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2-1.時は流れて……今に至る経緯その一
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****年、長らく、かつ極端に落ち込んでいた日本のリングスポーツ――プロレス・格闘技の興行が、ようやく暗いトンネルを脱しようとしていた。
そもそもの凋落の端緒となったとされるのが、十三年ほど前の出来事。当時、国内最大のプロレス団体であったイースタンプロレスと、老舗総合格闘技団対の志貴斗とが対抗戦に踏み出した、その第一弾の大会である。
興行自体は超満員の観客を集め、大いに盛り上がっていたのだが、メインイベントで事件が発生した。対抗戦に至るまでの因縁――盛り上げるためのアングルではなく、実際の――が絡んで、イースタンプロレスのエース兼社長たる道山が命を落とした。
絶対的な存在を急に失ったことで、イースタンプロレスは混乱に見舞われる。次代のエースとして活躍し、すでに人気を得ていた長羽と実木が袂を分かち、団体が分裂。年下で弟分の実木が、長羽の後塵を拝するのをよしとしない性格もあって、イースタンプロレスを乗っ取った。
長羽は実木の動きを事前に察知し、本来のイースタンプロレスを守ろうと道山家と連携して防衛線を張ることに奔走するも、一部レスラーと背広組の裏切りに遭い、苦境に立たされる。幸いにもイースタンプロレスを中継してくれていたテレビ局は道山家の味方で、実木よりも長羽を高く買っている。テレビ局の協力を得て、長羽は独立、新団体・太平洋プロレスを旗揚げする。海外の外国人招聘ルートをいち早く確保したことで、長羽は強豪外国人レスラーを相手にこれまで通りのプロレスを見せていく。
対する実木はイースタンプロレスを引き継いだつもりでいたが、上述の通り、道山家とは絶縁、テレビ局は離れ、外国人も大物を呼べそうにないと計算違いが表面化。新体制になってから一年はネットでの無料中継のみと苦戦を強いられる。格闘技としてのプロレスを標榜する実木らは、志貴斗との対抗戦継続で活路を開こうとする。しかし事件の影響で最も名を落としていた志貴斗と組むのはマイナスの方が大きいとの判断が経営陣によってなされ、結果、実木は他の格闘技の有名選手(ただし引退済みか、引退間際、アマチュアに限る)との異種格闘技戦に活路を見出した。実木は圧倒的強さを見せたものの、総合格闘技ルールの凄みを知るファンの中には拒絶反応を示す者も多く、イースタンプロレスは見る者にとって好き嫌いの差が大きい団体となった。
志貴斗は志貴斗で、関係者が暴力沙汰を起こした挙げ句に道山の命を奪ってしまうという大スキャンダルに見舞われ、立て直しに四苦八苦。イースタンプロレスからの対抗戦継続は渡りに船であったが、話は頓挫。一度付いたダーティなイメージを払拭するのはなかなか厳しく、こちらも人気は低迷する。ただし、真剣勝負を好むコアなファンには大いに受け、熱狂的支持によってしばらくは持ちこたえていた。
太平洋プロレスの長羽は順調な滑り出しを見せたものの、プロレス全体のイメージが悪くなった影響に巻き込まれ、緩やかながら人気は下降線を描いていく。さらに、実木からの挑発――太平洋プロレスはショー、うちこそが本物――というある意味アンタッチャブルなポイントに敢えて的を絞った攻撃を受け、従来のプロレスだけでは頭打ちになるのは目に見えていた。そこで実木の技術的師匠格で実木自身一度も勝っていない古豪外人レスラー、クラウス・ゴーシュを招聘し、シングルマッチで長羽が完勝するというストーリーを展開。計画通りの試合結果になったものの、大きな誤算もあった。負け役として呼ばれたゴーシュだが、長羽との一騎打ちでの充分な見せ場を要求してきた。要求を入れた長羽、ゴーシュの関節技や裏技に翻弄されてみせたのだが、アクシデントなのか故意なのか、膝を傷めてしまう。加えて、長身の長羽が受けるにはなかなか厳しいジャーマンスープレックスホールドを食らった結果、首にも大ダメージを負った。結局、クラウス・ゴーシュからの勝利と引き換えに、長羽はレスラー寿命を縮めてしまう。一線を退こうにも、後継者作りがまだ間に合っておらず、無理をせざるを得ない状況に追い込まれた。
続く
そもそもの凋落の端緒となったとされるのが、十三年ほど前の出来事。当時、国内最大のプロレス団体であったイースタンプロレスと、老舗総合格闘技団対の志貴斗とが対抗戦に踏み出した、その第一弾の大会である。
興行自体は超満員の観客を集め、大いに盛り上がっていたのだが、メインイベントで事件が発生した。対抗戦に至るまでの因縁――盛り上げるためのアングルではなく、実際の――が絡んで、イースタンプロレスのエース兼社長たる道山が命を落とした。
絶対的な存在を急に失ったことで、イースタンプロレスは混乱に見舞われる。次代のエースとして活躍し、すでに人気を得ていた長羽と実木が袂を分かち、団体が分裂。年下で弟分の実木が、長羽の後塵を拝するのをよしとしない性格もあって、イースタンプロレスを乗っ取った。
長羽は実木の動きを事前に察知し、本来のイースタンプロレスを守ろうと道山家と連携して防衛線を張ることに奔走するも、一部レスラーと背広組の裏切りに遭い、苦境に立たされる。幸いにもイースタンプロレスを中継してくれていたテレビ局は道山家の味方で、実木よりも長羽を高く買っている。テレビ局の協力を得て、長羽は独立、新団体・太平洋プロレスを旗揚げする。海外の外国人招聘ルートをいち早く確保したことで、長羽は強豪外国人レスラーを相手にこれまで通りのプロレスを見せていく。
対する実木はイースタンプロレスを引き継いだつもりでいたが、上述の通り、道山家とは絶縁、テレビ局は離れ、外国人も大物を呼べそうにないと計算違いが表面化。新体制になってから一年はネットでの無料中継のみと苦戦を強いられる。格闘技としてのプロレスを標榜する実木らは、志貴斗との対抗戦継続で活路を開こうとする。しかし事件の影響で最も名を落としていた志貴斗と組むのはマイナスの方が大きいとの判断が経営陣によってなされ、結果、実木は他の格闘技の有名選手(ただし引退済みか、引退間際、アマチュアに限る)との異種格闘技戦に活路を見出した。実木は圧倒的強さを見せたものの、総合格闘技ルールの凄みを知るファンの中には拒絶反応を示す者も多く、イースタンプロレスは見る者にとって好き嫌いの差が大きい団体となった。
志貴斗は志貴斗で、関係者が暴力沙汰を起こした挙げ句に道山の命を奪ってしまうという大スキャンダルに見舞われ、立て直しに四苦八苦。イースタンプロレスからの対抗戦継続は渡りに船であったが、話は頓挫。一度付いたダーティなイメージを払拭するのはなかなか厳しく、こちらも人気は低迷する。ただし、真剣勝負を好むコアなファンには大いに受け、熱狂的支持によってしばらくは持ちこたえていた。
太平洋プロレスの長羽は順調な滑り出しを見せたものの、プロレス全体のイメージが悪くなった影響に巻き込まれ、緩やかながら人気は下降線を描いていく。さらに、実木からの挑発――太平洋プロレスはショー、うちこそが本物――というある意味アンタッチャブルなポイントに敢えて的を絞った攻撃を受け、従来のプロレスだけでは頭打ちになるのは目に見えていた。そこで実木の技術的師匠格で実木自身一度も勝っていない古豪外人レスラー、クラウス・ゴーシュを招聘し、シングルマッチで長羽が完勝するというストーリーを展開。計画通りの試合結果になったものの、大きな誤算もあった。負け役として呼ばれたゴーシュだが、長羽との一騎打ちでの充分な見せ場を要求してきた。要求を入れた長羽、ゴーシュの関節技や裏技に翻弄されてみせたのだが、アクシデントなのか故意なのか、膝を傷めてしまう。加えて、長身の長羽が受けるにはなかなか厳しいジャーマンスープレックスホールドを食らった結果、首にも大ダメージを負った。結局、クラウス・ゴーシュからの勝利と引き換えに、長羽はレスラー寿命を縮めてしまう。一線を退こうにも、後継者作りがまだ間に合っておらず、無理をせざるを得ない状況に追い込まれた。
続く
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