地面に置くタイプの店名看板と、メニューのサンプルを展示したショーケースがなければ普通の家に見えるかもしれない。尤も、壁の一部が大きくガラス張りになっていて、明らかに普通の家じゃないけど。
そのガラス張りの部分から中を窺うと、四人掛けのテーブル席が三つにカウンター席が六つから八つぐらい? つまり二十人ほどで満席かしら。当たり前だが、どの椅子もきれいに埋まっている様子。そして皆さん夢中になってカレーライスをかき込んでいる。ちょっとでも早く済ませて、席を空けようということなのかな。でも、行列は二人だけ。私の後ろには、まだ人はいない。そんなに急ぐ必要はないだろうに……ということは、味は期待していいってことよね、多分。
それよりも……。私はあまりじろじろ見すぎないように注意しながら、お客の表情を知ろうとした。お客への注文が多いカレー屋であるなら、言われたお客の方は大なり小なり、感情が表に出るんじゃないかと思ったのだ。そして、怒っているような人はいないとしても、苦虫を噛み潰したような、面白くなさそうにした人や、びくびくしながら食べている人がそこそこいるものと想像していた。
けれども――実際には拍子抜けした。少なくとも目の届いた範囲では、誰も先に述べたような顔つきにはなっていない。全員が笑顔という訳ではないものの、満足げに映る。
どういうことなんだろう。少し考えて、辻褄の合う答を見付けた。
現時点で店にいるお客は全員、常連さんなんだ。常連なら店のルールをよく承知していて、店長の機嫌を損ねることもない。きっとこれに違いない。
つづく
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