16 / 65
第1章 とっても悪い魔王様
魔王様は悪い報せを聞く
しおりを挟む
今日も今日とて魔王城は平和な日々。
その城主であるノアは1人穏やかな日差しの下、自室でうとうとと昼寝をしていた。
その時だったーー。
「魔王様!」
「うわぁ!?」
ノックの音すら置き去りに、慌てた様子で部屋に駆け込んできたルークに、ノアはとっさに飛び上がるほど驚いた。
「な、なんだ…ルークか…。驚かせるなよ、全くもう…」
「申し訳ございません。ですが火急にお伝えしたいことがございまして、参上いたしました」
「ん?なんかあったのか?」
「『勇者』が、現れました」
・・・・・・・・・・
「ヴォルフ!」
ルークからの報告に急いで身なりを整えたノアは、玉座の間の扉を開いた。
そこには魔王幹部の面々が揃っていたが、その中で斥候部隊を担当していたヴォルフはその身のいたるところを血に染めて、苦しそうに地に伏して呻いていた。
「すまねぇ魔王様…。こんなダセェ姿になっちまって…」
「これ以上は話すな!余計な血が流れるであろう!おい、薬の用意はどうなっている!」
「とりあえず今はある分で対応しております。残りはメルト殿が随時作成をすると言っておられました」
「おまたセー、追加のおクスリだよー。あ、魔王サマ来タんだ」
どこからともなく現れたメルトは薬をドバドバとヴォルフにかける。「いてぇ!」と声が上がるが「ソレくらい我慢しテよー」と叱られている。
「それで、お前は次の勇者の姿は見たのか?」
「あいにくほとんど確認できやしませんでしたよ。俺たちは人間が普通じゃ気づかない距離から探りを入れてたのに、あいつは正確に俺たちのいる場所を攻撃してきたんだ!なんかカラクリがあるに違いねぇ!」
「ふむ…女神の加護で感覚を強くするものでも授かったか…?しかし今回の勇者はずいぶんと好戦的なようだ。とりあえず、今はまだ様子を見た方がいいだろう。幸いお前が勇者を発見したのは魔族と人間の領土の境だ、準備をする時間は大いにある。頼めるな、リリシュ?」
「ええ、もちろんですわ魔王様。それがアタシたちのお仕事ですもの、相手が男となれば尚更。魔王様が聞きたいコト、全て吸い取ってきて差し上げますわぁん」
扇状的な肢体のサキュバスは、ペロリと真っ赤な唇を蠱惑的に舐めて、ばっちりと長いまつげでウィンクまで決めた。
・・・・・・・・・・
「それで、この期間で揃えられた情報がこれってことですね…」
「ああ、どれもこれも聞いたことがない言葉ばかりだったらしい。だがこれで確信した。新しい勇者はこの世界の人間じゃない」
「この世界の人間じゃない…?そんな…じゃあ一体どこから…」
「おそらく、他の世界から呼び寄せられた人間だ。にわかには信じがたいが、古文書の一つにこの世界とは異なる世界が存在すると仮定付けて、その世界の情報を少しでも解明しようと試みた記録があった。その書物によれば、見たことのない植物の種や動物の皮なんかを呼び寄せることができたらしい。ただ、人間はおろか動物を含む生物を呼び寄せることができた記録は全くなかった。本当に異なる世界から今回の勇者を呼び寄せたのだとしたら…まさしく神のごとき術だ。おそらく…いや、確実に女神が直接介入してきている」
「女神様が…」
ノアの共犯になった時点で、いずれ人間の敵となることは決まっていた。
だが、一時は力を貸してくれていたはずの女神と敵対することになるとは、さすがのルークも思っていなかった。
「……怖いか?」
「怖くない…と言えば嘘になります。僕たちにとって女神様は絶対的な存在で、世界の浄化を願い、人間を良き方向に導く善なる光の神と教えられていますから。そんな存在と明確に敵対することになった事実は……それなりに覚悟していたとはいえすぐに飲み込むには重い、ですね…」
「別に、今すぐ決意を固めなきゃいけないわけじゃない。リリシュの部隊の話によれば相手は未だ境の町で逗留しているらしい。おおかた準備を整えているんだろう。そこからここまで来るのにせいぜい早くて半年から1年くらいだ。その間に考えればいい」
「そう、ですね…」
(けれど、なぜか…言いようのない嫌な予感がするんです。今にもあなたが、僕の目の前からいなくなってしまいそうな…そんな予感が)
ルークは自分の頭に浮かんだ最悪の想像をとっさに振り払う。そういうことを考えているから重要な場面での判断のミスを生むのだ。今はただ、目の前のことに集中した方がいい。
出会った時のようにノアの目の前にルークが跪くと、ノアは驚いたように目を瞠った。
「ノア様」
「なんだよ、改まって」
「今の僕はあなたのおかげで生きています。あなたに拾われたこの命にかけて、あなたの身は必ず守ります。だからどうか、あなただけでも生きてください」
ノアの手を取り、その手のひらに軽く口付ける。自らの悪夢を払い除けてくれたその手に、思いも言葉も願いも全て乗せられるようにと。
「大袈裟だなぁお前は。俺には優秀な側近がいるからな、きっと大丈夫だ。それに俺は強いからな!」
そう言うとノアは安心させるように笑う。
そうしてようやくルークも笑みを見せたのだった。
その城主であるノアは1人穏やかな日差しの下、自室でうとうとと昼寝をしていた。
その時だったーー。
「魔王様!」
「うわぁ!?」
ノックの音すら置き去りに、慌てた様子で部屋に駆け込んできたルークに、ノアはとっさに飛び上がるほど驚いた。
「な、なんだ…ルークか…。驚かせるなよ、全くもう…」
「申し訳ございません。ですが火急にお伝えしたいことがございまして、参上いたしました」
「ん?なんかあったのか?」
「『勇者』が、現れました」
・・・・・・・・・・
「ヴォルフ!」
ルークからの報告に急いで身なりを整えたノアは、玉座の間の扉を開いた。
そこには魔王幹部の面々が揃っていたが、その中で斥候部隊を担当していたヴォルフはその身のいたるところを血に染めて、苦しそうに地に伏して呻いていた。
「すまねぇ魔王様…。こんなダセェ姿になっちまって…」
「これ以上は話すな!余計な血が流れるであろう!おい、薬の用意はどうなっている!」
「とりあえず今はある分で対応しております。残りはメルト殿が随時作成をすると言っておられました」
「おまたセー、追加のおクスリだよー。あ、魔王サマ来タんだ」
どこからともなく現れたメルトは薬をドバドバとヴォルフにかける。「いてぇ!」と声が上がるが「ソレくらい我慢しテよー」と叱られている。
「それで、お前は次の勇者の姿は見たのか?」
「あいにくほとんど確認できやしませんでしたよ。俺たちは人間が普通じゃ気づかない距離から探りを入れてたのに、あいつは正確に俺たちのいる場所を攻撃してきたんだ!なんかカラクリがあるに違いねぇ!」
「ふむ…女神の加護で感覚を強くするものでも授かったか…?しかし今回の勇者はずいぶんと好戦的なようだ。とりあえず、今はまだ様子を見た方がいいだろう。幸いお前が勇者を発見したのは魔族と人間の領土の境だ、準備をする時間は大いにある。頼めるな、リリシュ?」
「ええ、もちろんですわ魔王様。それがアタシたちのお仕事ですもの、相手が男となれば尚更。魔王様が聞きたいコト、全て吸い取ってきて差し上げますわぁん」
扇状的な肢体のサキュバスは、ペロリと真っ赤な唇を蠱惑的に舐めて、ばっちりと長いまつげでウィンクまで決めた。
・・・・・・・・・・
「それで、この期間で揃えられた情報がこれってことですね…」
「ああ、どれもこれも聞いたことがない言葉ばかりだったらしい。だがこれで確信した。新しい勇者はこの世界の人間じゃない」
「この世界の人間じゃない…?そんな…じゃあ一体どこから…」
「おそらく、他の世界から呼び寄せられた人間だ。にわかには信じがたいが、古文書の一つにこの世界とは異なる世界が存在すると仮定付けて、その世界の情報を少しでも解明しようと試みた記録があった。その書物によれば、見たことのない植物の種や動物の皮なんかを呼び寄せることができたらしい。ただ、人間はおろか動物を含む生物を呼び寄せることができた記録は全くなかった。本当に異なる世界から今回の勇者を呼び寄せたのだとしたら…まさしく神のごとき術だ。おそらく…いや、確実に女神が直接介入してきている」
「女神様が…」
ノアの共犯になった時点で、いずれ人間の敵となることは決まっていた。
だが、一時は力を貸してくれていたはずの女神と敵対することになるとは、さすがのルークも思っていなかった。
「……怖いか?」
「怖くない…と言えば嘘になります。僕たちにとって女神様は絶対的な存在で、世界の浄化を願い、人間を良き方向に導く善なる光の神と教えられていますから。そんな存在と明確に敵対することになった事実は……それなりに覚悟していたとはいえすぐに飲み込むには重い、ですね…」
「別に、今すぐ決意を固めなきゃいけないわけじゃない。リリシュの部隊の話によれば相手は未だ境の町で逗留しているらしい。おおかた準備を整えているんだろう。そこからここまで来るのにせいぜい早くて半年から1年くらいだ。その間に考えればいい」
「そう、ですね…」
(けれど、なぜか…言いようのない嫌な予感がするんです。今にもあなたが、僕の目の前からいなくなってしまいそうな…そんな予感が)
ルークは自分の頭に浮かんだ最悪の想像をとっさに振り払う。そういうことを考えているから重要な場面での判断のミスを生むのだ。今はただ、目の前のことに集中した方がいい。
出会った時のようにノアの目の前にルークが跪くと、ノアは驚いたように目を瞠った。
「ノア様」
「なんだよ、改まって」
「今の僕はあなたのおかげで生きています。あなたに拾われたこの命にかけて、あなたの身は必ず守ります。だからどうか、あなただけでも生きてください」
ノアの手を取り、その手のひらに軽く口付ける。自らの悪夢を払い除けてくれたその手に、思いも言葉も願いも全て乗せられるようにと。
「大袈裟だなぁお前は。俺には優秀な側近がいるからな、きっと大丈夫だ。それに俺は強いからな!」
そう言うとノアは安心させるように笑う。
そうしてようやくルークも笑みを見せたのだった。
45
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
アルカナの英雄は死神皇子に嫁ぐ
霖
BL
難攻不落と言われたアルカナ砦を攻略し、帝都に名が届くほどの軍功を上げた辺境国王の庶子リセル。しかし英雄として凱旋したリセルを待ち受けていたのは、帝国の第三皇子ジュノビオの不可解な求婚だった。
実直皇子×お人好し美人
※ほかのサイトにも同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる