「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g

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第7章 俺たちは『呪われた生贄』じゃなくて、『里帰り』がしたい

第56話 魔王が落とした、特大の「置き土産」

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 最深部の広間に鎮座していたのは、見上げるほどの巨体を持つ『泥のゴーレム(マッド・ジャイアント)』だった。
 不定形の泥で構成された身体は、物理攻撃を無効化する厄介な特性を持っている。斬っても殴っても、ぬるりと衝撃を吸収して再生してしまうのだ。

「グオオオオオッ!!」

 ゴーレムが咆哮し、丸太のような腕を振り下ろす。

 ドォォン!

 地面が揺れ、泥飛沫が散弾のように飛び散る。

「くっ、相性が悪いな!」

 俺は風魔法で身体を浮かせ、泥の津波を回避した。
 俺が得意とする風の刃(ウィンド・カッター)は、切れ味こそ鋭いが、相手が液体に近い泥では効果が薄い。切り裂いたそばから、断面がドロリと塞がってしまうのだ。

「くそっ、キリがねえ! 核(コア)を狙おうにも、あの分厚い装甲じゃ届かない!」

 再生速度が速すぎる。
 俺が焦りを感じて舌打ちをした、その時だった。

「――焦るな、ルシアン」

 戦場に似つかわしくない、落ち着き払った声が耳元で響いた。
 気づけば、俺のすぐ背後にオルドリンが立っていた。
 そしてその背後には、氷の箱に閉じ込められたまま浮遊している兄貴(ファビアン)の姿もある。箱の中で叫んでいるようだが、防音結界のせいで声は届かない。シュールな光景だ。

 泥の雨が降り注ぐ中、オルドリンは優雅に指先だけで氷の傘を展開し、俺と自分(と、ついでに兄貴の箱)を守っている。

「君が風穴を開ければいい。私がそこを『固定』する」
「固定?」
「ああ。君の風が作った道を、私が永遠にするだけだ」

 オルドリンは短く告げると、杖を構えることなく、ただスッと敵を見据えた。
 具体的な指示はない。
 だが、俺には彼の意図が痛いほど伝わってきた。
 言葉はいらない。「踊ろう」という誘いだけで十分だ。

「……オーライ。合わせろよ、旦那様!」
「仰せのままに」

 俺は地を蹴った。
 風を纏い、弾丸となって巨人の懐へ飛び込む。
 巨人が反応し、無数の泥の触手を槍のように突き出してきたが、俺は回避行動を取らない。
 避ける必要がないからだ。

 パキキキキッ!

 俺の目の前に迫った泥の槍が、鼻先数センチで空中で凍結し、粉々に砕け散った。
 オルドリンだ。
 彼は俺の後方から一歩も動かず、俺に害なす全てを撃ち落としている。
 背後の氷箱の中で、兄貴が「前を見ろ! 危ない!」と必死にジェスチャーしているのが視界の端に見えるが、心配無用だ。

「邪魔だッ!!」

 俺は無防備になった巨人の胴体――その深奥にある魔力反応へ向けて、二振りの短剣を突き出した。

「穿て、『螺旋風牙(スパイラル・ファング)』!」

 短剣の切っ先から、ドリル状に圧縮された暴風が放たれる。
 ゴゴゴッ! と音を立てて、分厚い泥の装甲がねじ切られ、直径1メートルほどの風穴が開いた。
 だが、敵もさるもの。即座に周囲の泥が波打ち、穴を塞ごうと殺到する。

 ――今だ。

 俺が思うより速く、世界が白く染まった。

「『停滞凍結(スティル・フロスト)』」

 オルドリンの冷徹な声が響く。
 瞬間、再生しようと穴に集まっていた泥が、その形状のままカチリと凍りついた。
 ただ凍らせただけではない。
 傷口を強制的にこじ開けたまま、その断面だけをピンポイントで凍結させたのだ。
 まるで外科手術のような精密動作。

「……っ、すげぇな」

 俺は思わず口元を緩めた。
 凍りついたトンネルの向こうに、赤く脈打つ『核』が丸見えになっている。
 俺のためだけに作られた、レッドカーペットならぬアイスカーペットだ。

「よそ見をしている暇はないぞ、ルシアン。……君の横顔に見惚れたいのは山々だが、あいにく今は観客(泥人形と義兄上)が多すぎる」

 オルドリンが余裕たっぷりに微笑みながら、背後から迫っていた別の泥の波を指パッチン一つで氷山に変えた。
 この男、激戦の最中だというのに、俺を口説く余裕すらあるらしい。

「へいへい。じゃあ、サクッと終わらせようぜ!」

 俺は迷わず、凍結したトンネルの中へ身を投じた。
 オルドリンが固定した氷の道は、俺を阻むものを一切寄せ付けない。
 文字通り、核(コア)への直通コースだ。

「吹き飛べぇぇぇッ!!」

 俺は渾身の魔力を込め、ゼロ距離から風魔法を炸裂させた。
 巨人の体内から、圧縮された空気が爆発的に膨張する。

 ドォォォォォォォン!!

 轟音と共に、巨人の泥の体が内側から弾け飛び、四方八方へと霧散した。


 ◇◇◇

「……はぁ、はぁ。やったか?」

 俺は着地し、肩で息をしながら周囲を見渡した。
 泥の巨人は跡形もなく消滅し、広間には静寂が戻っていた。

「ルシアン!」

 振り返る間もなかった。
 風のような速さで接近してきたオルドリンに、俺は両肩を鷲掴みにされた。

「ひぇっ!?」
「動くな! 怪我の確認が先だ! 泥の一滴たりとも君の肌に触れていないか確認させてくれ!」

 至近距離にあるオルドリンの顔は、美しいを通り越して鬼気迫るものだった。
 彼は俺の顎を掴んで左右に向けさせ、瞳孔の開きを確認し、あまつさえ服の裾をめくってボディチェックを始めようとする。

「ちょ、待て! 平気だから! どこも痛くないって!」
「信用できない。君は我慢強いからな。……あの大質量の泥だ、衝撃波でどこかがすり減っている可能性も……」
「アンタの過保護で俺の精神がすり減ってるよ! 離れろ!」

 俺が必死に抵抗してようやく距離を取ると、オルドリンは不満げに、しかし深く安堵の息を吐いた。
 その背後で、ようやく氷の箱を解除された兄貴が、へなへなと地面に崩れ落ちているのが見えた。

「……し、死ぬかと思った……。特等席すぎるだろう……」

 兄貴の魂が抜けている。
 オルドリンはそんな兄貴を一瞥もしないまま、呼吸を整えてスッと真顔に戻り、ポケットから無造作に輝く石を取り出した。

「……ならいい。これも、受け取ってくれ」
「ん?」

 押し付けられたのは、拳ほどの大きさがある、琥珀色の宝玉だった。
 傷一つなく、内側から強い魔力を放っている。

「これ、核(コア)か? いつの間に……」
「君が吹き飛ばした一瞬の隙に回収した。『大地の宝玉』だ」

 涼しい顔で言うが、やってることは変態的だ。
 あの大爆発の中で、俺を守り、兄貴の箱を維持し、さらに核だけをピンポイントで無傷確保したというのか。

「純度の高い魔力の結晶だ。売れば城が建つし、家宝にしてもいい。……君の実家には必要だろう」

 オルドリンはそれだけ言うと、グイッと顔を寄せ、至近距離から俺の目を覗き込んだ。

「ルシアン」

 彼の瞳が、期待に揺れている。

「君が大切にしている家族を、私も大切にした」

 言葉数は少ない。
 けれど、その視線は雄弁に語っていた。
 『君の言いつけを守ったぞ』と。
 ただひたすらに、俺からの「よし」という承認を待っている。

(……かわいいとこ、あるんだよな)

 俺のために必死になり、俺の評価を何より気にしている最強の男。
 俺は宝玉を握りしめ、ふっと笑って彼の頭をポンとなでた。

「ああ。最高だよ。ありがとな、旦那様」

 俺が褒めた瞬間、オルドリンの表情がパァッと輝いた。

「そうか! 最高か! ならば!」

 彼は嬉しそうに尻尾(幻覚)を振り、当然の権利のように言った。

「褒美をくれ」
「……何が欲しいんだよ?」
「約束の膝枕だ。屋敷に戻ったら、朝までたっぷりと頼む」

 実家を救った英雄の要求が、それだけか。
 俺は呆れて笑ってしまった。

「……安い魔王だな。わかったよ、貸すよ」
「よし。交渉成立だ」

 オルドリンは嬉しそうに頷くと、有無を言わさず俺を横抱き(お姫様抱っこ)にした。

「ちょ、歩けるって!」
「却下だ。一秒でも早く堪能したい」

 最強で、最愛で、そしてどうしようもなく重い俺の夫。
 俺は観念して、その首にしっかりと腕を回した。


 ◇◇◇

 地上に戻った俺たちを迎えたのは、眩しい午後の日差しと、心配そうに待っていた両親と弟だった。
 ダンジョンの入り口があった大穴は、オルドリンの魔法できれいに塞がれ、ついでに更地になった。

「兄ちゃん! 銀色のお兄ちゃん!」

 真っ先に駆け寄ってきたのはジュリアンだ。
 彼は俺の無事を確認すると、すぐにキラキラした目でオルドリンのマントを掴んだ。

「すごい音したね! やっつけたの?」
「ああ。塵一つ残さず掃除完了だ」
「すっげー! お兄ちゃん強い!」

 オルドリンは「ふむ、素直でよろしい」と満足げにジュリアンの頭を撫でている。
 その後ろから、父さんが張り詰めた糸が切れたような顔で歩み寄ってきた。

「おお、無事だったか! 怪我は!?」
「大丈夫だよ父さん。……魔物は全滅させた。もう二度と出てこないよ」

 俺が報告すると、両親は手を取り合って喜んだ。
 だが、兄貴だけはまだ納得していない顔で、塞がれた穴とオルドリンを交互に見ていた。

「……なぁ、ルシアン」
「ん?」
「一つ、腑に落ちないことがあるんだ」

 兄貴は腕を組み、探偵のような顔つきで言った。
 流石は長男、ただビビっていただけではないらしい。

「そもそも、なぜ突然こんな田舎にダンジョンができたんだ? ここは魔力溜まりなんてない土地だぞ。それなのに、あんな高濃度の魔素が渦巻く迷宮が、一夜にして出現するなんて……」

 兄貴の言葉に、俺はハッとした。
 確かにそうだ。
 ダンジョンというのは、長い年月をかけて魔力が蓄積した場所に自然発生するか、あるいは強力な魔力の影響を受けて変異するもので――。

 強力な魔力?

「……あ」

 俺の脳裏に、数日前の光景が蘇った。
 俺を迎えに来たオルドリンが、実家の上空でブチ切れて、世界を凍らせる規模の魔力を垂れ流していたあの光景が。

 俺は恐る恐る、隣のオルドリンを見た。
 彼は――明後日の方向を見て口笛を吹いていた(吹けていないが)。

「……おい」
「なんだ、ルシアン。天気がいいな」
「誤魔化すな。……あのダンジョンの魔力波長、アンタのにそっくりだったぞ」
「気のせいだろう。自然とは神秘的なものだ」
「アンタここで暴走したよな? あの時の余剰魔力が地脈に流れ込んで、休眠していたダンジョンの種を強制発芽させたんじゃないのか?」

 俺がジト目で詰め寄ると、オルドリンは数秒間沈黙し、観念したように肩をすくめた。

「……ルシアン成分が不足して、魔力制御のリミッターが外れていたようだ。私の愛の雫が、大地を活性化させてしまったらしい」
「やっぱりアンタのせいかよ!!」

 ゴスッ!!

 俺のチョップが、二度目の炸裂を見せた。
 オルドリンは「ぐっ」と小さく呻き、頭を押さえた。

「すまない……。反省している。まさか私の愛の暴走が、環境破壊に繋がるとは」
「環境破壊どころか実家崩壊の危機だったんだぞ!」
「だが、結果的に脅威は去った。これで手打ちにしてくれないか?」
「アンタなぁ!」

 俺たちのやり取りを見て、兄貴が「ははっ……」と乾いた笑い声を上げた。

「なんだ、つまり……。伯爵の愛が重すぎてダンジョンができ、伯爵の力によってダンジョンが消滅した、ということか」
「……要約するとそうなるな」
「規格外にも程がある……」

 兄貴は呆れ果てた顔をしたが、その目にはもう恐怖の色はなかった。
 代わりにあったのは、諦めにも似た、すべてを悟ったような眼差しだ。

「まあ、いいさ。おかげでこの土地の魔力も安定したみたいだし、何よりルシアンが無事だったんだ」

 オルドリンはコホンと咳払いをして、父に向き直った。

「義父上、義兄上。今回の件、私の不徳の致すところです。お詫びと言ってはなんですが、この屋敷と領地全体に、向こう百年は持つ『対魔・対災害結界』を張らせていただきました」
「け、結界ですか?」
「ええ。それに、地下の土壌も改良しておきました。これからは肥料なしでも作物が通常の三倍の速度で育つでしょう」
「さ、三倍!?」

 父さんが目を剥く。貧しい領地にとって、それは国からの援助金よりもありがたい奇跡だ。

「加えて、ご迷惑をおかけした慰謝料として、商業ギルドを通じて支援金も手配しておきます。……どうか、ルシアンを育ててくれた礼だと思って受け取ってください」

 オルドリンが恭しく頭を下げる。
 それは魔王としての施しではなく、家族(ルシアン)を愛する婿としての誠意だった。
 父さんは震える手でオルドリンの手を握り返した。

「……ありがとう、クライス伯。……いや、オルドリン殿。息子を、よろしくお願いします」
「ええ。命に代えても」

「ルシアン、達者でな」

 別れ際、兄貴が俺の肩を叩いた。

「あの猛獣の手綱、絶対に離すなよ。世界のために」
「……善処するよ」

「ねえねえ、ルシアンお兄ちゃん!」

 ジュリアンが俺の服の裾をクイっと引っ張った。

「約束のお菓子、忘れないでね! 『山ほど』だよ!」
「おう、分かってるよ。王都で一番美味いやつを、約束通り山ほど送ってやる」
「やったー! 兄ちゃん大好き!」

 無邪気に喜ぶ弟を見て、オルドリンが真顔で頷いた。

「『山ほど』の菓子か。では、輸送用に大型の飛竜便を手配せねばな。腐らないよう冷凍保存の魔導コンテナも百個ほど……」
「いや、本気で山を目指すなよ!? 維持費だけで実家が潰れるわ!」

 俺はツッコミを入れつつ、苦笑して家族に手を振った。
 こうして、俺の決死の里帰りは幕を閉じた。
 誤解は解け、実家は豊かになり、俺たちの絆も深まった。終わり良ければ全て良し、だ。

「じゃあな! また来るよ!」
「帰ろう、ルシアン。王都が私たちを待っている」

 オルドリンが俺の腰を抱き寄せ、転移魔法を発動させる。
 視界が歪む。
 住み慣れた実家の風景が遠ざかり――瞬きの間に、俺たちは王都のクライス伯爵邸、その豪華なエントランスに立っていた。


 ◇◇◇

「――お帰りなさいませ、旦那様、奥様」

 転移の光が消えるや否や、セバスチャンが待ち構えていたかのように深々と頭を下げた。
 さすがスーパー執事。到着時刻まで予測していたのか。

「ああ、戻ったぞセバスチャン。……疲れた」
「お疲れ様でございました。お風呂が沸いております」
「最高だ! 今すぐ入りたい!」

 俺は伸びをしながら、泥で汚れたシャツを脱ぎ捨てようとした。
 すると、背後からスッと手が伸びてきて、俺のボタンに触れた。

「手伝おう、ルシアン」
「ん?」
「泥汚れが酷い。背中や、見えないところまで私が念入りに洗ってあげよう」

 オルドリンが真顔で言った。
 その目は真剣そのものだが、奥に隠しきれない下心が透けて見える。
 ダンジョンでの興奮冷めやらぬ彼を風呂場に入れたらどうなるか。
 のぼせるまで出られないのは確定だ。

「……お断りだ。一人でゆっくり入らせてくれ」
「なぜだ! 夫婦のスキンシップだろう!」
「今日はもう十分スキンシップしただろ! 泥だらけなんだから、まずは綺麗にさせてくれ」
「だから私が……」
「旦那様」

 セバスチャンが冷徹な笑顔でオルドリンの前に立ちはだかった。

「旦那様には、執務室隣接のシャワールームをご用意しております。まずはそちらで泥を落とし、身を清めてから――深海離宮の予算書の最終決裁をお願いいたします」
「なっ……」
「至急、サインを。奥様がお風呂から上がられるまでには終わる量です」
「ぐっ……しかし……!」
「泥まみれのままでは、奥様の寝室に入る許可は出せませんな」
「……ッ! 分かった、光の速さで終わらせる!」

 寝室というワードに釣られ、オルドリンは風のように執務室の方角へと消えていった。
 単純だ。

「……ふぅ。助かったよセバスチャン」
「いいえ。……ごゆっくりどうぞ」

 俺は一人、広々とした大理石の浴槽に身を沈めた。
 温かい湯が、疲れた体に染み渡る。

「……はぁぁ~、極楽」

 いろいろあった。
 実家の誤解、監禁騒動、ダンジョン攻略。
 たった数日の出来事とは思えないほど濃密だった。
 でも、こうして湯に浸かっていると、全てが笑い話に思えてくる。

(ま、結果オーライか)

 俺は鼻歌交じりに体を洗い、ピカピカになって風呂を出た。


 ◇◇◇

 寝室に戻ると、仕事を音速で片付け、さらにシャワーを浴びてさっぱりしたオルドリンが、ベッドの上で優雅に読書をしながら待機していた。
 濡れた銀髪から、ふわっと石鹸の良い香りが漂ってくる。
 俺の姿を見ると、彼は本を閉じて微笑んだ。

「おかえり。……待っていたぞ」
「ただいま。アンタも早かったな」

 俺が近づくと、彼はポンポンとベッドの端を叩いた。

「ここへ」
「……はいはい」

 俺は苦笑しながらベッドに座った。
 待ってましたと言わんばかりに、オルドリンがその長身を横たえ、俺の膝に頭を預ける。
 膝枕。
 世界最強の男が、この時だけは甘えん坊の大型犬になるのだから面白い。

「……疲れただろう」
「んー……まあね。でも、楽しかったよ」
「そうか」

 オルドリンは嬉しそうに目を細め、俺の頬に指を滑らせた。

「私もだ。君の実家も、なかなか刺激的だった」
「もうダンジョン作んなよ」
「善処する。……だが、君が私から離れなければ、暴走することもない」
「……言われなくても。どこにも行かないよ」

 俺は彼のさらさらとした髪を指で梳いた。
 冷たくて心地よい感触。
 窓の外には王都の夜景が広がっているが、今の俺たちにはこの狭いベッドの上だけが世界だった。
 オルドリンは心地よさそうに瞳を閉じ、俺の体温を味わうように深く息を吸い込んだ。

「……ルシアン」
「ん?」
「愛している」
「はいはい、知ってるよ」

 俺はくすぐったい気持ちを隠すように、彼のおでこをペチリと軽く叩いた。
 猛獣使いと、甘えん坊の魔王。
 俺たちの騒がしくて愛おしい日常は、またここから続いていく。
 俺は膝の上の愛しい重みを感じながら、窓の外に浮かぶ月を見上げた。
 明日はきっと、今日よりも騒がしくて、幸せな一日になるはずだ。
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