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お仕事の時間ですよ 3
王宮騎士物語 第41話 青いドレス
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古本屋の店主がクレッセリアの手首を握り、何かを言っている。ブリジットは、大股で素早く近寄る。
「その手を離しなさい!」
ブリジットの怒号が通りに響いた。四天王の腹から出した突き刺さるような声に人々は足を止め、視線を集める。戦団長は一瞬でその場を掌握した。
その声に驚いたクレッセリアは、手にしていた本がするりと滑り落ちたのにも気づかず、声の主を振り返る。
同時にブリジットの声に圧倒された店主は、クレッセリアの手を慌てて離し姿勢を正した。
「申し訳ありません。」
古本屋の店主は一目で彼女を上位の貴族と理解し、頭を垂れる。
「無理強いは良くありませんね。」
「そんなつもりは…」
「ブリジット、大丈夫よ。問題ないから。」
「そう。それでは、行きましょう。」
ブリジットは地面に落ちた古い本に気付き、クレッセリアに手渡そうと屈んで持ち上げた。
「あ……」
一枚の古いセピア色の写真がひらりと頁の間から落ちた。もう一度屈んでそれを拾う。
「はい。大切な物なんでしょ。」
「ええ。ありがとう。一枚しかない…家族の写真なの。」
クレッセリアは少し寂しそうに笑った。
ブリジットの目に写ったのは、産衣に包まれた二人の子を両親であろう男女が大切そうに抱く、古い家族写真。クレッセリアから、聞いたことがあるのは、田舎にいる叔母の話のみ。家族の事が話題にのぼっても、何か事情があるのか、いつも話をかわされていた。
「行きましょうか。」
聞かれたくないのなら、無理に聞き出すことはしない。ブリジットは、写真のことは触れずにおこうと思い、歩き出した。
「本が好きなら、城に王立図書館があるわよ。」
「王立図書館!」
その存在はクレッセリアの知識の中にあった。だが、許可なく入る事ができる場所ではなく、一生に一度くらい見てみたいなと、憧れるだけで、まさかそれが実現するとは思わなかった。
「入ることができるの?」
こんなに喜ぶなら、もっと早く連れて行ってあげれば良かった……とブリジットは思った。
「ええ、頼んであげる。」
ふふふと意味ありげにブリジットは笑ったが、クレッセリアは嬉しさで、その怪しい笑いに全く気づいていなかった。
翌日はブリジットの予定が入っていたので翌々日、二人は馬車に乗って、城に向かっていた。
「図書館に行くだけなのに、こんな格好しなくちゃいけないの?」
クレッセリアがドレスのヒラヒラしたレースを撫でながら言う。
クレッセリアがお泊まりに用意した荷物の中には、よそ行きの服は入っていなかった。ブリジットは嬉々としてドレスを選び、侍女に着付けを任せた。灰色の豊かな髪をハーフアップにし、濃いブルーの薔薇の髪飾りを付ける。ドレスとお揃いの薔薇はあつらえたように良く似合っていた。
「一応、お城の中だし……たまにはお洒落してお出掛けするのもいいでしょ?」
「でも…持っていなかったから借りたけど…私…こんな高価なドレス……似合わないから……やっぱり行くのやめようか………」
「何言ってるの?良く似合っているわよ。惚れ直しちゃうわよ~ふふふ。」
「何、バカなこといってるの。」
「ふふ、お楽しみ~」
城に近づくと大きな門は馬車を止めることなく開かれ、そのまま城内に入る。
「え?いいの?こんなに簡単に入って…」
「先触れ出してあるから、大丈夫なのよ。」
「先触れ……」
クレッセリアはその言葉を聞き本来の手順を思い出していた。訪れる前日に先触れを出して訪問と目的を知らせ、門の前で待機。本人の確認と来城を知らせる。許可された後、門を開ける……はず……こんな対応は王族くらい……よね?え?ブリジットは貴族だけど、王族じゃ……ない……
「ブリジット。良く来てくれた。」
そんな事を考えているといつの間に着いたのか馬車は止まり、扉が開いてそこに迎えの男性が立っていた。
「げっ。」
「げっ?………?……うっ!おまえ、クレッセリアか!」
そこにいたのはサーバス・ニッケ・ル・トゥマインだった。
あー、王族……だったわ……ね……
クレッセリアは失言を発した口元を白い手袋をつけた手で隠し、眉間に皺を寄せて、ニヤニヤ笑うブリジットの方を見た。
「その手を離しなさい!」
ブリジットの怒号が通りに響いた。四天王の腹から出した突き刺さるような声に人々は足を止め、視線を集める。戦団長は一瞬でその場を掌握した。
その声に驚いたクレッセリアは、手にしていた本がするりと滑り落ちたのにも気づかず、声の主を振り返る。
同時にブリジットの声に圧倒された店主は、クレッセリアの手を慌てて離し姿勢を正した。
「申し訳ありません。」
古本屋の店主は一目で彼女を上位の貴族と理解し、頭を垂れる。
「無理強いは良くありませんね。」
「そんなつもりは…」
「ブリジット、大丈夫よ。問題ないから。」
「そう。それでは、行きましょう。」
ブリジットは地面に落ちた古い本に気付き、クレッセリアに手渡そうと屈んで持ち上げた。
「あ……」
一枚の古いセピア色の写真がひらりと頁の間から落ちた。もう一度屈んでそれを拾う。
「はい。大切な物なんでしょ。」
「ええ。ありがとう。一枚しかない…家族の写真なの。」
クレッセリアは少し寂しそうに笑った。
ブリジットの目に写ったのは、産衣に包まれた二人の子を両親であろう男女が大切そうに抱く、古い家族写真。クレッセリアから、聞いたことがあるのは、田舎にいる叔母の話のみ。家族の事が話題にのぼっても、何か事情があるのか、いつも話をかわされていた。
「行きましょうか。」
聞かれたくないのなら、無理に聞き出すことはしない。ブリジットは、写真のことは触れずにおこうと思い、歩き出した。
「本が好きなら、城に王立図書館があるわよ。」
「王立図書館!」
その存在はクレッセリアの知識の中にあった。だが、許可なく入る事ができる場所ではなく、一生に一度くらい見てみたいなと、憧れるだけで、まさかそれが実現するとは思わなかった。
「入ることができるの?」
こんなに喜ぶなら、もっと早く連れて行ってあげれば良かった……とブリジットは思った。
「ええ、頼んであげる。」
ふふふと意味ありげにブリジットは笑ったが、クレッセリアは嬉しさで、その怪しい笑いに全く気づいていなかった。
翌日はブリジットの予定が入っていたので翌々日、二人は馬車に乗って、城に向かっていた。
「図書館に行くだけなのに、こんな格好しなくちゃいけないの?」
クレッセリアがドレスのヒラヒラしたレースを撫でながら言う。
クレッセリアがお泊まりに用意した荷物の中には、よそ行きの服は入っていなかった。ブリジットは嬉々としてドレスを選び、侍女に着付けを任せた。灰色の豊かな髪をハーフアップにし、濃いブルーの薔薇の髪飾りを付ける。ドレスとお揃いの薔薇はあつらえたように良く似合っていた。
「一応、お城の中だし……たまにはお洒落してお出掛けするのもいいでしょ?」
「でも…持っていなかったから借りたけど…私…こんな高価なドレス……似合わないから……やっぱり行くのやめようか………」
「何言ってるの?良く似合っているわよ。惚れ直しちゃうわよ~ふふふ。」
「何、バカなこといってるの。」
「ふふ、お楽しみ~」
城に近づくと大きな門は馬車を止めることなく開かれ、そのまま城内に入る。
「え?いいの?こんなに簡単に入って…」
「先触れ出してあるから、大丈夫なのよ。」
「先触れ……」
クレッセリアはその言葉を聞き本来の手順を思い出していた。訪れる前日に先触れを出して訪問と目的を知らせ、門の前で待機。本人の確認と来城を知らせる。許可された後、門を開ける……はず……こんな対応は王族くらい……よね?え?ブリジットは貴族だけど、王族じゃ……ない……
「ブリジット。良く来てくれた。」
そんな事を考えているといつの間に着いたのか馬車は止まり、扉が開いてそこに迎えの男性が立っていた。
「げっ。」
「げっ?………?……うっ!おまえ、クレッセリアか!」
そこにいたのはサーバス・ニッケ・ル・トゥマインだった。
あー、王族……だったわ……ね……
クレッセリアは失言を発した口元を白い手袋をつけた手で隠し、眉間に皺を寄せて、ニヤニヤ笑うブリジットの方を見た。
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