【8話完結】あなたの瞳に映るのは、僕じゃなくていい。〜死に戻り薬師は、元旦那様の恋を応援する〜

キノア9g

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第7話 再会と告白

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 目を覚ますと、そこは柔らかな朝の光の中だった。
 昨夜の嵐が嘘のように、窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえる。

 僕はゆっくりと、自分の体を確認した。
 呼吸が楽だ。肺を焼くような痛みも、喉に詰まる灰の味もしない。
 恐る恐る、布団から右腕を出してみる。
 白く石化し、崩れかけていたはずの指先は、健康的な肌色を取り戻していた。
 ギュッ、と拳を握ってみる。確かな力が入り、温かい血が巡っているのがわかる。

「……治ってる」

 夢じゃなかった。
 あの嵐の夜、クライヴ先輩が駆けつけてくれて、僕を救ってくれたのだ。
 『重力魔法』による物理的な崩壊阻止と、『月の雫の秘薬』による組織の再生。
 その二つの奇跡が、死にかけの僕をこの世に繋ぎ止めたのだ。

「う……ううッ、ノア様ぁ……!」

 ベッドの脇から、すすり泣く声が聞こえた。
 見ると、従者のルカがベッド脇の椅子に座り泣いていた。
 その目はウサギのように真っ赤に腫れている。

「よかった、本当によかった……! 俺、もう駄目かと……!」
「ごめんね、ルカ。心配かけたね」
「心配なんて次元じゃないですよ! 阿保! ノア様の頓珍漢!」

 ルカは僕の手を握りしめ、ボロボロと涙をこぼした。
 彼は僕の家族であり、親友だ。彼がいなければ、僕はあのまま孤独に死んでいただろう。

「オルステッド先輩に……感謝してくださいよ。あの方、一晩中ずっとノア様の手を握って、魔力を送り続けていたんですから」
「先輩が……?」
「ええ。あんなに必死な姿、初めて見ました。……『絶対に死なせない』って、何百回も呟いて」

 ルカの言葉に、胸が熱くなる。
 部屋を見渡したが、クライヴ先輩の姿はない。
 ルカが鼻をすすりながら言った。

「薬の残りを調整しに、外の井戸へ行かれました。……ノア様が目を覚ましたら呼んでこいって言われてたんです。呼んできますね」
「待って」

 立ち上がろうとしたルカを、僕は呼び止めた。
 心臓が早鐘を打っている。
 会いたい。けれど、怖い。

 昨夜、彼は言った。「俺も記憶を持っている」と。
 そして「遠ざけたのは守るためだった」と。
 それが真実なら、僕はとんでもない勘違いをしていたことになる。
 でも、どうしても信じられないのだ。
 あんなにエレナ様を大切に想っていた彼が、どうして僕なんかを?

「……僕から、行くよ」

 僕は寝台から降りた。
 足元はまだ少しふらつくけれど、歩けないことはない。
 自分の足で、彼の元へ行きたかった。


 ◇◇◇

 あばら家の外に出ると、森の空気は洗われたように澄んでいた。
 濡れた草の匂いがする。

 井戸のそばに、彼はいた。
 漆黒の髪は乱れ、着ていたローブは泥だらけだ。
 彼は井戸の縁に腰掛け、小さな薬瓶を太陽の光にかざして確認していた。
 その横顔は、僕が知っている「完璧な貴公子」ではなく、ただの一人の疲れ切った青年のものだった。

「……先輩」

 声をかけると、彼の肩がビクリと震えた。
 ゆっくりと振り返った黄金の瞳が、僕を捕らえる。
 その瞳が、見る見るうちに潤み、安堵の色に染まっていくのを見て、僕は胸が張り裂けそうになった。

「ノア……! もう起きて、大丈夫なのか?」

 彼は薬瓶を置き、駆け寄ろうとして――ふと足を止めた。
 伸ばしかけた手を、躊躇うように引っ込める。
 その仕草が、彼もまた僕との距離を測りかねているのだと物語っていた。

「……はい。体は、もう痛くありません」
「そうか。……よかった。本当によかった」

 彼は深く息を吐き、脱力したように笑った。
 その笑顔を見た瞬間、僕の目から涙が溢れた。
 ずっと見たかった。
 冷たい能面のような顔じゃなくて、この優しい、温かい笑顔を。

「先輩。……助けてくれて、ありがとうございました」
「礼を言うのは俺の方だ。お前がレシピを残してくれなければ、俺は何もできなかった」
「でも、先輩の魔法がなければ、僕は灰になっていました」

 二人の間に、沈黙が落ちる。
 それは気まずい沈黙ではなく、互いの存在を噛み締めるような、静かで重い時間だった。
 僕は、どうしても聞かなければならないことがあった。
 震える唇を開く。

「……昨夜のこと、覚えていますか」
「ああ」
「先輩も、記憶を持っていたと……」
「事実だ」

 クライヴ先輩は、真っ直ぐに僕を見た。

「俺は、前の世界でお前を死なせた。……エレナの病気に囚われ、お前の献身に甘え、結果としてお前を孤独にさせた。それが許せなくて、禁忌の魔法で時間を戻したんだ」
「……僕のために?」
「そうだ。今度こそお前を救うために。……だが、俺が関われば、またお前は俺のために犠牲になるんじゃないかと思った。だから、わざと冷たくした。嫌われれば、お前は俺から離れて幸せになれると信じて」

 彼の声が震えている。
 『虫唾が走る』と言ったあの日の彼が、どれほどの思いで心を殺していたのか。今なら痛いほどわかる。

 僕は泣き笑いのような顔で言った。

「僕が、先輩を嫌いになれるわけないじゃないですか。……何度冷たくされても、何度突き放されても、僕はあなたが好きでした。前の世界でも、この世界でも」
「ノア……」
「先輩が愛しているエレナ様と結ばれれば、今度こそ幸せになれると思ったから」

 そう。ここが一番の誤算だった。
 僕たちは互いに「相手の幸せ」を願っていたけれど、その「幸せの定義」が決定的にずれていたのだ。

「先輩。……エレナ様は、ご無事ですか?」
「ああ。今のところ発症の兆候はない。それに、もし発症しても、もう薬はある」
「よかった……」

 僕は心から安堵した。
 これで、僕の役目は本当に終わりだ。
 僕は涙を拭い、彼に向かって微笑んだ。

「それなら、もう大丈夫ですね。……僕という『脇役』も助かって、エレナ様も無事。薬もある。これ以上の幸せはありません」

 僕は一歩、後ろに下がった。

「先輩。今度こそ、エレナ様と幸せになってください。……僕が邪魔をしない世界で、二人で笑っていてください。それが、僕の望みです」

 言い切った。
 これでいい。彼が僕を助けてくれたのは、責任感と、かつての情からだ。
 でも、彼が本来結ばれるべき相手は、家柄も釣り合う幼馴染のエレナ様だ。僕なんかが横にいていい人じゃない。
 背を向けようとした、その時だった。

「――待て」

 ドンッ、と空間が歪んだ。
 背後から強烈な『引力』が発生し、僕の体は抗う間もなく引き戻された。

「わっ!?」

 気がつくと、僕はクライヴ先輩の腕の中に閉じ込められていた。
 彼の胸板に顔が埋まる。心臓の音が、痛いほど速い。

「行くな。……勝手に話を終わらせるな」
「せ、先輩? 離してくださ……」
「離さない。二度と離すものか」

 彼の腕に力がこもる。痛いほどに。
 耳元で、彼の切迫した声が響く。

「まだわからないのか、ノア。……俺が幸せになれる相手は、エレナじゃない。お前だ。お前しかいないんだ!」
「……え?」
「前の世界で、俺がエレナと結婚したのは義務だった。彼女は妹のような存在で、守らなければならなかった。……そこに愛はなかった」

 僕は息を呑んだ。
 愛が、なかった?
 あんなに必死に研究していたのに?

「俺が本当に欲しかったのは、いつだってノア、お前だったんだ。……学生時代、お前が俺の後ろをついて回ってくれていた頃から、ずっと」
「嘘だ……だって、先輩は、僕のことなんて……」
「身分が違うから。エレナとの婚約があったから。お前を愛人にすることはできないから。……そうやって自分に言い訳をして、お前の好意に気づかないフリをした。……俺は、最低の臆病者だ」

 クライヴ先輩の声が、懺悔するように降り注ぐ。

「お前が死んだあの日、俺は絶望した。でもそれは、優秀な助手を失ったからじゃない。……『愛している』と、たった一言が言えなかった自分が許せなかったからだ」

 彼の腕が震えている。
 僕の肩に、熱い雫が落ちた。

「ノア。……俺の瞳に映っているのは、最初から最後まで、お前だけだ。エレナでも、他の誰でもない。……お前がいなきゃ、俺の世界に幸せなんか訪れない」

 その言葉が、僕の心の奥底に封印していた蓋をこじ開けた。
 
 ――『旦那様の瞳に、僕は映らない』
 そう思い込んでいた。
 彼が見ているのは、常に「亡き妻」や「研究」で、僕のことは便利な道具としてしか見ていないと。
 でも、違ったんだ。
 彼はずっと、僕を見てくれていた。
 不器用で、言葉足らずで、ひねくれていて、でも誰よりも深く、僕を愛してくれていたんだ。

「……う、あぁ……っ」

 堪えきれず、僕は彼の胸に顔を埋めて泣き出した。
 もう、我慢しなくていいんだ。
 「身を引く」なんて、かっこつけなくていいんだ。

「先輩……っ、好きです……! ずっと、ずっと好きでした……!」
「ああ、知っている。……俺もだ。愛している、ノア」

 彼は僕の顎を持ち上げ、涙で濡れた瞳を見つめた。
 その黄金の瞳には、もう迷いも冷たさもない。
 あるのは、燃えるような情熱と、深い愛だけ。
 彼が顔を近づけてくる。
 唇が重なった。
 昨夜の、薬を飲ませるための口づけとは違う。
 優しくて、甘くて、それでいて独占欲に満ちた、誓いのキス。
 森の風が、二人の周りを優しく吹き抜けていく。
 長い、長いすれ違いの冬が終わり、ようやく本当の春が訪れた瞬間だった。


 ◇◇◇

 しばらくして、唇が離れた。
 僕たちは互いに顔を赤くして、でも離れがたくて、額を合わせたまま見つめ合った。

「……ノア」

 クライヴ先輩が、真剣な表情で切り出した。

「改めて、言わせてくれ」
「はい」
「俺はもう、自分の気持ちに嘘はつかない。世間体も、家柄もどうでもいい。……ただ、お前と一緒に生きていきたい」

 彼は僕の手を取り、その薬指に口づけを落とした。

「ノア・ベルベット。……また、俺の妻になってくれないか? 今度は、かりそめの結婚なんかじゃなく。本当の伴侶として」
「……はい」

 涙がまた溢れてくる。でも今度の涙は、悲しいものじゃない。

「もちろんです。……僕でよければ、一生、あなたのそばにいさせてください」
「『僕でよければ』じゃない。『お前じゃなきゃだめ』なんだ」

 彼は満足そうに笑うと、再び僕を強く抱きしめた。

「帰ろう、ノア。俺たちの家に」
「……はい、旦那様」


 ◇◇◇

 それから数日後。
 アカデミーは大騒ぎになっていた。
 失踪していたノア・ベルベットが帰還したこと。
 そして、あの冷徹な「黒の貴公子」と呼ばれたクライヴ・オルステッドが、ノアを溺愛するあまり、片時も離そうとしないこと。
 さらに、彼らが共同で『白灰病』の特効薬を完成させたという報せは、瞬く間に国中を駆け巡った。

 研究室にて。
 部屋の隅では、ルカが鼻歌交じりに散らばった本を片付けている。あの嵐の夜、泥だらけになって走った彼は今、誰よりも嬉しそうな顔で二人の生活を支えていた。

 クライヴは机に向かいながら、そばにいるノアに声をかけた。

「ノア、コーヒーを頼めるか」
「はい、ただいま」

 ノアが淹れたコーヒーを受け取ると、クライヴは一口飲み、相好を崩した。

「……やはり、お前の淹れるコーヒーが世界一美味い」
「ふふ、お世辞が上手くなりましたね」
「本心だ」

 そこへ、ノックの音が響いた。
 扉が開くと、そこにはエレナ・フォン・ベルグマンが立っていた。
 彼女は少し緊張した面持ちだったが、その顔色は良く、健康そのものだ。

「失礼します……クライヴ様、それにベルベット様」
「エレナ嬢」

 クライヴは穏やかに応じた。以前のような、拒絶するような冷たさはもうない。
 エレナは深々と頭を下げた。

「この度は、薬を開発おめでとうございます。幼馴染として鼻が高いですわ。お二人のおかげで、これからは皆が病に怯えることなく過ごせますのね」
「祝いの言葉ありがとう。……これは、ノアがいたからこそ成し遂げられた成果だ」

 クライヴが自然とノアの腰に手を回す。
 エレナはそれを見て、少し驚いたように目を瞬かせ、それから納得したように優しく微笑んだ。

「ふふ。お二人とも……とてもお似合いですわ」
「えっ?」

 ノアが驚くと、エレナはクライヴに向き直って言った。

「クライヴ様。最近、ずっと私を避けていらっしゃったでしょう? 私、何か失礼をしてしまったのかと、ずっと心配していたのです」
「……ああ、それは」
「でも、今日のお二人を見てよくわかりました。……クライヴ様には、こんなに大切に想っている方がいらしたのですね。私のことなんて目に入らないくらいに」

 彼女は悪戯っぽく、でも温かく僕たちを見つめた。

「幼馴染として、安心しました。クライヴ様がこんなに優しいお顔をなさるなんて、初めて見ましたから」
「……申し訳ない、エレナ嬢。心配をかけた」
「いいえ、お幸せに。ベルベット様、私の大切な幼馴染をよろしくお願いしますわ」

 彼女は軽やかに去っていった。
 その背中には、もう悲劇のヒロインの影はない。彼女もまた、決められた運命ではなく、自分の足で歩き始めたのだ。

「……よかったですね、先輩」
「ああ。だが、一つ気になることがある」
「はい?」

 クライヴはノアに向き直り、その瞳を覗き込んだ。

「『先輩』はやめろ。『様』も禁止だ。……俺たちはもう、婚約者同士だろう?」
「あ……」

 ノアは顔を真っ赤にして、小さく頷いた。

「は、はい……クライヴさん」
「……ぎこちないところが、ノアらしいな」

 クライヴは楽しそうに笑い、ノアに口づけをした。
 窓の外には、雨上がりの青空が広がっている。
 二度目の人生、二人が辿り着いたのは、誰も犠牲にならない、本当の幸福な結末だった。
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