7 / 7
7.四葉は闇に紛れ
しおりを挟む
対照的に、蔵部はすっかり落ち着きを取り戻していた。余裕のある口ぶりで、「しましたよ。誘拐がらみだなんて知りませんでしたから」と応じる。
「その住所を教えてもらおう。くだらない職業意識や権利は振り回さないことだ。この探偵社ごと、誘拐幇助の罪に問われたくなかったらな」
「脅されなくても、言いますよ。依頼人は死んでしまったんだし、犯罪に関わっているようだし、伏せる義務は全くない」
蔵部は手近にあった紙とペンを取ると、そらで住所や電話番号、名称等を書き始めた。
「保育所やってる司馬さんには迷惑な話でしょうがね。法に反してるんだから、自業自得ということで」
三反薗幸は無事に見つかった。
蔵部の言った無認可保育所――マンションの一室で、乳幼児に混じってこの三日間を過ごしていた。
小渕の車――レンタカーに半ば強制的に連れ込まれ、そのままマンションに直行したという。小渕は小学生女児を相手に、「これは学校の授業の一環で、ボランティア体験をしてもらう」と説明したらしい。幸は――彼女自身の表現を使うなら――1パーセントくらいしか信じられず、誘拐されたのかもと思った。大人しく言うことを聞いておこうと直感的に判断できたのは、両親の職業とも関係があるのかもしれない。
保育所を開いていた司馬充子は、誘拐とは知らなかったと主張しているが、警察は追及の手を緩めていない。
三反薗家の郵便受けから小渕の指紋が採取され、小渕の借りた車からは幸の毛髪が見つかった点等から、小渕が誘拐犯であるのは間違いない。彼が四葉であったかどうかは、否定的な見方が圧倒的に強い。アリバイの件に加え、共犯たり得る人間が小渕の周辺に見当たらないことがはっきりしてきたためだ。
さらにもう一つ、司馬の保育所に小渕が置いていったという大型封筒から、興味深い文書が出て来た。これは、小渕がいかにして三反薗家についての諸々を知ったのかという疑問に対する答でもあった。
文書は、四葉のマークが記してあり、例の金釘文字で、四葉が小渕に誘拐を勧める内容だった。三反薗家に関するデータも併記されていた。
文書自体が小渕の自作自演である可能性も睨み、捜査は続けられている。
三反薗幸誘拐事件の解決が報道されてからちょうど四週間後。
警察に散々絞られた蔵部が、今度は被害者として警察を頼ってきた。探偵社社長は、電話口で震える声でまくし立てた。
「息子を、嗣貴を助けてください! 四葉のマークが入った脅迫状が、自宅の郵便受けに入っていました!」
――終わり
「その住所を教えてもらおう。くだらない職業意識や権利は振り回さないことだ。この探偵社ごと、誘拐幇助の罪に問われたくなかったらな」
「脅されなくても、言いますよ。依頼人は死んでしまったんだし、犯罪に関わっているようだし、伏せる義務は全くない」
蔵部は手近にあった紙とペンを取ると、そらで住所や電話番号、名称等を書き始めた。
「保育所やってる司馬さんには迷惑な話でしょうがね。法に反してるんだから、自業自得ということで」
三反薗幸は無事に見つかった。
蔵部の言った無認可保育所――マンションの一室で、乳幼児に混じってこの三日間を過ごしていた。
小渕の車――レンタカーに半ば強制的に連れ込まれ、そのままマンションに直行したという。小渕は小学生女児を相手に、「これは学校の授業の一環で、ボランティア体験をしてもらう」と説明したらしい。幸は――彼女自身の表現を使うなら――1パーセントくらいしか信じられず、誘拐されたのかもと思った。大人しく言うことを聞いておこうと直感的に判断できたのは、両親の職業とも関係があるのかもしれない。
保育所を開いていた司馬充子は、誘拐とは知らなかったと主張しているが、警察は追及の手を緩めていない。
三反薗家の郵便受けから小渕の指紋が採取され、小渕の借りた車からは幸の毛髪が見つかった点等から、小渕が誘拐犯であるのは間違いない。彼が四葉であったかどうかは、否定的な見方が圧倒的に強い。アリバイの件に加え、共犯たり得る人間が小渕の周辺に見当たらないことがはっきりしてきたためだ。
さらにもう一つ、司馬の保育所に小渕が置いていったという大型封筒から、興味深い文書が出て来た。これは、小渕がいかにして三反薗家についての諸々を知ったのかという疑問に対する答でもあった。
文書は、四葉のマークが記してあり、例の金釘文字で、四葉が小渕に誘拐を勧める内容だった。三反薗家に関するデータも併記されていた。
文書自体が小渕の自作自演である可能性も睨み、捜査は続けられている。
三反薗幸誘拐事件の解決が報道されてからちょうど四週間後。
警察に散々絞られた蔵部が、今度は被害者として警察を頼ってきた。探偵社社長は、電話口で震える声でまくし立てた。
「息子を、嗣貴を助けてください! 四葉のマークが入った脅迫状が、自宅の郵便受けに入っていました!」
――終わり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
扉の向こうは不思議な世界
崎田毅駿
ミステリー
小学校の同窓会が初めて開かれ、出席した菱川光莉。久しぶりの再会に旧交を温めていると、遅れてきた最後の一人が姿を見せる。ところが、菱川はその人物のことが全く思い出せなかった。他のみんなは分かっているのに、自分だけが知らない、記憶にないなんて?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる