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28.準決勝は純な結晶
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が、開原も右足首の痛みがいよいよ強まっていた。この肝心なときに、股裂きの極めが緩んでしまったのだ。
水橋は機会を逃さず右足を引いてレッグスプレッドから逃れると同時に、ヒールホールドもその角度をずらして極めさせまいとする。
開原は股裂きから逃げられたことで自分の足を戻し、水橋の左足に絡める。これにより相手の動きを制限し、改めてヒールホールドを完成させようという狙いだ。
しかし……現代MMAでは足狙いはリスクが大きいとされる。一瞬で極められないと、掛けられた側の選手は起き上がって打撃を顔面や頭部に落としてくる。それを防いでいたのが股裂きだったのだが、今は解けてしまった。
両足を絡めるだけで、水橋が身体を起こすのを止められるか? その攻防が注目されたが、結果はあっさりと出た。
水橋はまず上半身だけを起こすと、なりふり構わず、開原の負傷している右足首に肘を落とし続けた。しばらく耐えた開原だが、三十秒ほどで力尽きた。
よほどの激痛が走ったか、絡めた足だけでなく、ヒールホールドの形になっていた手まで離すと、両腕でマットをバンバンと二度叩き、ギブアップの意思表示をしたのだった。
続いて、準決勝の一試合目となる佐波と伊藤の顔合わせ。二人の間にはすでに格差があり、普段は滅多に組まれないし、今までのシングルマッチ対戦成績も佐波の全勝できている。
だが、今回は注目度が違った。何と言っても伊藤は、志貴斗からの刺客を返り討ちにしたヒーローなのだ。将来のエース候補の一画である佐波に勝てはしないまでも、大いに善戦するんじゃないかという期待が高まっていた。
この試合もスタート時点からのガチンコで、OFGは未着用で行われることが決められた。
ところが試合開始前、伊藤が仕掛けを打ってきた。一回戦で森内がやったように、OFGを両手に着けて入場してきたのだ。
取り決めに反するが、伊藤には外すように言われることはない自信があった。井関を倒した自分には追い風が吹いていると分かっていたから。
(総合格闘技の奴に勝った俺がグローブを着けて上がっても、特におかしくはないだろう。観客は支持してくれるはず。さらに、将来のエースと見込まれる佐波先輩が下っ端から挑まれたグローブ勝負を、観客が見ている前で拒めるか? いや無理に違いない。プライドに賭けても先輩はこの勝負を受ける。受けざるを得ない)
この伊藤の読みは半分当たり、半分は外れた。
伊藤がOFG着用で現れたことで盛り上がる観客は、佐波が応じることに期待しているのは明らかだった。しかし、佐波は伊藤が持って来たもう一組のグローブを、払い落とした。
拒否かと思いきや、佐波はマイクを取ると高らかに宣言した。
「伊藤、おまえは着けとけ。おまえだけがパンチを使える条件でいいぜ」
一段と盛り上がる中、ゴング。伊藤が小刻みにジャブを繰り出しつつ、距離を詰めんとするもかわされる。ならばと途中まではジャブで追い、いきなりタックルに切り替える伊藤。が、これもうまく切られた。しかも佐波は余裕を見せたいのか、潰した相手にさらなる攻撃を仕掛けることなく、立ち上がってブレーク。
なめられたと感じたか、伊藤はむきになってタックルに行く。かわす佐波。この攻防が三度重ねられたあと、四度目で伊藤が早くも切り札を出した。
井関を仕留める端緒となった、フライングヘッドバッドをタックルに見せ掛けた動作から放ったのだ。執拗なタックル攻勢もフライングヘッドバッドで意表を突くための見せ掛けだったと言える。
しかし、過去に一度披露されている秘策は、対策もされやすい。事実、佐波はヨーロッパ式フライングヘッドバッドが飛んでくるのを待ち構えていた。
佐波は前蹴り、否、サッカーでいうところのオーバーヘッドキックのような動作で応戦した。飛んでくる相手の頭部を狙って蹴りを出すと同時に、万が一空振りしても上半身は自ら横倒しになっている、つまり身を伏せたのと一緒であるから、ヘッドバッドもらうことはない。
この対策は大成功だった。佐波の右つま先は伊藤の顎をきれいに捉え、フライングヘッドバッドを見事、撃ち落とした。
蹴りをもろに食らった伊藤はマットに撃墜、そのまま失神KO負けとなった。時間にしてわずか百秒の、しかし観ている者を熱狂させる結末だった。
準決勝のもう一試合、水橋対鬼頭の試合はある意味、佐波対伊藤以上に呆気ない決着となった。
この試合もまたスタート時点からガチンコとの取り決めで行われたのだが、何と、鬼頭がゴング前から仕掛けて場外乱闘に持ち込むという幕開け。開始のゴングが鳴る前だから、真剣勝負ではなく、プロレスとして付き合うべきなのかどうか、水橋が迷っている間にも鬼頭は鉄柱や折り畳み椅子を利した凶器攻撃に、かきむしりや首締めと反則のオンパレード。レフェリー判断で場外戦が続いている中、ゴングが鳴らされて試合が正式に始まるという、総合格闘技ではあり得ない形で幕を切った。
続く
水橋は機会を逃さず右足を引いてレッグスプレッドから逃れると同時に、ヒールホールドもその角度をずらして極めさせまいとする。
開原は股裂きから逃げられたことで自分の足を戻し、水橋の左足に絡める。これにより相手の動きを制限し、改めてヒールホールドを完成させようという狙いだ。
しかし……現代MMAでは足狙いはリスクが大きいとされる。一瞬で極められないと、掛けられた側の選手は起き上がって打撃を顔面や頭部に落としてくる。それを防いでいたのが股裂きだったのだが、今は解けてしまった。
両足を絡めるだけで、水橋が身体を起こすのを止められるか? その攻防が注目されたが、結果はあっさりと出た。
水橋はまず上半身だけを起こすと、なりふり構わず、開原の負傷している右足首に肘を落とし続けた。しばらく耐えた開原だが、三十秒ほどで力尽きた。
よほどの激痛が走ったか、絡めた足だけでなく、ヒールホールドの形になっていた手まで離すと、両腕でマットをバンバンと二度叩き、ギブアップの意思表示をしたのだった。
続いて、準決勝の一試合目となる佐波と伊藤の顔合わせ。二人の間にはすでに格差があり、普段は滅多に組まれないし、今までのシングルマッチ対戦成績も佐波の全勝できている。
だが、今回は注目度が違った。何と言っても伊藤は、志貴斗からの刺客を返り討ちにしたヒーローなのだ。将来のエース候補の一画である佐波に勝てはしないまでも、大いに善戦するんじゃないかという期待が高まっていた。
この試合もスタート時点からのガチンコで、OFGは未着用で行われることが決められた。
ところが試合開始前、伊藤が仕掛けを打ってきた。一回戦で森内がやったように、OFGを両手に着けて入場してきたのだ。
取り決めに反するが、伊藤には外すように言われることはない自信があった。井関を倒した自分には追い風が吹いていると分かっていたから。
(総合格闘技の奴に勝った俺がグローブを着けて上がっても、特におかしくはないだろう。観客は支持してくれるはず。さらに、将来のエースと見込まれる佐波先輩が下っ端から挑まれたグローブ勝負を、観客が見ている前で拒めるか? いや無理に違いない。プライドに賭けても先輩はこの勝負を受ける。受けざるを得ない)
この伊藤の読みは半分当たり、半分は外れた。
伊藤がOFG着用で現れたことで盛り上がる観客は、佐波が応じることに期待しているのは明らかだった。しかし、佐波は伊藤が持って来たもう一組のグローブを、払い落とした。
拒否かと思いきや、佐波はマイクを取ると高らかに宣言した。
「伊藤、おまえは着けとけ。おまえだけがパンチを使える条件でいいぜ」
一段と盛り上がる中、ゴング。伊藤が小刻みにジャブを繰り出しつつ、距離を詰めんとするもかわされる。ならばと途中まではジャブで追い、いきなりタックルに切り替える伊藤。が、これもうまく切られた。しかも佐波は余裕を見せたいのか、潰した相手にさらなる攻撃を仕掛けることなく、立ち上がってブレーク。
なめられたと感じたか、伊藤はむきになってタックルに行く。かわす佐波。この攻防が三度重ねられたあと、四度目で伊藤が早くも切り札を出した。
井関を仕留める端緒となった、フライングヘッドバッドをタックルに見せ掛けた動作から放ったのだ。執拗なタックル攻勢もフライングヘッドバッドで意表を突くための見せ掛けだったと言える。
しかし、過去に一度披露されている秘策は、対策もされやすい。事実、佐波はヨーロッパ式フライングヘッドバッドが飛んでくるのを待ち構えていた。
佐波は前蹴り、否、サッカーでいうところのオーバーヘッドキックのような動作で応戦した。飛んでくる相手の頭部を狙って蹴りを出すと同時に、万が一空振りしても上半身は自ら横倒しになっている、つまり身を伏せたのと一緒であるから、ヘッドバッドもらうことはない。
この対策は大成功だった。佐波の右つま先は伊藤の顎をきれいに捉え、フライングヘッドバッドを見事、撃ち落とした。
蹴りをもろに食らった伊藤はマットに撃墜、そのまま失神KO負けとなった。時間にしてわずか百秒の、しかし観ている者を熱狂させる結末だった。
準決勝のもう一試合、水橋対鬼頭の試合はある意味、佐波対伊藤以上に呆気ない決着となった。
この試合もまたスタート時点からガチンコとの取り決めで行われたのだが、何と、鬼頭がゴング前から仕掛けて場外乱闘に持ち込むという幕開け。開始のゴングが鳴る前だから、真剣勝負ではなく、プロレスとして付き合うべきなのかどうか、水橋が迷っている間にも鬼頭は鉄柱や折り畳み椅子を利した凶器攻撃に、かきむしりや首締めと反則のオンパレード。レフェリー判断で場外戦が続いている中、ゴングが鳴らされて試合が正式に始まるという、総合格闘技ではあり得ない形で幕を切った。
続く
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