つむいでつなぐ

崎田毅駿

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その2

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「ラブレター、だね」
「やっぱり、そう思うよな」
「誰かがこの坊主に宛てて書いたのか。羨ましいねえ。最近の小学生は進んでいる。それでも前夜は興奮して眠れなかったのかな」
「そういう訳か。勝手にぶつかってきて転んで、そのまま起きないから最初は焦ったぜ」
「結果論だけど救急車を呼ばずに家で休ませて正解だったよ。で、連絡先が分からないから持ち物を調べてみたと」
「持ち物と言っても身一つだったんでポケット探ってみたら、その紙切れが出て来た訳さ」
「ぶつかったときとそのあとの状況は」
「俺が家の門を出た途端、左からぶつかってきたんだよ。腰に衝撃を受けてよろめくほどだった。坊主の方はカウンターパンチを食らったボクサーの如くすっころんで仰向けに倒れた。声を掛けても起きない。この寒い中、表に放って置く訳にもいかず、家に運んだ次第だ」
「デートに急いでたのかねえ」
「恐らく。寝てるだけなら、さっさと起こしてやるか」
「……いや。大事を取ってもうしばらく休ませよう。簡単には体調は戻らないだろ」
「医学生のおまえの判断を尊重するが、坊主の相手はどうする」
「ん?」
「こいつの彼女が寒空の下、心配して待ってるだろ。おニューの服を着て手作りの菓子を持ってな。かわいそうと思わないか」
「なるほど。その子が坊主の家に電話しても、『もう出掛けたよ』なんて返事が待ってるだけか。電話と言えばこの坊主、携帯電話は持ってなかった?」
「なかった。転んだ拍子に落とした可能性も多分、ないと思う。家の前の道路をざっと見たからな」
「そうか。それで、今どき手紙なのかな。携帯電話を持っているのならデートの約束ぐらい、メールで充分」
「別に携帯電話じゃなくても普通に電話すれば済むことだぜ」
「親にも内緒なのかね。……うん? 何にしろ、手書きじゃないのはおかしい気もするな。このラブレター、プリントアウトした物だ」
「見れば分かる。どこのどいつが手書きで顔文字まで書くかよ、七面倒くさい」
「てことは、自宅にはパソコンがあるのか。やっぱり変だ。ネットに接続可能な環境であるだろうに電子メールでやり取りをしないなんて」
「女の子の家にはパソコンがあるが、この坊主の家にはないのかもしれん」
「じゃあ手書きでいいのに。まさか顔文字のためだけにワープロで打って、印字したとか」
「他に考えられない」
「いや、色々と想像はできる。たとえば……女の子の家にパソコンはない。だが、小学校でもIT授業をやろうっていうご時世だ。学校にはタブレットだけじゃなく、パソコンもあるだろう。そして、授業中にこっそり書いたラブレターをプリントアウトし、坊主に渡した、とか」
「ふむ。ないとは言えないな」
「あるいは……両家ともパソコンを所有しており、電子メールのやり取りも可能。この坊主は彼女からのメールを受信し、プリントアウトした物を携え、待ち合わせ場所に向かった、なんてのも考えられる」
「そうか。待ち合わせの場所や時間なんかをいちいちメモするよりは、印刷の方が早い……って、おかしいぞ、それ」
「どこが?」
「この手紙には、場所も時間も書かれてないじゃねえか」
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