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第二章 汐里と亮太
第18話 龍彦 過去と現在
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ガシャン! パリン!
あっ……またやってしまった……
「こら! また皿割ったのか⁉ お前、ほんっとに仕事できねぇな!」
「お父さん! そんな言い方するから、アルバイトの人みんな辞めちゃうんじゃない! ……大丈夫だよ、龍彦……私も片付け手伝うから」
亮子は、この田舎じゃ貴重な中華料理店の娘だった。
同級生で幼馴染。
俺は高校に入ってから、亮子の実家の店でアルバイトをしていた。
「ごめん……」
箒とちりとりを駆使して、俺は必死に割れた皿の破片をかき集める。
もうすぐ店が混雑してくる時間だから、急いで片付けないと……
「龍彦、焦らなくて大丈夫だから。注文をとるのも、だいぶ慣れてきたじゃない」
ゴミ箱を抱えた亮子が、間近でにこりと笑った。
ほんとに、明るくて強くて。
俺はずっと、亮子が放つ夏の日差しのような明るさが眩しかった。
おっかない店の主人、亮子のお父さんは昔からすっごく苦手だったけど、亮子の傍にいたくてアルバイトの募集に応募したんだ。
「うん……でも、ヘマばっかりしてる……学校でもさ……」
俺は指先だけじゃなく、人付き合いも不器用だった。
友達も少ない。同じ高校に通っている亮子とて、それを知ってるはずだ。小学校、中学校も同じだったんだから。
「龍彦のいいところはね、真面目で優しいところだよ! 周りの子も、龍彦自身も気がついてないかもしれないけどね……私はそういうトコ、大事だなって思うよ」
胸がどきりとした。
「そ、そうかな……」
「おい、いつまで喋ってんだ!」
厨房の中から亮子のお父さんの不機嫌そうな声が飛んでくる。
俺は怖くて肩を竦めた。
「はい! 今行きます! ……っとにうるさいんだから……大丈夫だよ、龍彦……一緒に頑張ろう」
ぽん、と肩に置かれた亮子の華奢な手は荒れていた。食器洗い用の洗剤で肌が荒れてしまうのだ。
「これ……」
俺はこっそり、亮子のエプロンのポケットに小さなハンドクリームのチューブを入れた。
バイト代で買った、高めのやつだ。
「……ありがと……そういうとこだよ、龍彦のいいとこ」
くるりと背を向けた亮子の短い髪が、店の蛍光灯の灯りをはじく。
一緒に……この先の人生を、亮子と一緒に歩めたら。俺は頑張れる。どんなに辛いことがあったとしても。
※※※※※
「夢……」
ぼんやりと白けて見える天井は、見慣れた家のものだった。
くそ……あんな昔の夢をみるなんて……思い出さないように、いつも酒飲んでごまかしてるのによ……
そうか、昼間見たあのいけ好かない女のせいだ。
っとに、亮太の名前なんか出してきやがって……
なんだったんだ……
『おじさん……ほんとにあの亮太の父親なの……おじさんには、亮太みたいな優しさのかけらもない!』
『龍彦のいいところはね、真面目で優しいところだよ!』
亮子の声が頭に響いて、浮かぶ笑顔に胃が締めつけられる……くそっ、目が熱い……
あのなあ……優しさなんてもんがあったって、どうしようもないことがあるんだよ!
俺の……俺の命より大事なもんは、あっさりどっかに行っちまうんだから!
酒をぶっかけてやったあの女……
亮太の女だったんだろうか……
まあ、もうどうでもいい……
これでもう二度とここに来ることはないだろう……
『亮太はお母さんとのつながりを大事にするような人です!』
「あの目……気ぃ強そうだったな……亮子……」
俺は宙に手を伸ばす。
俺が死ねば良かったんだ……
なんで亮子が……なんで亮一が死ななきゃならなかったんだ……あいつは亮子に似て……いい子だったのに!
「俺が……俺が死ねば良かったんだ……」
3人で過ごした甘い記憶は、俺を狂わせる。
本当にもう、どうしようもない。
俺はぎゅっと握りしめた拳を、目一杯の力で畳に叩きつけた。
部屋に充満する線香の匂い。
仏壇に置かれた写真の中で、ずっと笑っている亮子と亮一。
俺も早く、お前達のところに行きたい。
どうして……どうして俺は、生きているんだ?
あっ……またやってしまった……
「こら! また皿割ったのか⁉ お前、ほんっとに仕事できねぇな!」
「お父さん! そんな言い方するから、アルバイトの人みんな辞めちゃうんじゃない! ……大丈夫だよ、龍彦……私も片付け手伝うから」
亮子は、この田舎じゃ貴重な中華料理店の娘だった。
同級生で幼馴染。
俺は高校に入ってから、亮子の実家の店でアルバイトをしていた。
「ごめん……」
箒とちりとりを駆使して、俺は必死に割れた皿の破片をかき集める。
もうすぐ店が混雑してくる時間だから、急いで片付けないと……
「龍彦、焦らなくて大丈夫だから。注文をとるのも、だいぶ慣れてきたじゃない」
ゴミ箱を抱えた亮子が、間近でにこりと笑った。
ほんとに、明るくて強くて。
俺はずっと、亮子が放つ夏の日差しのような明るさが眩しかった。
おっかない店の主人、亮子のお父さんは昔からすっごく苦手だったけど、亮子の傍にいたくてアルバイトの募集に応募したんだ。
「うん……でも、ヘマばっかりしてる……学校でもさ……」
俺は指先だけじゃなく、人付き合いも不器用だった。
友達も少ない。同じ高校に通っている亮子とて、それを知ってるはずだ。小学校、中学校も同じだったんだから。
「龍彦のいいところはね、真面目で優しいところだよ! 周りの子も、龍彦自身も気がついてないかもしれないけどね……私はそういうトコ、大事だなって思うよ」
胸がどきりとした。
「そ、そうかな……」
「おい、いつまで喋ってんだ!」
厨房の中から亮子のお父さんの不機嫌そうな声が飛んでくる。
俺は怖くて肩を竦めた。
「はい! 今行きます! ……っとにうるさいんだから……大丈夫だよ、龍彦……一緒に頑張ろう」
ぽん、と肩に置かれた亮子の華奢な手は荒れていた。食器洗い用の洗剤で肌が荒れてしまうのだ。
「これ……」
俺はこっそり、亮子のエプロンのポケットに小さなハンドクリームのチューブを入れた。
バイト代で買った、高めのやつだ。
「……ありがと……そういうとこだよ、龍彦のいいとこ」
くるりと背を向けた亮子の短い髪が、店の蛍光灯の灯りをはじく。
一緒に……この先の人生を、亮子と一緒に歩めたら。俺は頑張れる。どんなに辛いことがあったとしても。
※※※※※
「夢……」
ぼんやりと白けて見える天井は、見慣れた家のものだった。
くそ……あんな昔の夢をみるなんて……思い出さないように、いつも酒飲んでごまかしてるのによ……
そうか、昼間見たあのいけ好かない女のせいだ。
っとに、亮太の名前なんか出してきやがって……
なんだったんだ……
『おじさん……ほんとにあの亮太の父親なの……おじさんには、亮太みたいな優しさのかけらもない!』
『龍彦のいいところはね、真面目で優しいところだよ!』
亮子の声が頭に響いて、浮かぶ笑顔に胃が締めつけられる……くそっ、目が熱い……
あのなあ……優しさなんてもんがあったって、どうしようもないことがあるんだよ!
俺の……俺の命より大事なもんは、あっさりどっかに行っちまうんだから!
酒をぶっかけてやったあの女……
亮太の女だったんだろうか……
まあ、もうどうでもいい……
これでもう二度とここに来ることはないだろう……
『亮太はお母さんとのつながりを大事にするような人です!』
「あの目……気ぃ強そうだったな……亮子……」
俺は宙に手を伸ばす。
俺が死ねば良かったんだ……
なんで亮子が……なんで亮一が死ななきゃならなかったんだ……あいつは亮子に似て……いい子だったのに!
「俺が……俺が死ねば良かったんだ……」
3人で過ごした甘い記憶は、俺を狂わせる。
本当にもう、どうしようもない。
俺はぎゅっと握りしめた拳を、目一杯の力で畳に叩きつけた。
部屋に充満する線香の匂い。
仏壇に置かれた写真の中で、ずっと笑っている亮子と亮一。
俺も早く、お前達のところに行きたい。
どうして……どうして俺は、生きているんだ?
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