集めましょ、個性の欠片たち

崎田毅駿

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まずいはきまずいはずなのに その1

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「ごめん。短い間だったけれども、もう手を引かせて欲しい」
 調理部を新たに作るために大きな力になってくれた平田ひらた君から、突然言われた。私は足元から頽れそうになるのを、必死に堪えた。活動はうまく行っていたし、個人的にも平田君とはいい感じになりつつあるんじゃない?と思っていたから、ショックは大きかった。

 ~ ~ ~

 その年の春、私・篠宮理恵しのみやりえのクラス、二年二組に転校生がやって来た。色白で、中学生にしては背がまあまあ高くて、大人しそうな見た目の男の子。
 平田真嗣まさつぐですと自己紹介したその声も、見た目からの想像にほとんど重なっていて、優しげな口ぶりだった。愛知県から東京の方へ越してきた飛んだけど、訛りは特に感じられない。
 多分、その初対面の時点で、私は彼をいいなと感じ、気になる存在として見ていたんだろう。ただ、実際には声を掛けるなんて行動には出なかった。会話といえば、学校生活を送る上で、必要に迫られたときに必要なことを話す程度。
 そのまんまの状況が続いていたとしたら、私が平田君に個人的な要件で話し掛ける機会は、巡ってこなかったかもしれない。
 変化をもたらしたのは、梅雨半ばの放課後。何の部活にも参加していなかった私――調理部のような倶楽部があれば参加してみたかったんだけれどもあいにくとなく、一年生の身分で新しく起ち上げる積極性もなかった――は、早々に帰り支度を終えて、仲のいい友達と三人一緒に廊下をのんびり歩いていた。職員室前に差し掛かり、中からちょうど出て来たのはクラス委員長の中村なかむら君とその親友、高杉たかすぎ君。一番勉強のできる優等生と一番運動の得意なガキ大将の組み合わせだ。高杉とは小学校のときからよくクラスが一緒になったけれども、ほんと、いたずら好きで先生も周りの女子も手を焼かされた。そんな悪ガキが中村君の一番の親友なんて、分からないものだわ。
 それはさておき、二人は職員室に向かって、「失礼しました~」と挨拶をするや、すぐにおしゃべりに入った。その中身が、すれ違い様に私達の耳にも届く。
「な、言った通りだったろ?」
「うん、よく気付いたなと感心するよ」
 高杉が言い、中村君が肯定する。
「いや、一度でもテレビで見てたら、誰だって気付くさ。平田があのクック・タイラーと何か関係あることぐらい」
 え?
 私は友達三人と顔を見合わせた。クック・タイラーは日本人シェフのタレント名。本名は公表されているのかどうかも含めて、知らない。イケメンでしゃべり上手なシェフとして、情報バラエティ番組に時々出演しており、そこそこ有名だ。
 あのタイラーと平田君にどんなつながりが? 気になって、私達は足を止め、反対方向に歩く男子二人を目で追っていた。
「ただ、息子を紹介していたのは一度きりだが」
 つまり、平田君はクック・タイラーの子供? 言われてみれば面立ちが似ているかも。
 そのとき、友達の一人、多田たださんが「辛抱できない!」と短く口走ったかと思うと、前を行く中村君達にあっという間に追い付いた。そして委員長に話し掛け、何だかんだと聞き出して戻って来た。
「高杉が、平田君とクック・タイラーが似てると気付いたけど、いきなり騒ぎ立てて間違っていたら格好悪いから、委員長に相談したんだって。中村君はよく分からかなかったから、青山あおやま先生に聞いてみたらという話になり、今に至る、だってさ」
「クラス担任の青山先生なら、平田君の家の事情を知ってて当たり前ね。じゃ、芸能人に友達とかいるのかしら」
 真鍋まなべさんが声を弾ませた。真面目だけどミーハーなところがある。
「それが、あまり騒ぎ立てるなと先生から注意が。私も念押しされちゃった」
「えー、残念」
「唯一、平田君のお父さんのことなら、話題にしてもいいみたい。サイン頼むとかも」
「それが限度かぁ。仕方ないね。明日にでもサイン、頼んでみようかしら」
 二人のやり取りを聞きながら、私には気になることができていた。それを二人に言ってみる。
「クック・タイラーの子供なら、料理得意かな?」
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