「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g

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第3章 俺たちは『公務』じゃなくて、『新婚旅行(ハネムーン)』がしたい

第23話:雪見風呂と、とろける甘い夜

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 ダンジョンから帰還した俺たちは、そのまま領主の館の最上階にある『特別浴室』へと直行していた。

「……うわぁ、すっげぇ……!」

 脱衣所を抜けた先に広がっていたのは、まさに地上の楽園だった。
 広々とした湯船は総檜(ひのき)造りならぬ、古代樹の木材で作られており、なみなみと注がれたお湯から白い湯気が立ち上っている。
 そして何より、壁一面がガラス張りになっていて、そこから白銀領の雪景色と、ライトアップされた氷の庭園が一望できるのだ。

「気に入ったか? ここは領主専用の雪見風呂だ」
「最高すぎるだろ……。旅館かよ」
「さあ、入ろう。体が冷えてしまったからな」

 オルドリンは躊躇なく服を脱ぎ捨てると、俺の手を引いて浴室へと足を踏み入れた。
 俺も慌てて彼に続く。

 かけ湯をして、まずは湯船へ。
 ザブゥン……と音を立ててお湯に浸かる。

「はぁぁ……生き返るぅ……」

 俺は思わずおっさんのような声を漏らした。
 熱めのお湯が、冷え切った手足の先まで染み渡っていく。
 ダンジョンでの疲れが、湯気と共にお湯に溶け出していくようだ。

「……ふふ。いい顔だ」

 隣に座ったオルドリンが、濡れた髪をかき上げながら俺を見つめている。
 湯気で少し上気した彼の顔は、破壊力が凄まじい。色気がダダ漏れだ。
 しばらくお湯を堪能した後、彼がちゃぷんと水音を立てて立ち上がった。

「さて、少し体も温まったな。……ルシアン、一度上がろうか」
「え?」
「体を洗わないとな。こっちへ」

 彼に促され、俺も湯船から出る。
 浴室の一角にある洗い場には、大理石のような滑らかな石でできた椅子が並んでいた。
 彼がそこに腰掛け、自分の前の椅子をポンポンと叩いた。

「さあ、ここに座って背中を向けてくれ」
「えっ、本当に洗うのか?」
「当然だ。約束しただろう?」

 彼は俺を自分の方へ引き寄せると、柔らかいスポンジにたっぷりと泡を立てた。
 そして、俺の背中を優しく、愛おしむように洗い始めた。

「……くすぐったいって」
「じっとしていてくれ。……君の肌は、雪のように白いな」

 彼の手が背筋を滑り、肩、そして首筋へと這い上がる。
 ただ洗われているだけなのに、彼の指先から微弱な電流が流れてくるようで、俺は変な声が出そうになるのを必死に堪えた。

「……今日はよく頑張ったな。あの巨人の懐に飛び込んだ時は、心臓が止まるかと思ったぞ」
「信頼してくれてただろ?」
「ああ。だが、心配なものは心配だ。……だから今は、こうして無事な体を確かめさせてくれ」

 彼はスポンジを置き、直接素手で俺の肌を撫でた。
 その手つきは、壊れ物を扱うように繊細で、それでいて所有欲に満ちていた。

「よし、次は前だ」
「自分で洗えるって!」
「ダメだ。今日は『お姫様(プリンセス)待遇』の日だと言っただろう?」

 結局、俺は全身くまなく、最強の魔法使い様に洗い清められることになった。
 恥ずかしさで俺が茹でダコみたいになっているのを、彼は満足そうに眺めていた。確信犯だ。


 ◇◇◇

 体を洗い終え、再び二人で湯船に浸かる。
 外はしんしんと雪が降っている。
 極寒の雪景色を見ながら、熱いお湯に浸かり、隣には最愛のパートナー。
 これ以上の贅沢があるだろうか。

「……ルシアン」

 不意に、背後から抱きしめられた。
 オルドリンが俺の背中に密着し、腕を回して俺を閉じ込める。
 広い湯船なんだから向かい合えばいいのに、彼はどうしてもくっつきたいらしい。

「……ん?」
「幸せだ」

 彼が俺の耳元で囁く。吐息が熱い。

「こうして君を腕の中に閉じ込めて、誰もいない場所で二人きり。……世界で一番贅沢な時間だ」
「……そうだな」

 俺は彼の腕に自分の手を重ねた。
 心臓の音が背中越しに伝わってくる。トクトクと、俺と同じリズムで刻んでいる。

「なあ、オルドリン」
「なんだ」
「俺、アンタと結婚してよかった」

 俺が素直な気持ちを伝えると、彼は一瞬息を呑み、それから俺を抱く腕に力を込めた。

「……卑怯だぞ、そんなタイミングで言うのは」
「事実だし」
「……私の方こそ。君がいない人生など、もう考えられない」

 彼は俺の濡れたうなじに、何度もキスを落とした。

「愛している。……骨の髄まで、君に夢中だ」
「重いって」
「構わん。この愛の重さで、君をどこにも行かせないようにするつもりだ」

 トロトロに溶けそうな甘い空気。
 のぼせたのか、それとも彼の熱にあてられたのか。
 俺は心地よい眩暈を感じながら、彼の体温に身を委ねた。


 ◇◇◇

 風呂上がり。
 ふわふわのバスローブに身を包んだ俺たちは、暖炉のあるリビングで夕食をとることにした。
 テーブルに用意されていたのは、湯気を上げる鍋料理だ。

「おおっ! これは……!」
「『白銀牛の湯引き鍋』だ。薄切りの肉をさっと出汁にくぐらせて食べるのが、一番美味い」

 霜降りの極上肉が、大皿に美しく盛られている。
 俺はゴクリと喉を鳴らした。
 風呂上がりの空腹に、このビジュアルは反則だ。

「さあ、座ってくれ」

 オルドリンは俺をソファに座らせると、自分はその隣に座り、甲斐甲斐しく肉を鍋に入れた。
 ほんのりピンク色が残る絶妙な加減で引き上げ、特製のタレに絡める。
 そして――。

「あーん」
「……自分で食うよ」
「手を使ったら疲れるだろう? 私が食べさせてやる」

 彼は箸を突き出したまま動かない。
 今日の彼は「とことん甘やかす」と決めているらしい。抵抗しても無駄だ。
 俺は観念して口を開けた。

「……んぐ」

 口に入れた瞬間、肉が溶けた。
 脂の甘みと、肉の旨味が口いっぱいに広がる。

「んん~っ!! 美味い!!」
「そうか、よかった」
「柔らかっ! なんだこれ、飲み物か!?」

 俺が目を丸くして感動すると、オルドリンは嬉しそうに目を細め、次々と野菜や肉を俺の口へ運んでくる。

「ほら、野菜も食べろ」
「んむ……美味い」
「この酒も合うぞ。少し飲んでみるか?」

 彼が自分のグラスを差し出してくる。
 俺がそれを一口飲むと、彼も同じ場所から口をつけて酒を飲んだ。
 間接キスとか、そういうレベルの恥じらいはもう彼にはないらしい。

「……ふぅ。食ったぁ」

 鍋が空になる頃には、俺のお腹はパンパンに満たされていた。
 心も体も満腹だ。
 俺はソファにだらしなくもたれかかった。

「満足したか?」
「ああ、最高だった。……動けねぇ」
「なら、動かなくていい」

 オルドリンは自然な動作で俺を膝の上に乗せ(もはや定位置だ)、後ろから抱きしめた。
 暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが響く。

「……帰りたくないなぁ」

 俺はポツリと漏らした。
 王都に戻れば、また彼は忙しい領主様で、俺は貴族社会の付き合いがある。
 こんな風に、誰の目も気にせず一日中イチャイチャできる時間は、そう多くはない。

「……なら、もう少し滞在を延ばすか?」
「いや、そうもいかないだろ。アンタも仕事あるし」
「君が望むなら、仕事など全て投げ出してここへ移住してもいいぞ」

 彼は真顔で恐ろしいことを言う。
 でも、その瞳は優しかった。

「……場所など関係ないさ。王都に戻っても、二人の時間は必ず作る。私が作ってみせる」
「……うん」
「毎日君を抱きしめて、美味しいものを食べさせて、愛を囁こう。……覚悟しておけ」

 彼は俺の頬を指でなぞり、甘く微笑んだ。

「君は一生、私の愛から逃げられないのだからな」
「……望むところだよ、旦那様」

 俺は彼の首に腕を回し、自分からキスをした。
 鍋の出汁の香りと、甘いお酒の味。
 そして何より、彼自身の甘い愛の味がした。

 夜はまだ長い。
 外の雪が止むまで、いや、止んでからも。
 俺たちのとろけるような甘い時間は、まだまだ続きそうだった。
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