こころのこり、ほぐすには?

崎田毅駿

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3.三人目

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「二人して同じ夢を見るって、これそのものが不思議な体験てやつですよ、先生」
「あ、ああ。言われてみればそうだな」
 今村先生は合点が行ったような煙に巻かれたような、複雑な顔をしてから一つうなずいた。

 職員室を出て、教室まで鞄を取りに戻る。その道すがら、岸本君が話し掛けてきた。
「ねえ、吾妻さん。面白い謎だと思わない?」
「え、謎?」
 夢の話をしてるのだということは想像が付く。けれども、夢のどの部分を指しているんだろう? 呪文?
「二人の人間が同時期に同じ夢を見たなんて、すこぶる不思議だよ。感じない?」
 そう語る岸本君は、小学生に戻ったみたいにきらきらした表情で、目を見張っている。
「そうね。不思議な謎だわ。まともに解けるとは思えないけど」
「一つだけ、仮説を立ててみた。問題の夢を見る直前、去年三月のひと月ぐらいでいいかな。僕らが共通して見た物の中に、呪文を唱えると願いを叶えてくれるようなストーリーが組み込まれたアニメかドラマか映画があったんじゃないかな」
 私達は徐々に歩みを遅くしていた。それだけ、この不思議な謎に魅力を覚えたのかもしれない。
「じゃあ、もしそんな物があったとして、見たせいで私と岸本君は同じ夢を見た? ありそうななさそうな。だいたい、二人だけっていうのが信じられない。同じ物を見た人は、他にも大勢いるはずだよね?」
「それもそうか……。じゃあ、聞き込みをしてみようか」
「聞き込み? 刑事みたいに?」
「刑事じゃなくてもいいから、学校のみんなに聞いて回るのはどうかな。作文に書かなかっただけで、同じ夢を見た人は大勢いるのかもしれない」
「……一理あるわ」
「じゃあ、女子に聞いて回るのは吾妻さん、頼む」
「え?」
 成り行きで、私も次の日から聞き込みをすることになった。夢の元ネタを探すべく、主に友達(もちろん女子)を中心に聞いて回ったんだけれども、同じような夢を見た人にはなかなか行き当たらず。似た夢を見たような記憶がおぼろげにあるっていう人もいるにはいたけれども、内容はほとんど覚えていなくて、見た時期もあやふやで参考になりそうにない。
 結果が出ずに行き詰まり感が漂い始めたその矢先だった。
 私と岸本君とで教室に残り、他にやり方がないかを考えていると、一年生で同じクラスだった坂口来海さかぐちくるみっていう男子が、戸口をこんこんこんとノックして「邪魔していい?」と聞いてきた。
「本当の邪魔ならだめだけど。坂口、何の用?」
「何か妙なことを調べてるって噂に聞いた。願いを叶えてくれるっていう夢に執着してるらしいな。何で?」
 つかつかと歩いて、すぐ近くまで来た坂口君。私の個人的印象では、岸本君はいたずら好きだけど根は真面目で思慮深く、勉強もしっかりこなす。それに対して坂口君は興味を持ったこと最優先で、即断即決。興味が薄れたらすぐに目移りするタイプで、だからなのか主要五科目成績は波が激しい感じ。
「それはだな」
 答える前に、岸本君は私の顔を見た。別に隠すことでもないと考えている私は、言っていいよという意味で首を縦に振った。
「かいつまんで言うと、一年前の四月に、僕と吾妻さんとが見た夢が、そっくりそのまま同じだった。何らかの理由があるのかもしれないと探っているところ」
 岸本君はテレビドラマなどから一斉に影響を受けたとの仮説も、簡単に説明した。
「なーる。それでみんなに聞いて回ってたんだ? だったら最初に僕に聞いてくれたらよかったのに」
「何か手掛かりになることを持っているって?」
「ああ。僕自身、まったく同じ夢を見た」
「えっ。ほんとに?」
 私は椅子から飛び上がる勢いで立ったんだけど、岸本君の反応は鈍い。それどころか、
「最初に聞いておくけど、嘘じゃないよね?」
 と疑う始末。どうしたんだろう? 仲がよくないみたいに見える。坂口君は別に気を悪くした様子もなく、口元で笑ってから聞き返した。
「何で嘘をつくと思うんだよ」
「念のための確認。昔、僕が女子と二人でいるとき、意味もなく割り込んできた覚えがある」
「小学生のときの話を持ち出すなよ~。あのときはうらやましかっただけ」
「今は?」
「今も、ま、うらやましくないとは言わない」
 そう答えて、坂口君は私の方をちらっと見た。もしかしてこれって気を遣われた?
「そんなことよりも、素直に話を聞けって。絶対に有益だから」
 坂口君、勝手に椅子を近くの机から持って来て座った。位置関係で言えば、三人で正三角形の各頂点になった感じ。三角形の中に机が二つ。
「じゃ、基本から聞くよ。問題の夢を見たのはいつ?」
「去年の四月一日の朝だ。起きたとき、夢の内容を鮮明に覚えていて、エイプリルフールにふさわしいって感じたから、間違いない」
 答を聞いて、これは期待が持てそうとわくわくした。ここまではっきり、夢を見た日付を覚えている人は今までいなかった。
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