魔王様は切実に隠居したい

塩おむすび

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第1章 とっても悪い魔王様

魔王様はお話し合いをする

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「面白そう、か…実に魔族らしい意見だ」

「デショ?♡俺ちゃんつまんないことは大っ嫌いだけド面白いことはだーい好きなノ♡」

「ほう…奇遇だな、我も面白いことは好きな方でな」

「ホント?♡じゃあ俺ちゃんたち運命かもねェ♡魔王サマの番犬クンで遊ぼウと思ったんだけど、魔王サマが遊んでくれるなら俺ちゃん大歓迎だヨォ♡」

「そうか」

「何して遊んでくれるのォ?♡おいかけっこ?かくれんぼ?それともおままごと?♡魔王サマならきっと死ぬまで付き合ってくれるヨねェ♡」

「そうだな…。ところでお前、誰に許可を取ってそこに立っている?」

「ゥンー?許可なんて必要ないデショ?俺ちゃんは自由が売りだからネ」

「あぁ、そうか。お前のようなものにはもっと分かりやすいようにした方がいいな。『跪け』」


 途端に目の前の男が体勢を崩し、地面に這いつくばるような格好になる。
 額には脂汗が浮かび、必死に立ちあがろうとしているのがわかるが、身体はブルブルと震えるだけで膝を立てることすらできていない。


「お前、その姿は蠍の一族のものだろう?決してその身を表に出さず、裏社会では名の知れた汚れ仕事を請け負う、毒と暗殺に長けた一族。我も実際に見たのは数回程度だが、その特徴的な尾には見覚えがある」

「ウ…ぐ…っ」

「あぁ、心配しなくてもよいぞ。お前にかけているのは重力の魔術だ。殺す気はないからその点は安心しろ。お前には色々と聞きたいことがあるからな。そんな簡単に死んでもらっては困る」


 あくまでも穏やかなノアの声は、この場には不釣り合いなように静かに響く。
 だがそれでいて大の男を地面に這いつくばらせるほどの魔術は、まるで相反する感情を表しているかのよう。


「カハッ…!」

「手始めに…お前は誰に依頼された?きっと我の有能な側近には目星がついていると思うが、本人の自白があった方が確実性が増すだろう。我の側近を狙ったのはなぜだ?我の側近を拐えば我の失脚が期待できると思ったからか?拐った後はどうするつもりだった?殺すか?嬲るか?それともどこかに売り飛ばすか?勇者の処刑を声高に叫ぶくらいだ、すぐに殺すのかと思えばそうではなかった。事実、不意打ちとはいえ最初のお前の攻撃をルークは避けることはできなかった。あの時に致死性の毒でも仕込んでいればきっと今頃息はなかったはずなのに。それでも生かしたのはなぜだ?それは依頼主の要望か?それともお前の独断か?先ほどお前は面白いことが好きだと言ったな。我の目の前でルークのことを拐う今回の依頼は、お前にとってはさぞ面白いことだっただろうな。どうだ?今の状況は。お前にとって最高にか?」


 ノアが押さえつけているのは蠍の男だけのはずなのに、だんだんと周囲の空気すら重くなっていく。ルークですら知らずのうちに呼吸が浅くなっていた。

 男の瞳から目を逸らさず、一歩また一歩と少しずつ距離が詰められる。まるで蛇が己の獲物を凝視して狙いを定めるかのように、隙を見せれば今にも喉笛を一瞬で食いちぎってしまいそうだ。


「あぁ、そうだ。お前には罰を与えないといけないな。一時期とはいえ、我の元からルークを奪った罰を。本来なら即刻死罪だが…なに、我は優しいからな。お前を殺すなんて物騒なことはしない。そうだな…お前、名前はなんだ?故郷はどこにある?蠍の一族は全ての情報が秘匿されているせいで情報がほとんどないんだ。お前の全てを明かせば命と同等の価値にはなるだろう。親はまだ生きているか?兄弟は?友や恋人はいるか?あぁでも、無理に話そうとしなくていいぞ。お前は自由が売りなのだろう?ならば尊重せねばな。我にとって時間をかけることは苦ではない。お前の行動に当たりをつけて、お前のことを聞いて回ればお前の情報は手に入るだろうか?それとも秘密にするだろうか?最初に言っただろう?お前にはんだ。たとえお前が自らの全てを明かさぬと決意しても、我はお前の全てを知るまで終わる気はないぞ。たとえば相手が教えたくないと拒めば…まぁその時は必要な犠牲が出るだけだ。だが…お前には関係はないだろう?面白いことが好きならば、それ以外のことはどうでもいいだろう?そういえば…お前は我と遊びたいのだったな。それならば『根くらべ』はどうだ?我がお前の情報を全て調べ上げることに根を上げるのが先か、それともお前が我に全てを話すのが先か。なに、時間はたっぷりとあるぞ。それこそ死ぬまで…我が直々にお前と遊んでやろうではないか」

「魔王様…ッ!」


 その声にノアの意識が戻る。
 振り返るとルークがノアを羽交締めにして、必死に止めようとしていた。


「落ち着いてください…っもうこれ以上あなたの身体が傷ついていくのを黙って見ていられません…!」

「………ああ、すまなかったな。少し、冷静ではなかったようだ。ルークはもう大丈夫なのか?」

「おかげさまで、あなたに毒の巡りを遅らせていただいたおかげで僕の拙い魔術でもなんとかなりました。それよりもあなたの治療をしましょう」

「むっ…すまないな…」


 どうやら無意識のうちに手のひらにまで力が入っていたらしい。
 爪が突き刺さり、ダラダラと血が流れていたそこにルークがポケットチーフを結び、手早く止血を施す。


「ゲホッ!カハッ…ハァ…ッ…」

「それで…お前が選べる選択肢は二つに一つだ。このまま口をつぐんで死ぬか、我に全てを話すか。お前はどちらを選ぶ?」


 苦しそうに顔を歪めた男は、ゆっくりと口を開いた。
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