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朝。法堅寺は暖かい日差しに照らされて、あたりの鳥獣はようやく来た朝に喜びの声をあげていた。
法堅寺の僧は修行部屋に来ていた。昨夜に修行部屋から恐ろしい声が聞こえたからである。肝の小さい法堅寺の僧は、朝になってようやく確認しに来たのだ。
僧の他に検非違使も来ている。ここらで半蔵を逃したからだ。検非違使は昨夜、夜通し半蔵を探していたが、まるで神隠しにあったように半蔵を見つけられなかったのだ。もちろん夜に法堅寺に訪ねたが、不思議なことに、扉がまったく動かず中に入ることが出来なかった。扉を叩き中にいる僧に入れてもらおうとしたが、臆病者の僧は誰一人出なかった。
はたして、修行部屋に特に異常はなかった。床や壁にも傷がないし、仏像にも異常はない。仏像の中に何かいないかと、僧が中を確かめたが、何もいなかった。
僧も検非違使も顔をしかめた。
「昨夜、わしは修行部屋から、怨みがこもったようなおどろおどろしい声を聞こえた気がするが……」
「それは男の声ですかい? 半蔵という盗賊がここらで逃げ出したんでね」
「いやいや、あれは人が出せるような声ではありませぬ! あれは妖……魔性といった、化け物の声ですわい」
「そういや昨夜、法堅寺に訪ねたんだが、扉がまったく開かなかった。閂で閉じられてるとか、そんなもんじゃない。まるで一枚の壁になったかのように、まったくもって動かなかった」
「とすると、やはり昨夜に魔性が来ていたんですわい。ああ恐ろしいや! ナンマイダブナンマイダブ……」
僧は怯えて仏像に向かって念仏を唱えはじめた。一心に唱えている。
そうして、ふと、僧は仏像の顔を見た。念仏が止まった。
「お坊さん、どうした? この仏さんの顔になにか半蔵の跡でも見つけたか?」
「いや……、ん~?」
僧はじっくり仏像の顔を見つめた。
「仏様はこんなに悲しそうな顔をしてただろうか……」
仏像は目を細め、口角を下げた、悲しみの表情をしていた。
まるで、人を哀れむように……
(終)
法堅寺の僧は修行部屋に来ていた。昨夜に修行部屋から恐ろしい声が聞こえたからである。肝の小さい法堅寺の僧は、朝になってようやく確認しに来たのだ。
僧の他に検非違使も来ている。ここらで半蔵を逃したからだ。検非違使は昨夜、夜通し半蔵を探していたが、まるで神隠しにあったように半蔵を見つけられなかったのだ。もちろん夜に法堅寺に訪ねたが、不思議なことに、扉がまったく動かず中に入ることが出来なかった。扉を叩き中にいる僧に入れてもらおうとしたが、臆病者の僧は誰一人出なかった。
はたして、修行部屋に特に異常はなかった。床や壁にも傷がないし、仏像にも異常はない。仏像の中に何かいないかと、僧が中を確かめたが、何もいなかった。
僧も検非違使も顔をしかめた。
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「それは男の声ですかい? 半蔵という盗賊がここらで逃げ出したんでね」
「いやいや、あれは人が出せるような声ではありませぬ! あれは妖……魔性といった、化け物の声ですわい」
「そういや昨夜、法堅寺に訪ねたんだが、扉がまったく開かなかった。閂で閉じられてるとか、そんなもんじゃない。まるで一枚の壁になったかのように、まったくもって動かなかった」
「とすると、やはり昨夜に魔性が来ていたんですわい。ああ恐ろしいや! ナンマイダブナンマイダブ……」
僧は怯えて仏像に向かって念仏を唱えはじめた。一心に唱えている。
そうして、ふと、僧は仏像の顔を見た。念仏が止まった。
「お坊さん、どうした? この仏さんの顔になにか半蔵の跡でも見つけたか?」
「いや……、ん~?」
僧はじっくり仏像の顔を見つめた。
「仏様はこんなに悲しそうな顔をしてただろうか……」
仏像は目を細め、口角を下げた、悲しみの表情をしていた。
まるで、人を哀れむように……
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