こころのこり、ほぐすには?

崎田毅駿

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9.恋と友情その三

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「そっちの三人に合わせて、こっちも人数を揃えるから。俺と柏葉とあと一人。3対3のグループデートなら、自分の気持ちを悟られずに距離を縮められる」
 そんな誘い文句だったと思うわ。
 富岡さんは一も二もなく賛成したし、沖田さんも幼馴染みの言うことだから恥ずかしさややりにくさはあっても、基本的には賛成。でも私はちょっと迷った。その時点では私にしか分からないことだけど、女子が三人とも柏葉君狙いになっちゃう。これって他の男子二人に失礼じゃないかって。
 かといって断れる雰囲気でもなかった。富岡さんにせがまれる形で、私も賛成に回った。デートのときは私が東沢君ともう一人の男子に気を遣えばいいわって考え直したから。
 ところがデート当日の朝になって、三人目の男の子が来られなくなった。一学期の委員長を務めていた柳辺やなべ君という子なんだけども、その日は柳辺君の誕生日に一番近い日曜日だったから、ご両親がサプライズパーティを用意してくれていたのね。さすがにこれは出掛けられないって、東沢君に電話連絡があったそうよ。
 他人事として聞く分には面白おかしい話なのだけれども、当日になっていきなり3対2になるというのは、当事者にとっては大きな変化よね。だからなのか、出だしはぎくしゃくしたものになったと記憶してる。
 ああ、場所は近くの遊園地に行った。中学生でも五人以上のグループなら割安になる入場料設定がしてあってね。私達のような子供でも利用しやすかった。

             *           *

「え、ちょっとストップ」
 本題とは関係ないことだろうけれども、心に引っ掛かったことがあったので話を止めてもらった。
「もう芸能人になっていて、中学でも続けていたのよね、おばあちゃんは」
「バイト感覚だったから芸能人になったと言っていいのかどうか分からないけれども、衣服のモデルをいくつかこなして、テレビコマーシャルに一本出ていたわ。最初の頃だからはっきり覚えている」
「ということはそのー、お仕事でお金をもらっていたんでしょ? 今の話だとお小遣いをやりくりしてる風に聞こえて、何だか違和感があったわ」
「そこを気にするなんて、今の子ね」
 苦笑いを浮かべ、その表情を手でそっと隠すおばあちゃん。
「確かに当時、私は自力で少し稼いでいたけれども、お金はみんなお母さんに、つまりあなたから見ればひいおばあちゃんに預かってもらっていたの」
「なーんだ。じゃあ、お小遣いや貯金では届かないくらい高い物を買いたくなったときは?」
「実際にはそんなことにはならなかったんだけど、私が子供の間は、目的を伝えて、両親が判断した上で出してもらえるかどうかが決まるという約束になっていたわ」
「きっちりしていたのね」
 私がもしアイドルになって多少でもお金を稼いでいたら、いい気になってみんなにおごるぐらいのことはするかもしれないなあ。
「話の腰を折っちゃってごめんなさい。続きを聞かせて」

             *           *

 そうね……どういう順番で話すのがいいのか考えていたのだけれども、決めかねてしまう。
 分かり易い方がいいでしょうから、最初に打ち明けてしまうとね、東沢君は私が目当てだったのよ。
 ふふ、驚いた? そうでもないって?
 じゃ、もう一つ驚くようなことを。沖田さんは柏葉君を気にしつつも、実は東沢君のことも幼い頃から気になっていた、はっきり言えば好きだった。グループデートに誘われたのをきっかけに、気持ちに再び火が着いたのよね。
 少し前に言ったように、柏葉君は私のことを気にしてくれていたし、私は柏葉君を気にしてる。富岡さんは言うまでもなく柏葉君狙い。ね、ややこしくなってきたでしょ。
 ――え? もて自慢てこのことだったのねって? そうなるかな、うふふふ。グループデートの男子が二人とも私目当てだったなんて、しかもそのことに私はまったく気が付いていないっていうんだからおかしな話。でも当時はみんな必死だったと思う。恋愛なんて初めての経験で、誰もが手探りで進むしかない年頃だったから。一番経験豊富だったと思われる東沢君でもね。
 ぎこちないスタートを切った初めてのグループデートだけれども、その東沢君が気を回してくれるようになって、うまく行き始めた。確かめなかったけれども多分、委員長が来られなくなったこと、代わりの人を呼べなかったことに責任を感じていたんじゃないかしらね。
 結果的に3対2でそれなりにスムーズに進行したため、次からも同じ顔ぶれで遊びに行くようになった。デートというよりも、よく一緒にいる友達五人組って感じだったけれども。そうそう、委員長だった柳辺君はあとで冗談めかして、惜しがっていたっけ。
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