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17.血のつながり
しおりを挟む太陽の位置からだいたいの方角を想定し、東に向かう。校舎内を走ると目立つし、教師から注意される恐れが高いため、岸本は校舎の外を突っ走った。それはそれで目立つらしく、たまに「東沢君、全力疾走なんて珍しい~」と女子の声が上がるのを聞いた。
(この身体を借りている彼は、それなりに女子にもてるのかな? 付き合っている女子がいて、その人と出くわしたら間に合わない恐れがあるかも)
そこまで心配しなくてもよかった。中庭はそんなに広いわけではなく、じきに東の端まで辿り着いた。
思惑通り、校舎の影にたたずむセーラー服姿の女子生徒二人を見付けた。岸本は膝に手をつくと呼吸を整える。
(男子の方はまだ来てないのかな。だとしたら間に合った。しかし……女子二人も顔が見えないな。いや、見えても吾妻さんの顔ではないんだっけ。でも、もう一人は中学生時代のおばあちゃんなんだから、吾妻さんにちょっとでも似ている方がおばあちゃんだろう)
などと考える内に面倒になってきた。息の乱れは収まり、これなら充分に声を出せる。
「吾妻さん!」
本来の名で呼べば、何ごとかと振り返るだろう。その読み通り、女子は二人とも振り向いた。おばあちゃんも今は吾妻姓なのだから当然だ。
「――岸本君?」
狐を連想させる細面で目も細い方の女子が、岸本の名前を口にした。
「え、分かるの? ということは君が吾妻さん? 僕は確かに岸本だけど」
「ほんとに? う、うん、何となく分かった。って、どうしてここに?」
「あの手紙を読んだら、心配で、いや、危ないと思ったから、僕も願い事を叶えてもらった。吾妻さんとその家族を守れる力を得たいって。そうしたらここへ来ることができたんだ」
「私達を助けるために?」
「うん。実際に時間を遡って来られたってことは、君がピンチになっているか、その寸前なんじゃないかと」
岸本は張り切って話を続けようとしたのだが、ここで思わぬ横やりが吾妻のおばあちゃん――榊原純子が口を開いたのだ。
「あの、確認だけれども、こちらの方は見た目は東沢君だけれども、中身はよくお家に来ていた岸本君?」
「あ、はい、そうです。小学生のときです。覚えてもらえているなんて」
「それはもう、この子の話にしょっちゅう出て来ますからね。忘れようがありません」
「おばあちゃん!」
沖田史香の姿をした吾妻が悲鳴のような調子で短く叫び、割って入る。
「それ、あんまり言っちゃだめっ」
「それよ。あなたがそんな態度では、人のこと言えないでしょう」
「うー、確かにそうなんだけどさあ。い、今はおばあちゃん、じゃなくて、榊原さんのことに集中しなくちゃ」
早口でそこまで言って、吾妻は岸本へと振り返った。
「ねっ?」
「う、うん、そうだね……」
「話、続けて。急がないと、柏葉君がもうすぐ来るんだって」
「そう、そのことなんだ。恐らく僕の想像が当たってると思う。吾妻さんは全然想像もしてなかったみたいだけど、これからおばあちゃんが告白されて、それにOKを出したら、過去が変わるんだよ?」
「うん? それが当たり前でしょ。そのために来たんだから」
「影響の広がりってのを考えなきゃ。もし仮に、その、何て言ったっけ、相手の男子生徒」
「柏葉君?」
「その柏葉君とおばあちゃんが告白を経て、ずっとうまく行って、将来結婚するなんていう流れになったら大変だ」
これで分かるだろ、と言わんばかりに二人を見る岸本。しかし相変わらず、吾妻とそのおばあちゃんの反応は鈍い。
「おっかしいいな、僕の言い方、そんなにまずいのか? ショックを与えたくないから、直接的な表現は避けてたんだけど」
「いいよ、言って」
「でもおばあちゃんが退院したばかりだって聞いたよ」
「それなら大丈夫ですよ」
胸を張り、最上級の笑顔を見せる榊原純子。岸本は思わず、見とれた。
(さすが吾妻さんのおばあちゃん。若いときは雰囲気がよく似ている)
顔が赤らんでいるような気がしてならない。岸本は顔を手のひらでごしごしとこすった。
「今は気持ちだけでなく、身体の方も若いですからね。ショックなことでも受け止められます」
「そ、それもそうですね。じゃあ、はっきり言います。あなたと柏葉さんが結婚されたとしたら、そのあと生まれてくる子供が変わってくるんじゃありませんか」
「……」
おばあちゃんと吾妻がお互いに顔を見合わせた。岸本は言葉を補足する。
「おばあちゃんが吾妻さんのお父さんとお母さん、どちらのお母さんなのかは存じ上げませんが、いずれにしてもお子さんが変わってくるということは、その後の人生というか運命というか、とにかく何もかもが変わってくるわけで、この場合、吾妻さんは生まれてこない未来が待っている可能性が高くなる……」
そこまで話すと、聞き手の二人に変化が現れたのが見て取れた。
おばあちゃんも吾妻も俯いて、肩や背中を小刻みに震わせている。
(やろうとしていたことの結果が引き起こす恐ろしさに気付いて、震えている?)
即座にそう解釈した岸本だった。が、それは次の瞬間には誤りだったと思い知らされることに。
「あははは!」
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