マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿

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疑念の芽

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 首をねじった上に、やや前のめりになってそちらの方を見ると、小学生高学年ぐらいの男の子が二人、女の子が二人いて、男の子の一人が声を張り上げていた。
「だめだって言ったでしょ、こっちに来るの」
 例の女性店員がぱたぱたと控えめな小走りでドアへと向かい、子供四人を追い出そうとするかのように両腕を広げる。
「だっておうちの方、誰もいないんじゃないの。車は停まってるのに」
 女子の一人が不満そうに言い、最初に声を上げた男の子が続ける。
「ねえ、出て行くからさあ、安男君は? 昨日も今日も来なかったから心配なんだよ」
「ありがとね。――実は田舎のおじいさんが体調を崩して、孫に会いたいと言い出してね。おじいさんの病気がよくなるならって、安男は飛んで行ったのよ」
「えー、じゃあ旅行?」
「まあそのようなものかしらね。今週いっぱいは向こうにいると思う。だから、心配いらないのよ」
 早口でまくし立てるように話すと、女性店員は「さあさあ、出た出た」と子供らを帰した。
 想像するに……あの女性店員は店主の奥さんか少なくとも身内で、安男(※漢字はずっとあとで知った)という子は店主のお子さん。月曜から学校を休んでいるので心配した同じ組の友達が様子を見に来た、ってところかな。でも、クラス担任は何してるんだろう? 普通、クラスメートの一人が休んだのなら、その理由を皆に伝えるだろうに。
 うん? 今日、店主の姿が見えないのも、そのおじいさん――店主から見れば父親の具合が相当に悪くて、田舎の実家へ駆け付けたってことなんじゃないかしら。これなら昨日、普段通りにお客へあれこれ注文を付けなかったのも合点がいく。父親の病状が心配だったのだ。
 女性店員に尋ねても、そういった話が出ないのもこれまた当たり前だろう。プライベートなことなんだから。
 少しすっきりした。
 とはいえ、これってどうなるのかなあ。覆面調査を続けても意味がないような気がしてきたけど、異趣欄からの指示はないし。こちらから言わない限り、何ら把握してないのかな。そんなはずないと思うんだけど。
 覆面調査のアルバイトに入って以降は、心理的な影響を受けるのはよくないからと、グルメランキングサイトを覗くのはやめにしているけれども、多分、このお店『和カレーの逢太郎』の欄には新たな書き込みが行われたはずだ。名物店主が店ルールを押し付けてこなくなった、という意味のことを書かれてしかるべき。そして異趣欄はそれくらいの動向、掴んでいていいと思うのよね。広い意味でそれが仕事なんだから。
 ましてや今日は、その店主が不在。絶対に書き込みがあるだろう。ランキングサイトに直接じゃないにしても、ツイッターとかブログとかで。そりゃまあ、今の店内を見渡しても、スマホをいじってる人はいないし、写真を撮ってネットに上げそうなタイプも見当たらないけど。

 二日目は不可抗力とは言え、またも店ルールの洗礼を浴び損なった。今日こそはという思いで出発。水曜日は授業の関係で、昼を大幅に過ぎる午後二時以降になるのは当初から分かっていたけれども、夕飯の時間に回そうと思わなかったのは、早く成果を上げたいからかもしれない。
 という訳で、午後二時十分に入店。時間帯のせいだろう、さすがに行列はできてなかった。当然、カウンター席に座る。
 大学でのお昼は味も素っ気もない小さなロールパン一つで済ませていたので、おなかはすいている。ちょっと多めの、でもカロリーはできるだけ抑えめのメニューはないかしらと探すと、素揚げした野菜をトッピングしたカレーライスがあった。衣のある揚げ物よりはましだと信じ、これにする。
 例によっていつもの女性店員に注文を伝える。今日は何故かにこやかさが消え、どことなく硬い表情で応対された。三日連続で現れたことに、呆れているのだろうか。
 さて、厨房の中に目を移すと、店主がいることはすでに確認済み。よかった。続けて休まれたらどうしようと、実は心配だったのだ。昨日の想像が当たっているとしたら、店主から見て父親に当たる人の症状はよくなったのかな。よく見ると、店主の表情も何となくか硬くて、暗い感じを受ける。おかしいなぁ。
 私が小首を傾げたタイミングで、店主と目が合った。「あ、ど、どうも」って感じで頭をちょこんと下げる。
 店主の方は口を開いたので、何か言うのかと身構えた私だったけど、またすぐに閉じてしまった。何なのよ。念願の指導を食らうかと思ったのに。本格的に疑うべきかなあ、方針転換したんじゃないかって。

 つづく
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