ベッド×ベット

崎田毅駿

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“我が輩の知らぬところで不正が行われている”

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「ていうことは、裏向きのカードを見て、数を適当に言えばいいんですか」
 察しよく応えたつもりだったけれども、相手は首を少し左右に振った。
「惜しい。適当にでは困るんです。考えて答えてくださいね。そう、ギャンブルでもしているつもりで、真剣に」
「そう言われても……何の手掛かりもないのだから、直感でやるしかないんじゃあ」
「そうですね。じゃあ、最初だから手掛かりがあるような形にしてみましょうか。といっても、記憶力、動体視力の問題になりますが」
 サウス巡査補は折角並べたカードを表向きにした。
「これを見て、覚えてください。制限時間は四十秒で。このあと裏返して二十秒、かき混ぜますからそのつもりで」
「え」
 いきなり言われると、ちょっと焦る。
 カードのおもて面は黒一色で印刷されており、特に図柄はなく、シンプルに数だけが書かれている。シンプルすぎて、逆にやや覚えにくいか。印は△、○、□、☆ととりあえず四種類があるらしい。そう言えば、数字も元の世界と同じだ。
 どうせこのあとさっきみたいにぐちゃぐちゃに混ぜるのなら、全部覚えても無意味だろう。とりあえず、過半数の七つを記憶することに集中した。このあと目で追いやすいよう、右から七つをまとめて覚える。12、5、1、8、3、2、9か。語呂合わせで『胃に濃い蜂蜜食う』だな。いや、順番はあんまり関係ないけど。おや、偶然にも印の方は△、○、□、☆、△、○、□と循環していた。
「――はい、四十秒経過です」
 いいながら手を伸ばし、カードを次々に裏向きにしていく巡査補。全て裏返すと、黙って混ぜ始めた。その動きは遅くはないが、早すぎることもない。どうにか目で追い掛けられそうなレベルだった。これなら何とかなるかも?
 しかし、終盤の残り三秒辺りで、半分ほどの枚数を一度に重ねる動作が入った。これは厳しい。そしてタイムアップ。「これでだいたい二十秒」と話しつつ、てきぱきと丁寧に並べる。警察の人にしてはかなり慣れた手つきだと思った。そんなに何度も異世界の人相手に、同じテストをしてきたということかしらん。
「さあ、答えてみてくれる?」
 どうぞとばかりに両腕を開く巡査補。
 忘れない内に、目星を付けたカードの位置をしっかり覚えた。七枚全てが合っている自信はないにしても、その半分三枚か四枚は当たっている自信がある。
「確認なんですが、これはテストであって、ギャンブルではない。つまり当てることができなくてもペナルティはない?」
「ええ、そう」
 安心した。では自信のある順番に行ってみよう。
「これ、1だと思います」
 ちょうど真ん中に位置するカードを指し示しながら言った。サウス巡査補は「これね」とワンクッション置いて指で押さえてから、そのカードをめくった。四隅にある印の四角がまず見えて、次いで1が現れた。
「1。正解ね」
 私は気をよくして、次のカードを指定した。
「この右端のやつが2だと思います」
 巡査補から見て左端の一枚を彼女が開く。当たり。
 ますます気をよくし、その二つ隣を指差して「3です」と答えた。△の3が現れた。
「次、4と行きたいんですけど、分からないから、とばして5を。こちらから見て左から二枚目がそうじゃないかと」
 サウス巡査補の細長い指がめくって5が出た。よし、過半数の過半数は達成した。あとは残り三枚をどれだけ追えていたか、だけど。
「真ん中の1の両サイド、どちらかが8でどちらかが12だと思ってるんですけど、確信が持てない……」
 ここで相手の顔を窺うと、まだお願いもしていないうちから、「仕方がないですね。まだ最初だし、特別に認めます。でもまあ、念のために言ってみて。あなたから見て右は8なのか12なのか?」
「12にしておきます」
「12でいいのね。ということは、左の方は8」
 言うや否や、右側のをさっとめくった。星印の12が現れる。
 続いて左側。これも当たりで、三角の8だった。
「凄いわね」
「……え、ええ」
 ほめ言葉を頂戴したけれども、こっちはそれどころではなくなっていた。困惑していた。

 つづく
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