コフィン・ウォーカー:疫病と棺桶

崎田毅駿

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(……これから……どうするか)
 小屋に戻り、壁にもたれながら、エイカーは考えていた。
(エイカ病は、この先の市や町、村でも猛威を奮っているはず。それなのに、ザッケン病患者が……。私は一度、ザッケン病にかかったから、もうザッケン病患者にはなれないし……やはり、誰か、ザッケン病の人間を見つけなくては)
 天を仰ぐエイカー。落胆する彼の耳に、騒がしい歓声が届いてきた。子供達のものらしい。エイカーは一瞬だけ迷ってから、小屋の中から、外を窺った。
 子供は、まだ小学校に通うぐらいの子ばかり、六人ほどいた。みんな、てんでばらばらに走り回っているところを見ると、追いかけっこでもしているのか。
 その中の一人が、急に立ち止まった。
「おまえ、どうしたんだ?」
「え? 何?」
 指差された子供の方も立ち止まる。その子の顔に、エイカーは見覚えがあった。エイカ病患者として、治療してあげた子供の一人だった。
「顔、ぶつぶつができてるぞ。なあ、みんな?」
 その子の一声で、追いかけっこは中断された。他の四人も、ぞろぞろと集まって来る。
「あ、本当だ」
「近所のお兄ちゃんみたいに、吹き出物ができてる」
 エイカーには理解しにくかったが、どうにかそれだけ聞き取れた。なるほど、目を凝らしてみると、問題の子の顔には、ぶつぶつが浮かび上がっている。遠目にも分かるほどで、かなり目立つ。
「病気じゃないか?」
 ある一人の子の言葉で、エイカーははっとした。
(もしかしたら……。ザッケン病にかかっている? いや、そんな馬鹿な)
 エイカーは首を振って、自分の疑念を払拭しようとした。
(あの子はエイカ病にかかっていたとき、治療のため、ザッケン病にかかったはず。だから、ザッケン病の症状は表面に出ないはずだ)
 しかし、その子はザッケン病の初期の症状を呈している……。
(本当にザッケン病にかかっているのなら、症状が進めば、足に来る。早い内に、安静にさせないと……)
 飛び出すべきかどうか、逡巡するエイカー。
 そのとき、エイカーの頭に閃くものがあった。
(そ、そうか! あの子の親が慌て者だったんだな。いやいや、慌て者は私も同じか。風邪か何かで熱が出たのを、エイカ病にかかったものと早合点し、私のところへ子供をかつぎ込んだ。私は、エイカ病患者でないあの子に、ザッケン病を移していたんだ。健康な身体に移せば、症状が現れるに決まっている)
 エイカーは自分の失敗に、光明を見い出していた。
(よし……)

「いましたか?」
「いないんです。それどころか、よそのお子さんまで、いなくなっているみたいなんです」
「何ですと?」
「あ、あの、私が聞いた範囲だと、この区の子供達の半分以上が、いなくなっているようなんです。これは一体……」
「役場に聞いてみたら、他の区でも、子供が消えているって……。ひょっとしたら、市の子供のほとんどがいなくなっているんじゃあ……」
「ば、馬鹿な」
「どうなっているんだ。さっぱり分からん」
「子供達には、黒いぶつぶつができていたよな」
「ええ、うちの子も。あ、そう言えば、いなくなった子はみんな……」
「知っているか? ちょっと前から、子供達の間で、いじめが起こっていたんだ。あのぶつぶつ、エイカーの奴が連れていた怪物のぶつぶつにそっくりだそうだ。だから、それを理由にいじめや喧嘩が……」
「……まさか……エイカーの呪い……」
「悪い冗談はよせ! あいつは出て行ったんだ。どこか遠くにな」

 エイカーの足どりは軽かった。その背後には、何人もの子供達が連なって歩いている。誰もが、頭にすっぽりと覆いをかぶっている。
「みんな、足、痛くない? 歩ける?」
 エイカーは振り返り、大声で言った。無論、子供達に分かるように、慣れない言葉を駆使して。
「平気だよ!」
 元気のいい返事があった。
 エイカーは驚いていた。大人に比べて、子供のザッケン病は進行が遅いようだ。熱もさほど高くない。これなら、次の街まで楽に行ける……。
「もうすぐだから、頑張って。きっと、顔のぶつぶつは取れるから」
「うん!」
 エイカーの旅は、まだまだ終わらない――。

――完
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