誘拐 ~ 幸福の四葉

崎田毅駿

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7.四葉は闇に紛れ

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 対照的に、蔵部はすっかり落ち着きを取り戻していた。余裕のある口ぶりで、「しましたよ。誘拐がらみだなんて知りませんでしたから」と応じる。
「その住所を教えてもらおう。くだらない職業意識や権利は振り回さないことだ。この探偵社ごと、誘拐幇助の罪に問われたくなかったらな」
「脅されなくても、言いますよ。依頼人は死んでしまったんだし、犯罪に関わっているようだし、伏せる義務は全くない」
 蔵部は手近にあった紙とペンを取ると、そらで住所や電話番号、名称等を書き始めた。
「保育所やってる司馬しばさんには迷惑な話でしょうがね。法に反してるんだから、自業自得ということで」



 三反薗幸は無事に見つかった。
 蔵部の言った無認可保育所――マンションの一室で、乳幼児に混じってこの三日間を過ごしていた。
 小渕の車――レンタカーに半ば強制的に連れ込まれ、そのままマンションに直行したという。小渕は小学生女児を相手に、「これは学校の授業の一環で、ボランティア体験をしてもらう」と説明したらしい。幸は――彼女自身の表現を使うなら――1パーセントくらいしか信じられず、誘拐されたのかもと思った。大人しく言うことを聞いておこうと直感的に判断できたのは、両親の職業とも関係があるのかもしれない。



 保育所を開いていた司馬充子みつこは、誘拐とは知らなかったと主張しているが、警察は追及の手を緩めていない。



 三反薗家の郵便受けから小渕の指紋が採取され、小渕の借りた車からは幸の毛髪が見つかった点等から、小渕が誘拐犯であるのは間違いない。彼が四葉であったかどうかは、否定的な見方が圧倒的に強い。アリバイの件に加え、共犯たり得る人間が小渕の周辺に見当たらないことがはっきりしてきたためだ。
 さらにもう一つ、司馬の保育所に小渕が置いていったという大型封筒から、興味深い文書が出て来た。これは、小渕がいかにして三反薗家についての諸々を知ったのかという疑問に対する答でもあった。
 文書は、四葉のマークが記してあり、例の金釘文字で、四葉が小渕に誘拐を勧める内容だった。三反薗家に関するデータも併記されていた。
 文書自体が小渕の自作自演である可能性も睨み、捜査は続けられている。



 三反薗幸誘拐事件の解決が報道されてからちょうど四週間後。
 警察に散々絞られた蔵部が、今度は被害者として警察を頼ってきた。探偵社社長は、電話口で震える声でまくし立てた。
「息子を、嗣貴つぐたかを助けてください! 四葉のマークが入った脅迫状が、自宅の郵便受けに入っていました!」

――終わり
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