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三通目
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出川への見舞いは、事故の翌日にちょっと顔を出せただけで、あとはなかなか行けなかった。家庭教師のバイトがある等したためだが、四日目にしてようやく足を運べた。
捻挫は幸い軽度なものだったとかで、その頃にはもう部屋の中では歩けるようになっていた。
「学校、明日にはもう行こうかと思ってる」
ソファ型ベッドに足を投げ出すようにして横たわり、出川が言った。手には文庫本。推理研再起ち上げの話に影響を受けたのか、彼が今まで読まなかったようなミステリだ。本棚にも、前来たときにはなかった赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズや、鮎川哲也のアリバイ崩し物、そして西村京太郎の名探偵シリーズ等が数冊ずつ並んでいる。うーん、古典から勉強しようというはらか。
「一人でか? バスになるんだろ? 平気なのか」
見舞い品の洋菓子を開封し、個包装を適当に取り出し、渡してやる。もののついでに、インスタントコーヒーを入れてやろう。
「多分ね。自宅だったら親から、怪我の翌々日には松葉杖ついてでも行けって言われてるところだ。これ以上休んじゃいられん」
「おまえがその気ならそれでいいや。あ、怪我のこと、僕からは誰にも言ってないんだが」
「誰にもとは?」
文庫本を伏せて置き、身体を起こす出川。僕はやかんが音を立てたので火を止めて、カップに注いだ。
「友達――桧森とか柏原さんとかさ」
「別にいいよ。桧森はさておき、柏原さんに言ったら、あの封筒のことと結び付けかねない」
できあがったコーヒーを渡してやりながら、僕は私見を述べることにする。
「いや、僕も結び付けて考えてしまうんだが。出川はどう思うのか、聞かせてくれ」
「え、何で。関係あるとは全く思えないんだけど。僕って柏原さんに対して敵意とか悪意とか持っているように見える?」
「見えない。でもそれは、僕が出川蒼馬という人間を知っているからかもしれない。差出人には、柏原さんに言い寄ってくる野郎の一人、ぐらいに見なしている可能性は否定できないだろ。無論、僕だって同じだ。狙われるんじゃないかと、内心びくついているよ」
「……」
不意に黙りこくった出川。僕は相手の顔の前で手を軽く振った。
「どうした?」
「あ、いや。僕も大崎を見て、悪い虫には見えないなと感じたまで。それでも襲われる心配をするってことは、客観的に考えて、僕もまだ用心すべきなのかなと。ああっ、うまく言えないや」
「一度襲った相手を再び襲うのはないと信じたい。あるとしたら、それはもう警告じゃなくて、殺してでも排除するっていう意思表示だからな」
「殺してでも排除か……柏原さんの義理の父親をめった刺しにして殺したときも、そういう気持ちだったのかねえ?」
不意打ちのような話の展開に、僕は何ら返事ができず、それどころか相槌すら打てなかった。
「うん? 大崎?」
「ああ。ゴミ、捨てといてやるよ」
破いた個包装をまとめて掴んで、ゴミ箱に入れた。
と、そのとき僕の携帯端末の通話呼び出しが鳴った。
「――柏原さんからだ」
「へえ。僕も早く修理から返って来ないかな」
事故で壊れた出川の端末は、意外にも修理できる可能性ありと判定され、直してみることにしたらしい。
あ、しまった。今は柏原さんとの電話を優先しなくては。「はいもしもし」と電話に出ると、返って来た彼女の声は切羽詰まった感がにじみ出ていた。
「今日はもう学校にいないのよね。これから会えない? あの封筒がまた来たのだけれど、内容がエスカレートしてるっていうか」
「またか。どこに行けばいい?」
「大崎君に合わせる。できれば二人で」
「――いいよ」
出川の怪我のこと、話してないよなと、頭の中で再確認した。
何で二人なんだ? 出川と同じ講義を取っている奴なら知り得るから、そこから流れ出た話が伝わったのかな等と想像しつつ、一方では彼女と二人きりで会うのは嬉しくもあった。
捻挫は幸い軽度なものだったとかで、その頃にはもう部屋の中では歩けるようになっていた。
「学校、明日にはもう行こうかと思ってる」
ソファ型ベッドに足を投げ出すようにして横たわり、出川が言った。手には文庫本。推理研再起ち上げの話に影響を受けたのか、彼が今まで読まなかったようなミステリだ。本棚にも、前来たときにはなかった赤川次郎の三毛猫ホームズシリーズや、鮎川哲也のアリバイ崩し物、そして西村京太郎の名探偵シリーズ等が数冊ずつ並んでいる。うーん、古典から勉強しようというはらか。
「一人でか? バスになるんだろ? 平気なのか」
見舞い品の洋菓子を開封し、個包装を適当に取り出し、渡してやる。もののついでに、インスタントコーヒーを入れてやろう。
「多分ね。自宅だったら親から、怪我の翌々日には松葉杖ついてでも行けって言われてるところだ。これ以上休んじゃいられん」
「おまえがその気ならそれでいいや。あ、怪我のこと、僕からは誰にも言ってないんだが」
「誰にもとは?」
文庫本を伏せて置き、身体を起こす出川。僕はやかんが音を立てたので火を止めて、カップに注いだ。
「友達――桧森とか柏原さんとかさ」
「別にいいよ。桧森はさておき、柏原さんに言ったら、あの封筒のことと結び付けかねない」
できあがったコーヒーを渡してやりながら、僕は私見を述べることにする。
「いや、僕も結び付けて考えてしまうんだが。出川はどう思うのか、聞かせてくれ」
「え、何で。関係あるとは全く思えないんだけど。僕って柏原さんに対して敵意とか悪意とか持っているように見える?」
「見えない。でもそれは、僕が出川蒼馬という人間を知っているからかもしれない。差出人には、柏原さんに言い寄ってくる野郎の一人、ぐらいに見なしている可能性は否定できないだろ。無論、僕だって同じだ。狙われるんじゃないかと、内心びくついているよ」
「……」
不意に黙りこくった出川。僕は相手の顔の前で手を軽く振った。
「どうした?」
「あ、いや。僕も大崎を見て、悪い虫には見えないなと感じたまで。それでも襲われる心配をするってことは、客観的に考えて、僕もまだ用心すべきなのかなと。ああっ、うまく言えないや」
「一度襲った相手を再び襲うのはないと信じたい。あるとしたら、それはもう警告じゃなくて、殺してでも排除するっていう意思表示だからな」
「殺してでも排除か……柏原さんの義理の父親をめった刺しにして殺したときも、そういう気持ちだったのかねえ?」
不意打ちのような話の展開に、僕は何ら返事ができず、それどころか相槌すら打てなかった。
「うん? 大崎?」
「ああ。ゴミ、捨てといてやるよ」
破いた個包装をまとめて掴んで、ゴミ箱に入れた。
と、そのとき僕の携帯端末の通話呼び出しが鳴った。
「――柏原さんからだ」
「へえ。僕も早く修理から返って来ないかな」
事故で壊れた出川の端末は、意外にも修理できる可能性ありと判定され、直してみることにしたらしい。
あ、しまった。今は柏原さんとの電話を優先しなくては。「はいもしもし」と電話に出ると、返って来た彼女の声は切羽詰まった感がにじみ出ていた。
「今日はもう学校にいないのよね。これから会えない? あの封筒がまた来たのだけれど、内容がエスカレートしてるっていうか」
「またか。どこに行けばいい?」
「大崎君に合わせる。できれば二人で」
「――いいよ」
出川の怪我のこと、話してないよなと、頭の中で再確認した。
何で二人なんだ? 出川と同じ講義を取っている奴なら知り得るから、そこから流れ出た話が伝わったのかな等と想像しつつ、一方では彼女と二人きりで会うのは嬉しくもあった。
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