【8話完結】転生戦士に婚約者認定されましたが、冗談だったんですってば!

キノア9g

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4話:世話を焼くだけだったはずなのに

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 レオンの誤解は、一向に解ける気配がなかった。

 むしろ、日を追うごとに確信を強めているようにすら見える。

 今日も俺の横を当然のように歩き、些細なことまで気にかけてくる。

 まるで”婚約者”としての責任を果たすかのように。

 教室の廊下を歩きながら、俺は隣を歩くレオンの横顔を盗み見た。相変わらず整った顔立ちだが、どこか責任感に満ちた表情を浮かべている。まるで大切な任務を遂行しているかのように。

(……責任ってなんだよ)

 はっきり言おう。俺は困惑している。

 昨日の昼休み、桐谷から事情を聞いたときは「レオンにちゃんと説明して誤解を解くしかない」と思った。

 だが、その肝心の機会が、全く訪れない。

 理由は簡単だった。

 レオンが、俺に一切の隙を与えないからだ。


 ◇◇◇

「直哉、そろそろ昼にするか」

 昼休み。

 レオンは、当然のように俺の机の前に立ち、俺の隣の席を引いた。

 周りの生徒たちがざわめく中、俺は苦笑いを浮かべながら教科書を片付けた。レオンの行動は既に日常の一部になりつつあり、クラスメイトたちも慣れた様子で見守っている。

「お前の分も用意してきたぞ」

 そう言って取り出されたのは、やたら手の込んだ弁当だった。

 どうやら朝から作ってきたらしい。

 三段重ねの弁当箱は、まるで料亭の仕出し弁当のように美しく盛り付けられていた。彩り豊かな野菜の煮物から、きれいに切り分けられた卵焼きまで、明らかに相当な時間をかけて作られたものだ。

「いや、なんで俺の分まであるんだよ……」

「婚約者の食事を用意するのは当然のことだろう」

「だから、それが誤解――」

 そう言いかけた瞬間、レオンが俺の弁当をじっと見た。

 俺の弁当は、母親が適当に詰めてくれた冷凍食品中心の簡素なものだった。レオンの手作り弁当と並べると、その差は歴然としている。

「……その揚げ物、昨日も食べていたな」

「え?」

「栄養が偏る。明日からは、俺が全て作る」

「いや、待て!?」

 どうしてそうなる!!?

 思わず叫びそうになる俺をよそに、レオンは「それが良いな」と勝手に結論を出していた。

 レオンは俺の弁当箱の蓋を閉めると、自分の弁当を俺の前に押し出した。その動作は実に自然で、まるで長年連れ添った夫婦のようだった。

「お前は何も心配しなくていい。俺が毎朝準備するから」

「心配しかしないわ!!」

 訂正する間もなく、話がどんどん進んでいく。

 もうすでに「婚約者として食事を用意する」のが既定事項になっている。

 周りの生徒たちは、俺たちのやり取りを興味深そうに見つめていた。特に女子生徒たちは、レオンの献身的な態度に感嘆のため息を漏らしている。

(ダメだ、話が通じねえ……!!)


 ◇◇◇

 放課後。

 俺はぐったりと机に突っ伏していた。

 夕日が教室の窓から差し込み、静かになった教室に長い影を落としている。他の生徒たちは既に帰宅の準備を済ませ、部活動に向かったり、友達と連れ立って帰路についていた。

「……桐谷」

「おう……」

 桐谷は自分の席で、俺と同じように机に突っ伏していた。どうやら俺の苦悩を我が事のように感じているらしい。

「……どうしてこうなった」

「……ほんとにな……」

 桐谷も、もはや同情の目を向けてくる。

 お前のせいだと言いたい気持ちは山ほどあるが、俺の心はもう疲れ切っていた。

 机の上には、レオンが用意してくれた弁当の空き箱が置かれている。結局、全部食べてしまった。味は確かに美味しかったが、それがまた複雑な気持ちにさせる。

(……どうしたら誤解が解けるんだ?)

 思わずため息をついて、俺は立ち上がった。

「帰るわ……」

「あ、待て、レオンは?」

「今日は先に帰ったみたいだし」

 珍しいこともあるもんだ、と思いながら廊下を歩く。

 考え事をしながら歩いていたせいで、足元の段差に気づくのが遅れた。

 校舎の古い階段は、長年の使用で段差が微妙に削れている。普段なら何気なく通り過ぎる場所だが、今日は心ここにあらずの状態だった。

「あっ……」

 バランスを崩す。

 次の瞬間、強い腕が俺の体を支えた。

「……!!?」

 ふわりと体が浮く。

 気づいた時には、俺は誰かの腕の中に抱き上げられていた。

 制服の胸元が目の前にあり、彼の体温と石鹸の香りが鼻先をくすぐった。彼の腕は思っていたよりも筋肉質で、俺の体重を軽々と支えている。

「……大丈夫か?」

 耳元で、落ち着いた低い声が響く。

 目の前にいたのは――レオンだった。

 間近で見るレオンの顔は、いつもの冷静さの中に安堵の表情を浮かべていた。長い睫毛が夕日に照らされて、思わず見とれてしまいそうになる。

「俺の伴侶に怪我をさせるわけにはいかないからな」

 あまりに自然に言われて、思考が一瞬止まる。

「お、おまっ……」

「危なかったな」

 レオンは、俺の体をしっかり支えたまま、ふっと息を吐く。

 その顔は、心の底から安堵しているように見えた。

 俺を抱きかかえたまま、レオンは階段の上り口まで歩いた。彼の足取りは安定しており、俺の体重など全く気にしていない様子だった。

(……なんだ、これ)

 心臓が、やけにうるさい。

「……お、おろせ!!」

 慌てて言うと、レオンは少し驚いたような顔をしてから、すぐに俺を下ろした。

 足が地面に着くと、急に冷たい空気が体を包んだ。さっきまでのレオンの体温が恋しくなるような、不思議な感覚だった。

「すまない。驚かせたか?」

「そ、そういう問題じゃなくて!!!」

 俺は顔を逸らして、無駄に早足でその場を離れた。

 背後からレオンが「気をつけろよ」と言う声が聞こえたが、今は振り返れなかった。

 夕暮れの校舎を急ぎ足で歩きながら、俺の心は混乱していた。レオンの腕の中で感じた安心感、彼の真剣な表情、そして自分の心臓の異常な鼓動。

(……なんだ、あの腕の中の安心感)

 胸の奥が、ざわつく。

 確かに、これまで家族からもそんなに気にかけられたことはなかった。

 怪我をしても「気をつけなさいよ」と言われるくらいで、特別甘やかされた記憶もない。

 だからかもしれない。

 レオンの言葉が、妙に心に引っかかった。

「お前に何かあれば、すぐに助ける」

 その誠実さが、俺を守ろうとする強い意志が、頭から離れなくなる。

 家に帰る道すがら、俺は何度も振り返った。レオンの姿はもう見えなかったが、彼の温もりはまだ体に残っているような気がした。


 ◇◇◇

 翌日から、俺はレオンの行動が妙に気になるようになった。

 朝のホームルーム前、レオンは約束通り手作りの弁当を持参していた。今日は和風の弁当らしく、出汁の良い香りが教室に漂っている。クラスメイトたちも、その香りに気づいて振り返った。

「おはよう、直哉」

「あ、ああ……おはよう」

 レオンは俺の机に弁当を置くと、いつものように隣の席に腰掛けた。その一連の動作は、もう完全に日常の一部として定着している。

 俺は、昨日の出来事を思い出しながら、レオンの横顔を見つめた。
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