ヒロイン=ヒーロー

は~げん

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第七話 魔法少女対魔法少女 その一

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前回のあらすじ

よぉ。俺はマタルだ。
この前はなんだっけなぁ・・・そうだ。エレンホスが可愛かった。以上。
え?もっと詳しくしゃべれって?気になるなら、前回を見ればいいじゃねぇか。それで済むから、俺はわざわざ面倒なことはしない。んじゃ、スタートだ



「海・・・?」

夏の暑い日差しが差し込む中、ここ、三月パンの店内で四人の男女がいつも通りにパンを食べながら、話していた。

内容は夏休みに何をするか。学生ならではの会話内容である。そこで今出たのが海に行こうというものであった。

「そう!みんなで海行こうよ海!!」

と、無邪気にそう話す、一人の少女。動くたびに長い茶色の髪と、首にかけてるロケットペンダントと、ふくよかな胸が揺れている。
彼女の名前は『池内千鶴』

「海かぁ・・・いいな、それ」

と、千鶴の意見に賛同の声をあげたのは、胸の位置に大きく『ジャスティス』と書かれた服を着ている、少年。名前は『小峠春樹』

「だったら、早めに準備をしなければな」

と、冷静に言うのは、銀髪で整った顔立ちの少年。名前は『小野悟』

「よっしゃ。じゃあとで準備しに行きますか!」

そして最後に彼女。元気な声で立ち上がるボーイッシュな少女。名前は『西園寺あかね』この物語の主役である。

勿論、主役であるからにして彼女は普通の人間ではない。いつの時代も、主役というのは何か人とは違った能力などを持っている。彼女の場合、それは『魔法少女になれること』である。

つまり彼女は見た目に似合わずメルヘンチックな能力を持っている。だが、能力も万能ではない。チートだと、あまりにも面白くない。

変身できることのデメリットというか、実は彼女の魔力は普通の人より全然無い。魔力がないからか、彼女の強さは最弱。そして、なぜか変身すると、姿形が5~6歳の幼い少女になってしまう。

そんな見た目幼女強さ最弱な彼女が戦う理由として真っ先に挙げられるのが、『守るため』である。それ以上でもそれ以下でもない。ただ守るために彼女は力を使う。

もっとも、こうして友人と会話してるところだけを切り取ると、ただの女子高生にしか見えないのだが・・・

「おやおや、なんかおもろそうな話しとるやんか・・・どれ、おねぇさんも混ぜてくれへんか?」

そんな彼女たちの会話に入ってきたのは、赤いウェーブヘアーを揺らす、三月パンの文字とクロワッサンの絵が描かれた割烹着を着ている女性。名前は『小森杏子』

彼女はここのパン屋の店主をやっており、幼い娘のかすみと一緒に経営している。

・・・いや、まだ書くべきことがあった。彼女もあかねと同じ魔法少女である。しかも大ベテラン。

「海?ええな!それ!ウチらも行きたいで!」

そして、いつもと変わらないエセ関西弁を使い、あかねたちと一緒に海に行きたいという。そしてウィンクしながら。

「まぁ、あれや。保護者役がおった方が何かと楽やろ?」

と言う。まぁ、確かにそうだが・・・と言う顔であかね達は顔をあわせる。

空気が読めないのか、それともある意味読んでるのか。だが、彼女はもう行く気満々というような顔で、かすみの方を向き、そして忙しそうなかすみの方に大声で声をかける

「かすみちゃーん!今度海の日あたりにあかねちゃんと一緒に海に行くさかい!後で準備するでー!!」

と楽しそうに言うが、当の本人は忙しく、その言葉に賛同する時間がない。その代わりに杏子の方を見ずに、手伝え!と叫んだ。

それを聞いて杏子はあははと笑い、そしてあかねの肩に手をポンと置いた。

「まぁ、本音の部分はもしあかねちゃん達が襲われたらと思うと、少し心配やねん。あ、馬鹿にしたわけちゃうで?」

小声でそういう杏子の目は真剣そのもの。喋り方こそおちゃらけてるが、彼女は真剣に考えてるのだ。
そんなあかねの視線に気づいたのか、杏子はニコリと笑い、忙しさに騒いでいるかすみの方に駆け足で近寄る。

「っはー・・・杏子さんには敵わねぇな・・・よし、何時に行くか決めようや」

と、言ってあかねは春樹達の方に向き直りそう話し始める。春樹達も了承したというように、会話を続けた。

そして、今から始まる会話は、ただの高校生達が遊ぶ予定を、町の小さなパン屋で楽しく決めるだけであった。

それをパン屋の中にいる人と、杏子がみんな優しい目で見ていた。ただ一人、かすみだけがパタパタと忙しく働いていた。


◇            ◇               ◇                 ◇                  ◇


「海・・・?」

少しの日差しも差し込まない、暗い部屋の中で3人の男女が座っていた。

「ええ、海ですよ。どうです?いきませんか」

と、見た目が少女の様に華奢だが、声は少年に近い。彼は『エレンホス』その体に似合わず、実は魔法少女が戦う相手のディザイアと言う化け物達の事実上のトップである。

「海・・・何をしに行くの?泳ぐのはめんどくさいなぁ・・・」

と、茶色いボロボロな布を羽織っている、緑で短めのツインテールにしている。彼女の名前は『テベリス』

「なんか考えがあんのか?エレンホス」

と、ぶっきらぼうな声を投げなのは、ガタイがよく、そして左目が潰れている男性。名前は『マタル』

いうまでもなく彼らもエレンホスと同じディザイアであり、化け物でもある。姿形が人間なのは彼らが完全体だからなのだが、詳しい事は過去の話を読んで思い出してもらいたい。

さて、こう二人から何をするかという疑問を聞き、エレンホスはニコリと笑う。

「そうですね。一番大きな目的は新しい欲の発掘でしょうか。人間というのは面白いもので、この時期になると飲むと体に害を与える水の中に、もはや下着同然のものをつけて入るのが好きらしいです・・・噂じゃ、そんな格好してるのに、一部の女性は他人にその格好を見られるのがいやだというらしいですけどね」

意味がわからないというように両手を肩の位置まで上げて、顔を横にふる。そしてトコトコと歩きながら二人の横を通り過ぎて、しばらくした後に立ち止まる。

「・・・ま、その分人も多いのですけどね。だからこそ、新しい欲が見つかるかもしれませんし・・・それに、あの人も来るそうですし」

また、エレンホスは可愛らしく笑う。無邪気だが、どこか恐ろしかった。そんな彼をマタルはうっとり見つめて、テベリスはただ見つめていた。

(・・・なんでかな・・・あのとき別れた後からずーっと会いたい・・・悟・・・)

心の中で彼の名前をつぶやく。自分を化け物と知りながら、助けてくれた一人の少年の名前。なぜだろうか、彼のことを考えると、胸が痛くなる。でも不思議と嫌ではない。

「どうしました?テベリス」

ふと気づくと、エレンホスが腰をかがめてテベリスの顔を下から心配そうな目で覗いていた。だが、どこか心の中まで見透かされているような感じであり、その瞳がテベリスは少し恐ろしくもあった。

「ううん。なんでもないよエレンホス・・・ただ、少し眠くなっただけ・・・」

そして大きくあくびをする。それを見たエレンホスはまた子供らしく、そして愛らしくにこりと笑った。

「それは素晴らしいことです。では、おやすみなさい」
「・・・うん。おやすみ・・・」

と言いながらテベリスはトコトコと歩き、ベットの上に転がった。そしてすぐに寝てしまった。

「あー・・・まぁ、いいや。じゃ海に行く話はテベリスが起きてからだな」

と、マタルはいうが、エレンホスは考え事をしてるように俯いていた。

「やっぱり面倒なことに・・・この前あの少年の欲を開放して、恐怖を植え付けようとする目的もありましたが、彼は来ませんでしたし・・・」

ブツブツと呟くエレンホスを頬をかきながらマタルは見つめていた。が、大きなため息をひとつつき、エレンホスの背中をおもいっきり叩く。

バシン!といい音が響き、エレンホスがヒャン!と可愛らしい声をあげて背中をさする。それを見たマタルは慌てた様子で

「す、すまん!!・・・けど、エレンホスは考えすぎだぜ?俺には難しいことはわからないけど、協力できることはなんでも言ってくれよ?俺たちは仲間なんだからよ」

と、ウシシと笑うマタルをエレンホスはしばらく見た後、ふっと息を漏らした

「そうですね・・・それじゃ、今度の作戦の為に探して欲しい欲があります。海に行った後は僕も疲れてますから、探すのをお願いできますか?」
「それぐらい朝飯前だ。任せておけ!」

胸をドンと叩くマタルはとても頼もしく見えた。それをエレンホスは満足そうな目で見た後、てくてく歩きベットの上に転がった。

「僕も疲れました。おやすみなさい」
「お?エレンホスが寝るなら俺も寝るぞ!おやすみ!!」

と、マタルは叫び、布団の上に転がった。なぜか彼は布団で寝るのにこだわった。まぁ、一番は寝相が悪いというのが大きいのだが。

(僕は・・・誰を信じればいいのでしょう。誰に従うべきなんでしょう・・・)

エレンホスは目を瞑りながら、そう心の中で呟く。

(しかし・・・支配欲である僕が、誰かに従うことを悩む・・・馬鹿みたいですね)

と、自嘲気味に笑いながら、エレンホスは眠りに入ろうとした。だが、あることを考えると眠れない。それはテベリスの話ではなく、己の話であった。

(やはり、僕はまだ子供なのかもしれません・・・それとも畜産農家という方が正しいかもしれませんね)

結局考えはまとまることはなく、時間だけが過ぎていく。そして、目を瞑りながら時間が経てば、自然と眠りに入ってしまう。それは人間とディザイアも一緒であった。


◇           ◇                 ◇               ◇                    ◇


そして時間が経って、今は夏休みが始まったばかり。あかねたちは隣町のショッピングセンターに来ている。場所はもちろん、海に行くのに必要な道具。水着コーナーである。
「千鶴ー。あたしは別に、中学のとき買ったスク水でもいいんだけど・・・」
「ダメだよあかねちゃん!スク水なんて、一部の人から夜な夜な、オカズにされちゃうよ!!いや、あかねちゃんのスク水見たいけど!でもせっかく海に行くならスク水よりキャワイイ水着でレッツゴーしようよ!」

水着コーナーの前で騒いでるのは、あかねと千鶴。もともとあかねは買う気は無かったが、千鶴がしつこく誘うため、渋々付いてきた。

あかね自身ファッションには無頓着なので、千鶴がキャワイイ水着を選んでくれるなら、嬉しいものだが。

「でもよぉ、最悪胸とかが見えないならなんでもいいんじゃね?」
「じゃ、あかねちゃんは絆創膏でいいの?・・・あ、ヤベ興奮してきた」

あかねの裸に絆創膏をはられた姿を想像した二人は、片方は顔を真っ赤にして、俯き、片方は鼻から何か出るのをにやけながら抑えている。

「あ、あ、うん、なんか、キ、キャワイイものを頼むよ」

少し恥ずかしそうに千鶴にそう告げて、そそくさと水着コーナーから出て行くあかね。後ろで千鶴が何か叫び声をあげた気がしたが、多分気のせい。

しばらく歩いて、座れるところを見つけてストンと座る。そして大きく息を吐く。

あかねは、千鶴のことは嫌いではない。むしろ好きなのだが、彼女の行動はいまいちわからない。何故、自分が好かれてるのが一番わからない。

そこで、少し目を閉じ始めてあったときのことを思い出す。確かあれは高校入学の時、顔が暗かったので少し気になったあかねは千鶴に話しかけたのが、初めての出会い。確かそのあと、あかねの顔を見て千鶴はまるで子供が四つ葉のクローバーを見つけた時のように、パッと顔を輝かせたあと、いきなり抱きつかれていた。

(思い出しても、やっぱりわからないなぁ。なんでだろう?)

頬をぽりぽりかきながら、途中で買ったりんごジュースをごくりと飲む。二、三秒飲み、少し疲れた体を癒す。そして、またほっと一息をつく。

「あれ?西お・・・あかねじゃん?ここで何してんのさ」
「んー・・・あ、春樹。オッスオッス。いや、水着を千鶴と一緒に買いに来たんだ」

すると、目の前から袋を提げて3人の男性と、少女が歩きながら、あかねの方に近づいてきた。春樹と、悟。そして、春樹の妹の美冬の3人だった。

美冬は早足に、あかねに近づき、あかねはそんな美冬の頭を優しく撫でる。美冬は目を閉じ気持ちよさそうにしている。

「水着ね。あかねはスク水とかじゃないのか?」
「うん?まぁ、私もそうしようと思ったけど、千鶴が、キャワイイものを選んでくれるってよ」

いつの間にか、膝の上に美冬を乗せて、その頭の上に自分の顎を乗せているあかねが春樹の質問にそう答えた。

「ボクたちも水着を買ったのです。おニューな水着です」

美冬はそう言った。心なしか嬉しそうな顔である。まるで小動物みたいであり、あかねはなんとなくギュッと抱きしめる。

「う?なんですあかねさん?いきなり抱きしめたりして・・・?」
「別にーただ、美冬ちゃんが可愛いから、抱きしめたくなっだけー」

美冬がその言葉を聞いて少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。そして、美冬を抱いたまますくっと立ち上がったあかねは、春樹達に千鶴に会いに行こうと声をかける。

そして戻ってきた水着コーナー。千鶴は買い物済ませており、あかね達を見つけて笑顔で手を振りながら猛ダッシュで突っ込んできた。

それをすんでのところで避けるあかね。勢いあまり千鶴は柱に正面衝突。額を押さえながら今度はゆっくり歩きながらあかね達に近づく。

そして、二つある袋のうち、片方の袋を渡す。どうやらあかねの水着なようだ。あかねはありがたくそれを受け取った。

「あかねちゃんのために精一杯選んだから、きっと似合うよ!!」
「はは、サンキューな、千鶴」

にこりと笑顔を向けてそう礼を言うと、千鶴は堪えきれないというように、飛び込んできた。
今度は避けることができずに、抱きつかれるあかね。離せと言いながら千鶴を押すが、千鶴は微動だにしない。

「あかねちゃん!結婚しよう!!私の初めてならあげちゃう!」
「ちょ、まって、いきなり変なこというな、変な目で見られるだろうが!!」

そう騒ぐ二人を変な目で見てるのは、悟ると春樹。あかね達と少し距離を開けて立ってるのは、知り合いではないと言ってるのだろう。

すると、美冬がプルプル震えたあと、あかねのもとに走って行った。

「ボクも、あかねさんと結婚します!!」
「ちょ、美冬ちゃんも何言ってんの!?」

あかねに抱きつきながら、美冬はそう言い、あかねは迷惑そうではあるが、それでもどこか嬉しそうな顔でそう美冬に言った。

そんな光景を見ていた春樹と悟は、目を合わせたあと、お互いににこりと笑った。

「よしゃ、俺もあかねと結婚するー!」
「俺は・・・愛人でいいぞ」

そんなこと言いながら、二人もあかねに抱きつく。あかねはとうとう耐えれなくなり、倒れた。それをお客さん方は楽しいものを見るような目で、横を通り過ぎていく。

「たっ・・・く・・・あんたらさぁ・・・」

文句を言おうとあかねは立ち上がるが、何故か、笑いがこみ上げてきた。どこか楽しくなっていた自分自身に笑ったのだ。

ひとしきり笑ったあと、あかねはみんなの手を引いて立ち上がらせる。悟は倒れてないことを見ると、おそらく抱きついてはなかったのだろう。

「よっしゃ、どこかでなんか食べにいかねぇか?」

と言って、全員で近くのファストフード店まで歩いて行った。あかねは今から海が楽しみになっていた。きっと楽しい1日になるだろう。そう考えると、自然と笑みがこぼれていた。
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