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違和感の正体
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ここまで順調に当たっているのは、ある程度覚えていたのだし、運がよかったで片付けられる。だけど。
「次に自信がある数は何?」
「あー、えっと」
困惑の答を見付けられないまま、問われて、適当に一枚を指差す。9はどこに行ったのか、ほとんど見失っていた。多分この辺だろうと、左から四枚目を選んだ。
「これが9かな。ある程度覚えていられたのは、9で最後です」
サウス巡査補がめくったカードは9。四角い印の9だった。
「残りは覚えてない、自信が全然ないわけね。それでも答えてもらいますけど。面倒だから、空いてないカードを順番に触っていくから、答えて。いい?」
「はい」
それから巡査補が裏向きのカードを示すと同時に、こちらは適当に数字を言った。4、11、7、10、6と。
「驚いた……」
サウス巡査補が大げさな仕種で肩をすくめていた。
自分だって驚いている。でたらめな順番で言ってみただけなのに、残りのカードの数も全て正解したのだ。
「掛け値なしに凄いことですよ、これって。自信なげなこと言って、本当は覚えていたんですね」
「いえ、これは」
偶然ですと言おうとしたのだが、そう言い切るのも憚られる。何かがおかしい。
「記憶していたわけじゃないんだとしたら、特別な力が働いたのかも」
サウス巡査補が言った。警察の人が変なことを言うなあと感じたけれども、すぐに打ち消す。
この世界では、魔法が存在するんだった。目撃したのはクレイン家の中でヤッフが物を浮かしている場面くらいで、町に出てもそれっぽいことは見掛けなかった。だからつい忘れそうになっていたが。
魔法はある、という前提で今さっきの数当てを考え直してみる。
「それじゃ、二回目を始めましょう。次は記憶するのはなしで、最初っから裏向きで混ぜます」
「ちょ、ちょっと待ってください」
手を動かそうとする巡査補を言葉で遮り、注意を向けさせる。
「何か?」
「これは何の予備テストなんですか。二度手間にならないようにと、ビッツが言っていたけれども」
「ですから、それはまだ言えないんですよ」
飽くまで笑顔で、しかし少し困ったように眉を八の字に寄せるサウス巡査補。
「だったら、こっちが思ったことがありますから聞いてください。とりあえず二つ」
「仕方がありませんね。お友達を長く待たせることになるかもしれませんよ」
「ええ、まさしく仕方ありません。一つ目、今の数当ては、誰かが私に全問正解させたんじゃないでしょうか」
「……話を続けてください」
「二つ目、そのことを私が気付くかどうか、試したのではありませんか」
こっちが言い切ると、巡査補はカードから手を離し、自らの髪を撫で付けた。
「私の方からも質問します。何故、正解させられていると考えたのかしら」
「それはカードが入れ替わったと思ったから」
改めて思い返しながら、事の次第を話す。
当初、サウス巡査補がテストに使うために取り分けたのは1~13の数字が書かれた十三枚のカード。その全ては覚えてはいなかったが、過半数の七枚ならしっかり記憶した。△の12、○の5,□の1、☆の8、△の3、○の2、□の9だ。印まで覚えるつもりはなかったけれども、たまたま△、○、□、☆の順番が繰り返されていたので印象に残り、自然と覚えたのだ。
異変を感じ取ったのは、12と8を同時に言い当てたとき。巡査補がめくったカードは、☆の12と△の8だった。覚えていたのとは異なる、別のカードである。
記憶違いしていたかなとも考えたけれども、そんなはずはないという自信があった。さらにこのあと、全く記憶していなかったカードまで全部が当たるという“奇跡”を目の当たりにして、意味は分からないがおかしなことが起きていると感じた。
どうやったらカードを入れ替えたり、当てさせたりできるんだろうという疑問が残ったが、魔法が当たり前のように存在する世界であれば、何だってあり得る。
「――こう思ったんです。どうなんでしょう?」
私はある種の覚悟を持って、相手に問うた。もしかしたら、触れてはいけない部分なのかもしれない。
つづく
「次に自信がある数は何?」
「あー、えっと」
困惑の答を見付けられないまま、問われて、適当に一枚を指差す。9はどこに行ったのか、ほとんど見失っていた。多分この辺だろうと、左から四枚目を選んだ。
「これが9かな。ある程度覚えていられたのは、9で最後です」
サウス巡査補がめくったカードは9。四角い印の9だった。
「残りは覚えてない、自信が全然ないわけね。それでも答えてもらいますけど。面倒だから、空いてないカードを順番に触っていくから、答えて。いい?」
「はい」
それから巡査補が裏向きのカードを示すと同時に、こちらは適当に数字を言った。4、11、7、10、6と。
「驚いた……」
サウス巡査補が大げさな仕種で肩をすくめていた。
自分だって驚いている。でたらめな順番で言ってみただけなのに、残りのカードの数も全て正解したのだ。
「掛け値なしに凄いことですよ、これって。自信なげなこと言って、本当は覚えていたんですね」
「いえ、これは」
偶然ですと言おうとしたのだが、そう言い切るのも憚られる。何かがおかしい。
「記憶していたわけじゃないんだとしたら、特別な力が働いたのかも」
サウス巡査補が言った。警察の人が変なことを言うなあと感じたけれども、すぐに打ち消す。
この世界では、魔法が存在するんだった。目撃したのはクレイン家の中でヤッフが物を浮かしている場面くらいで、町に出てもそれっぽいことは見掛けなかった。だからつい忘れそうになっていたが。
魔法はある、という前提で今さっきの数当てを考え直してみる。
「それじゃ、二回目を始めましょう。次は記憶するのはなしで、最初っから裏向きで混ぜます」
「ちょ、ちょっと待ってください」
手を動かそうとする巡査補を言葉で遮り、注意を向けさせる。
「何か?」
「これは何の予備テストなんですか。二度手間にならないようにと、ビッツが言っていたけれども」
「ですから、それはまだ言えないんですよ」
飽くまで笑顔で、しかし少し困ったように眉を八の字に寄せるサウス巡査補。
「だったら、こっちが思ったことがありますから聞いてください。とりあえず二つ」
「仕方がありませんね。お友達を長く待たせることになるかもしれませんよ」
「ええ、まさしく仕方ありません。一つ目、今の数当ては、誰かが私に全問正解させたんじゃないでしょうか」
「……話を続けてください」
「二つ目、そのことを私が気付くかどうか、試したのではありませんか」
こっちが言い切ると、巡査補はカードから手を離し、自らの髪を撫で付けた。
「私の方からも質問します。何故、正解させられていると考えたのかしら」
「それはカードが入れ替わったと思ったから」
改めて思い返しながら、事の次第を話す。
当初、サウス巡査補がテストに使うために取り分けたのは1~13の数字が書かれた十三枚のカード。その全ては覚えてはいなかったが、過半数の七枚ならしっかり記憶した。△の12、○の5,□の1、☆の8、△の3、○の2、□の9だ。印まで覚えるつもりはなかったけれども、たまたま△、○、□、☆の順番が繰り返されていたので印象に残り、自然と覚えたのだ。
異変を感じ取ったのは、12と8を同時に言い当てたとき。巡査補がめくったカードは、☆の12と△の8だった。覚えていたのとは異なる、別のカードである。
記憶違いしていたかなとも考えたけれども、そんなはずはないという自信があった。さらにこのあと、全く記憶していなかったカードまで全部が当たるという“奇跡”を目の当たりにして、意味は分からないがおかしなことが起きていると感じた。
どうやったらカードを入れ替えたり、当てさせたりできるんだろうという疑問が残ったが、魔法が当たり前のように存在する世界であれば、何だってあり得る。
「――こう思ったんです。どうなんでしょう?」
私はある種の覚悟を持って、相手に問うた。もしかしたら、触れてはいけない部分なのかもしれない。
つづく
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