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10.恋と友情その四
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それからしばらく経って、いつだったか詳しくは覚えていないのだけれど、木佐貫杏奈さんと一緒のクラスになってからだから、二年生になっていたのは間違いない。木佐貫さんは学年でも評判の美人で家はお金持ちで、まあ正直言って性格はきつかったけれども、しゃきしゃきしていて人気があった。そんな女子が柏葉君の色目を使い始めたから、私達は心中穏やかじゃなくなったわ。木佐貫さんは自分に自信を持っていて、行動が早いの。四月に新学年になって、五月の連休明けには柏葉君にアプローチしていた。みんながいる教室で柏葉君に、「どんな女の子が好み? 合わせるつもりあるんだけど」とか「誕生日はいつ? プレゼントは何がいい?」とか、ずばずば言うのよね。こちらとしては気が気でないっていうか。
柏葉君の反応? 幸いと言っていいのかしら、彼は木佐貫さんみたいなタイプとはあんまり合わないみたいで、やんわりと避けていた。でも、中学生でこういう話題が出ると、周りがくっつけたがることがたまにあるでしょ? しかも二年生の一学期には、クラスの委員長には柏葉君が選ばれて、副委員長は木佐貫さんが選ばれていたのよ。そう、木佐貫さんが柏葉君にアプローチを始める前の時点でね。だから男子の一部がふざけて、カップル成立だの運命の出会いだのと囃し立てていたわ。とにかくそういう雰囲気になりつつあったから、富岡さんや沖田さん、それに私も焦りを覚えていた。富岡さんなんて、木佐貫さんより先に正式に告白する!って言い出して。まあそれは沖田さんが「今いきなり言っても玉砕の可能性大じゃない?」と止めたから、また収まったのだけれどね。
私達にとって幸いなことに、二年になっても柏葉君達とのグループデートは続いていた。沖田さんと東沢君とが幼馴染みなのが大きな理由だと思ってた。ただ、おかしいのは、二人の仲が親密になったなんてことはなくて、むしろ逆。喧嘩友達みたいだった。東沢君が私にアプローチするようになっていたからだと思う。東沢君は最初にも言った通り、女子の人気があって、実際に大勢の子――私達以外によ――ともデートをよくしていたの。その頃の言い方で表現すると、プレイボーイということになるかしら。沖田さんはそういうのが許せない質で、でも東沢君のことを好きでもいるみたいだから、口論はするのだけれども何故か一緒にいることが多い、不思議な関係だったわ。名目上、東沢君の“毒牙”から私を守るためって言っていたけれどね。
そんな風にして若干の変化はあったけれども、グループデートを継続していた私達は、夏休みに入って市民プールに出掛けた。
その日は私達女子は三人とも緊張しつつも、気合いが入っていたと思うわ。何しろ、学校指定ではないプライベートな水着姿で、男子の前に立つなんて初めてのことだったのだから。
あ、でも厳密に言えば、私はすでに水着の写真モデルをしたことがあって、その仕事は柏葉君のお母様が持って来てくれたもの。だから、その広告を柏葉君は見たことがあったかもしれないけれども。
とにかくプールに来たからには緊張したり恥ずかしがったりしていても始まらないので、三者三様でがんばったわけ。といっても、私は誰も本命がいないふりをしていたのではしゃぎすぎないようセーブしていたし、沖田さんは東沢君がいる前でセクシーな水着を着る訳に行かないから、さほど派手な格好ではなかった。
凄く張り切っていたのは富岡さん。彼女は日常生活では明るくて積極的なのだけれど、運動が苦手な方で、学校の水泳授業でも大人しめにしているのに、その日は違った。長い長い滑り台に挑戦したり、ジュースのおごりをかけた泳ぎでも愚痴を言わずに泳ぎ切ったりしていた。その勝負はハンディ付きだったけど、結局富岡さんが負けちゃって、人数分のジュースを買ってくることになった。他にも食べ物を買ってこようという話になって、柏葉君が付いていった。
そして――お店から戻って来るときに、ちょっとしたアクシデントがあったのよ。あとから見れば重大な、ね。両手がジュースで塞がった状態で戻ってきた富岡さんは、残っていた私と沖田さんと東沢君を見て、小走りになった。危ないって思ったときにもう遅くて、つるって滑るのが見えたわ。右足を前に蹴り上げるみたいにして、宙に浮いている姿が今でもしっかり思い出せるくらい。
何もない平らなところだったら、そのまますってんころりんしても尻餅をついただけで済む可能性が高かったんでしょう。ところがすぐ近くに、施設備え付けの丸テーブルとベンチがあった。しかもちょうど富岡さんが頭を打ちかねない位置に。
見ていた誰もが危ない!と思った刹那、柏葉君は両手で持っていた焼きそばやたこ焼きやクレープのパックを素早く左の片腕で抱え直すや、右手を精一杯、富岡さんの頭の後ろに持って行った。
結果的に、彼の咄嗟の行動が功を奏して、富岡さんは頭を打たずに済んだの。富岡さんは尻餅をついただけで、ジュースを落とすこともなかった。ただ、そのあとが、ね。
思い出すと辛い気持ちになるから、省略して言うけれどもいいかしら。
* *
柏葉君の反応? 幸いと言っていいのかしら、彼は木佐貫さんみたいなタイプとはあんまり合わないみたいで、やんわりと避けていた。でも、中学生でこういう話題が出ると、周りがくっつけたがることがたまにあるでしょ? しかも二年生の一学期には、クラスの委員長には柏葉君が選ばれて、副委員長は木佐貫さんが選ばれていたのよ。そう、木佐貫さんが柏葉君にアプローチを始める前の時点でね。だから男子の一部がふざけて、カップル成立だの運命の出会いだのと囃し立てていたわ。とにかくそういう雰囲気になりつつあったから、富岡さんや沖田さん、それに私も焦りを覚えていた。富岡さんなんて、木佐貫さんより先に正式に告白する!って言い出して。まあそれは沖田さんが「今いきなり言っても玉砕の可能性大じゃない?」と止めたから、また収まったのだけれどね。
私達にとって幸いなことに、二年になっても柏葉君達とのグループデートは続いていた。沖田さんと東沢君とが幼馴染みなのが大きな理由だと思ってた。ただ、おかしいのは、二人の仲が親密になったなんてことはなくて、むしろ逆。喧嘩友達みたいだった。東沢君が私にアプローチするようになっていたからだと思う。東沢君は最初にも言った通り、女子の人気があって、実際に大勢の子――私達以外によ――ともデートをよくしていたの。その頃の言い方で表現すると、プレイボーイということになるかしら。沖田さんはそういうのが許せない質で、でも東沢君のことを好きでもいるみたいだから、口論はするのだけれども何故か一緒にいることが多い、不思議な関係だったわ。名目上、東沢君の“毒牙”から私を守るためって言っていたけれどね。
そんな風にして若干の変化はあったけれども、グループデートを継続していた私達は、夏休みに入って市民プールに出掛けた。
その日は私達女子は三人とも緊張しつつも、気合いが入っていたと思うわ。何しろ、学校指定ではないプライベートな水着姿で、男子の前に立つなんて初めてのことだったのだから。
あ、でも厳密に言えば、私はすでに水着の写真モデルをしたことがあって、その仕事は柏葉君のお母様が持って来てくれたもの。だから、その広告を柏葉君は見たことがあったかもしれないけれども。
とにかくプールに来たからには緊張したり恥ずかしがったりしていても始まらないので、三者三様でがんばったわけ。といっても、私は誰も本命がいないふりをしていたのではしゃぎすぎないようセーブしていたし、沖田さんは東沢君がいる前でセクシーな水着を着る訳に行かないから、さほど派手な格好ではなかった。
凄く張り切っていたのは富岡さん。彼女は日常生活では明るくて積極的なのだけれど、運動が苦手な方で、学校の水泳授業でも大人しめにしているのに、その日は違った。長い長い滑り台に挑戦したり、ジュースのおごりをかけた泳ぎでも愚痴を言わずに泳ぎ切ったりしていた。その勝負はハンディ付きだったけど、結局富岡さんが負けちゃって、人数分のジュースを買ってくることになった。他にも食べ物を買ってこようという話になって、柏葉君が付いていった。
そして――お店から戻って来るときに、ちょっとしたアクシデントがあったのよ。あとから見れば重大な、ね。両手がジュースで塞がった状態で戻ってきた富岡さんは、残っていた私と沖田さんと東沢君を見て、小走りになった。危ないって思ったときにもう遅くて、つるって滑るのが見えたわ。右足を前に蹴り上げるみたいにして、宙に浮いている姿が今でもしっかり思い出せるくらい。
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