ヤンデレ王子と風の精霊

東稔 雨紗霧

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3st監禁

3st監禁ーその7-

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 穏やかな陽光と窓から吹き込む心地の良い風。
 朝を告げる鳥の軽やかな鳴き声にアリアは瞼を震わせ、ゆっくりと目を開いた。
 寝起きで定まらない焦点でぼんやりと虚空を見つめる。

 酷い悪夢を見ていた。
 友だと信じていたのに裏切られ、人間界へ落とされかけるのを凌いだと思ったら精霊界から強制的に引き離され、レインの元へと呼び出されたその上にその体は受肉させられていると言う最悪の状況。
 あまりの悪夢だったからか背中は大量の寝汗をかいており、べとついて気持ちが悪い
 一先ず気分を変える為にシャワーでも浴びるかと視線を横へとずらした時、恍惚と言った表情でベッドの隅に両肘を立て、頬付けを付いてアリアを見つめている男が視界へと入った。


 「!!!????」


 あまりの驚きに声も出ないアリアに男はにっこりと笑いかける。


 「おはようございます、アリア。
 ああ、貴女の寝顔だけでなく寝起きのぼんやりとした可愛い表情まで見れるなんて僕はとっても幸せです!」
 「あ、貴方、誰?」
 「え? 嫌だなあ、僕ですよ僕。分かりませんか?」


 見覚えがあるようで見覚えの無い男に一縷の望みをかけて知らない人かもしれないと問いかけるが現実は非情だ。
 男はアリアが聞きたくなかった名前を口にする。


 「僕ですよ、アリア。レインです。
 貴女と6歳の時に出逢い、15歳のあの時に離れ離れになるまでの間共に愛を育んだレインです。
 ああ、精霊界と人間界は時間の流れが違うのでしたね。
 アリアが精霊界で何年過ごしたのかは分かりませんが、こちらではあれから10年経ったのですよ。
 大人になった僕を見て誰か分からなくても仕方がありません。
 離れている間も僕はアリアの事を片時も忘れなかったですし、アリアに釣り合う男になる為にずっと努力していたんですよ。
 どうです? 格好良くなったでしょう?」


 レインはそう言って照れた様に笑う。
 確かにあの頃のレインの面影は残っているがそれが何だと言うのか。
 アリアにとっては自分とヴァンを散々苦しめ、ヴァンの命を奪った敵(かたき)でしかなく、嫌悪する事はあっても懐古する様な物でも何でもない。
 ジリジリと未だやけに重い身体を引き摺りながら、ベッドの端に居るレインから距離をとっていく。
 よく見ると部屋も自分の部屋ではなく全く見覚えのない部屋だ。
 ぼんやりとしている暇があったらさっさと逃げ出せば良かったと心中で臍を噛む。


 「ふふ、その様子だと僕の事をアリアも片時も忘れた事が無かった様で安心しました。
 まあ、いきなり見知らぬ男が傍に居たら驚くのも無理はないです。
 アリアはあの時から変わりありませんね。
 いえ、あの時よりも更に綺麗になりましたか?
 流石は僕のお嫁さんです!」


 一体何を言っているのだ、この男は。
 アリアは過去に一度たりともレインに対して愛を囁いた事もなければ将来を誓った記憶もない。
 それなのにアリアを嫁だとのたまうレインにアリアは悍ましさしか感じられない。


 「本当ならもっと早くアリアを受肉させてお嫁さんにしたかったのですが、想定していたよりも時間がかかってしまい申し訳ありません。
 随分と待たせてしまいました。
 でも、その分僕自身胸を張って完璧だと言える召喚術でアリアを受肉させる事ができました!
 受肉したばかりの今はまだ魂が器となっている肉体に馴染むまでは倦怠感があると思いますがそれも2、3日したら馴染んで楽になります。
 今はまだ誤飲する可能性があるので食事も重湯になりますが、馴染んだら美味しい食事をいっぱい用意するので楽しみにしていて下さいね!
 精霊界にはない人間界ならでわの料理の手配をしてあるんです、以前は食べられなくて残念だと言っていたでしょう?
 アリアに喜んで欲しくて選りすぐりの料理人を雇ったんですよ」
 「……」


 無邪気にそう言うレインにアリアは何の言葉も返さない。
 精霊術を使用しようにも何故か体の中でグルグルと魔力が動くだけで発動しないのも肉体に魂が馴染んでいないせいかと推測し、心中で焦りを募らせる。
 そんなアリアにレインはふふっと笑みを零す。


 「ふふ、アリア237人です」
 「……」
 「分かりますか? 貴女を受肉させるために使った人間の数です」
 「!!!」


 人間の数で237人という事は少なくともそれと同数の精霊も必要となるはずだ。
 しかも、使った?今彼は使ったと言ったか?
 震える唇で、確かめなければならない事を聞く。


 「その、237人は今、どこに?」
 「ああ、その人たちですか?
 必要な検証情報を取った後は一部を除いて殺処分しましたよ」
 「殺、処分」
 「はい、殺処分です。
 いやぁ、13歳の頃からアリアを受肉させる事を考えていたのですが、やはり中々許可が下りなくてやっと許可が下りたと思ったら前例が少なく不安材料が多かった上に、いざ受肉させようとしても中々上手く受肉できなかったりと多くの時間と材料や検証を必要としました。
 その精霊を過去に召喚したと言う実績があれば精霊個人を狙って召喚する事が可能だと言う事は知られていたのですが、検証の結果、確実に狙った精霊を召喚するにはその精霊を過去に召喚したと言う実績以外にも真名を用いれば可能である事が判明しましてね?
 確実にアリアを召喚するために真名を知る必要があったので、一度フーイとの契約を解除してそっちに行って貰ったのです。
 それまで数を打てば当たる戦法で召喚を行っていたのですが、そのお陰で直ぐにアリアを召喚する事ができました!」


 他にもこんな事を検証したんですよと楽し気に語るレインにアリアは恐怖する。
 人間の数を237人と言っていたがあの口ぶりでは精霊の数はそれ以上を犠牲としている可能性が高い。
 自分一人の為に一体何体の精霊が犠牲となったのか、恐らく百や二百ではきかないであろうその実験の数々に狂気さえ感じる。
 齢13にしてその身に如何様な変化があって常人では凡そ考え付かないであろう受肉させるというその思考に至る事が出来たのか。


 「これで分かっていただけましたか?」
 「な、何が……?」
 「僕がどれだけアリアを愛しているのかを」
 「っ!」


 分かっていた、そして分かりたくなかった。
 出会ったばかりの無垢な魂は歪み果て、唾棄すべき存在へと成り下がった。
 そして、それを誘発したのは他でもないアリア自身なのだとまざまざと突き付けられた。

 自分の言葉に言葉を詰まらせるアリアに満足気にレインは頷いた。


 「良かった、分かって頂けたようで何よりです。
 さて、と」
 「!!?」


 ベッドに乗り上げたレインはアリアを引き倒し、その体の上に馬乗りになる。
 突然の事に混乱するアリアの頬を撫で、うっとりとする。


 「ああ、ようやく貴女の全てを僕の物にする事ができる」
 「……!!」


 レインの言葉の意味を理解したアリアはすぐさま逃げ出そうと藻掻くが、レインはそれをいとも簡単に押さえ込む。


 「ふざけっ!離しなさいっ!!!」
 「ふざけるもんか!!」


 レインの怒声に驚き、アリアは身を震わせる。
 そんなアリアの肩に縋る様に額を当てレインは言葉を零す。


 「君の事でふざけた事なんか一度たりともない!
 僕はいつだって本気で、全力で君を、君に愛される為に努力し続けてきた!!
 例えアリアが僕を見ていなくとも、いつかはきっと僕を見てくれると信じてずっと、ずっと、ずっと努力してきたんだ!!
 それなのに……君は僕の傍から居なくなったじゃないかっ!傍にいてくれるって言ったのに……!」


 肩に何かが当たる感覚がすると共にじんわりと湿っていく。
 泣いているのか。
 身動きの取れない状態でここからどうしようかと思案するアリアの肩口からガバリとレインは顔を上げた。


 「だから決めたんです。もう我慢はしないって」


 涙で頬を濡らした顔がアリアの顔へと迫る。
 精霊術は使えない。
 力の差は歴然とし、抵抗もなす術も無く受肉した身体での初めてをレインに奪われる事となる。


 次に目を覚ましたアリアの目に映るのは鉄格子の嵌められた窓と外から施錠され固く閉ざされた扉、そして右足につけられたじゃらりと長い鎖の付いた足枷だった。
 精霊術は使えず、受肉させられた身体では鉄格子の隙間から外に出る事もできない。
 非力なこの身体では鎖を引き千切る事も不可能な上にヴァンの居ない今、外部からの助けも無い。



 こうしてアリアは三度(みたび)囚われる事となる。

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