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10. エピローグ~大団円(だいだんえん)?
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「ねえ、疑問に思っていることがあるんだけど……どうして、私は架空の人物と結婚できたのかしら?」
彼はエンズライトであるはずなのに、なぜエズラとして結婚できたのか。
クララは、ずっと疑問に思っていた。
「それは、簡単なことだ。『エズラ』という人物を、存在させただけだからな」
「どういうこと?」
まだ首をかしげているクララへ、エズラは簡単に説明をする。
いわく、権力で解決したのだと。
「俺には、王城内に協力者がいたんだ。でなければ、そう簡単に城は抜け出せない。その者が便宜を……」
「あ~、なるほど……」
皆まで聞かなくても、クララはいろいろと察した。
そもそも、エズラは王子殿下だったから、『訳アリ』だけでなく『何でもアリ』だったのだ。
「協力者は宰相で、でも、彼は父上の命を受けていただけで……」の話を聞きながら、権力ってすごい!貴族って怖い!と思ったクララだった。
「それで、エズラはこれからどうするつもりなの?」
「クララが売却をせずに残しておいてくれたあの家に住んで、これからも執筆活動を続けていくよ」
「じゃあ、またエズラの物語が読めるのね! それは楽しみだわ」
満面の笑顔でポンと手を叩き声を弾ませるクララを、眩しそうに見つめているエズラ。
先に食べ終わり、食後のお茶を飲み干すとおもむろに口を開いた。
「実は、クララにお願いしたいことがある」
「あっ、婚姻関係の解消ね? たしかに、もう必要はないし、今後エズラが別の人と結婚するときに困るわよね」
クララは食事の手を止め、忘れないうちにメモ帳へ書き出していく。
役場への(離婚?)の届け出。
預かっている家の鍵、本、印税、未完の原稿、資料の返却。
「他に、何があったかしら……」
「クララ、ちょっと貸して」
考え込むクララの手からペンを取ったエズラは、メモ書きに横から記入を始める。
その間に、クララは二階へ荷物を取りに行った。
「返却してもらいたいのは、丸を付けたもの。それ以外は、不要だ」
追加項目があるのだと思ったクララだが、メモを見るとどうやら違うらしい。
丸が付いていたのは、『鍵』、『原稿』、『資料』のみ。
『本』と『印税』には×が付いていて、『役場への届け出』にいたっては線ではなく黒く塗りつぶされていた。
「本に関しては、お言葉に甘えてそのまま頂きます。でも、印税は困るわ。これからあなたの生活費になるのだし、受け取るわけにはいかない」
「これは、今までの感謝の気持ちだが、クララが困ると言うのであれば形を変えるとしよう」
エズラは、本以外の物を受け取った。
「ところで、なぜ『役場への届け出』が塗りつぶされているの?」
「ゴホン……その件は、これからも継続でお願いしたい」
「どうして?」
「そ、その……俺が版元へ行けないときに、またクララへ代理をお願いするかもしれないからな。俺の両親や兄弟へは、頼めないだろう?」
「たしかに、エズラの言うとおりね」
自分の苦しい言い訳を疑問に思うことなくすんなりと納得したクララに、エズラはホッと安堵の息を吐く。
霊になる前は、エズラ一人でも何の問題もなかった。
つまり、婚姻関係を継続する理由としてはかなり弱いのだが、鈍いクララは気付かない。
そして、自分との関係が維持される限り、クララは他の誰とも結婚はできないのである。
身分はなくなった元貴族でも、貴族は貴族。
『貴族物語』の作者である元第四王子殿下も、やはり策士だった。
「俺は、これから『恋愛物語』も書いていこうと思っている。その手伝いをしてくれないだろうか?」
エズラは、さりげなく話題を変えた。
「執筆の手伝いは、もう必要ないでしょう? 出来上がったものを読んで、エズラへ感想を伝えればいいの?」
「そうだな。ぜひ、クララには一番に読んでもらいたい」
◇
その後出版された物語は、のちに「エズラの『恋愛物語』シリーズ」と呼ばれる、『貴族物語』と双璧をなす代表作となる。
男性主人公の他愛ない日常を描きつつも愛する女性への想いがあふれた物語は、世の女性たちの心を鷲掴みにし、「片思い中の彼の恋が成就(完結)するのを見届けるまでは、絶対に死ねない!」と言わしめるほどの人気を博す。
もちろんクララもその内の一人で、「いつ、彼(主人公)の恋は実るの?」とエズラに毎度尋ねているのだが、にっこりと笑う彼の答えはいつも同じ。
「それは、彼女しだいだ」
物語は、売れない作家である主人公が、想いを寄せる幼なじみの女性が営むカフェで執筆活動をしながら少しずつ作家として成功していく過程のなかで、彼女との何気ない幸せな日常を描いたもの。
「これは一読者としての感想だけど、いくら何でも幼なじみの彼女が鈍感すぎない? まあ、あのじれったさもこの作品の魅力ではあるんだけどね……」
「『彼女が、なぜ彼の気持ちに気付かないのか?』については、俺もクララの意見に完全に同意!しかない」
「あはは! エズラは作者なのに、おかしな発言をするのね」
爆笑するクララは、目に涙を浮かべている。
そんな彼女を見やりながら、人知れず頭を抱えるエズラ。
彼としてはもっと早くに気付いてもらえると思っていたのに、クララの鈍感さは筋金入りで、自分が接近の方法を間違えたことは理解している。
遠回しではなく、直球で。
これからは、遠慮せず積極的に行くべきなのか?
しかし、クララに嫌われて婚姻関係を解消されてしまっては本末転倒。
そもそも、気持ちに気付いてもらえない時点で、男としての魅力に欠けている?
もしや、年下は恋愛対象外なのでは……
何が正解なのかも現状打開策も浮かばず、策士エズラは日々悶々と頭を悩ませる。
「これは私の個人的な感想だから、そんなに落ち込まないで。じゃあ、続きを楽しみにしているわね! あっ、いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
うなだれるエズラへ声をかけ、クララは客を迎える。
エズラはカウンター席一番端の定位置で、今日も執筆作業に勤しむ。
クララのカフェは、ミーサの頃から一人で対応できるよう客席数はそれほど多くない。
混雑してきたら、エズラは自宅へ戻ったり王立図書館へ資料を借りに行くなどして席を空ける。
そして、頃合いをみて、また店に顔を出すという生活を送っているのだ。
たまに、王都で評判の店の総菜やお菓子を差し入れすることもある。
クララは「カフェで提供するメニューの参考になるわ」と喜んでいるが、エズラとしては彼女と一緒に食べたい。
ただ、その想いだけ。
◇◇◇
「クララ、おはよう」
「おはよう、エズラ」
朝一番に挨拶を交わす二人は、結婚して半年になる新婚夫婦。
しかし、他の夫婦とは少し様子が違う。
挨拶の場所は寝室でも自宅でもなく、妻が営むカフェの中だ。
二人は同居しておらず、徒歩五分程度の距離に別々に住んでいる。
夫は毎日開店前の店にやって来て、一緒に朝食をとるのがいつもの日課。
カフェの営業が始まれば、定位置に移動し眼鏡をかけて仕事を始める。
そして、帰る際に三食の食事代や飲み物代を妻へ支払い自宅へ帰っていく。
「おやすみ、クララ」
「おやすみ、エズラ。また、明日ね!」
笑顔の妻に見送られて、夫は家路につく。
彼女は今日も、次々とやって来る客の対応に追われていた。
最近は、相談者の中に若い男性の姿もある。
さらに、妻はたまに霊の依頼も受けていて、その場には必ず同行している夫の心配が尽きることはない。
妻が、夫の発言の真意と作品に込めた熱い想いに気付くのは、まだまだ当分先のことになりそうだ。
彼はエンズライトであるはずなのに、なぜエズラとして結婚できたのか。
クララは、ずっと疑問に思っていた。
「それは、簡単なことだ。『エズラ』という人物を、存在させただけだからな」
「どういうこと?」
まだ首をかしげているクララへ、エズラは簡単に説明をする。
いわく、権力で解決したのだと。
「俺には、王城内に協力者がいたんだ。でなければ、そう簡単に城は抜け出せない。その者が便宜を……」
「あ~、なるほど……」
皆まで聞かなくても、クララはいろいろと察した。
そもそも、エズラは王子殿下だったから、『訳アリ』だけでなく『何でもアリ』だったのだ。
「協力者は宰相で、でも、彼は父上の命を受けていただけで……」の話を聞きながら、権力ってすごい!貴族って怖い!と思ったクララだった。
「それで、エズラはこれからどうするつもりなの?」
「クララが売却をせずに残しておいてくれたあの家に住んで、これからも執筆活動を続けていくよ」
「じゃあ、またエズラの物語が読めるのね! それは楽しみだわ」
満面の笑顔でポンと手を叩き声を弾ませるクララを、眩しそうに見つめているエズラ。
先に食べ終わり、食後のお茶を飲み干すとおもむろに口を開いた。
「実は、クララにお願いしたいことがある」
「あっ、婚姻関係の解消ね? たしかに、もう必要はないし、今後エズラが別の人と結婚するときに困るわよね」
クララは食事の手を止め、忘れないうちにメモ帳へ書き出していく。
役場への(離婚?)の届け出。
預かっている家の鍵、本、印税、未完の原稿、資料の返却。
「他に、何があったかしら……」
「クララ、ちょっと貸して」
考え込むクララの手からペンを取ったエズラは、メモ書きに横から記入を始める。
その間に、クララは二階へ荷物を取りに行った。
「返却してもらいたいのは、丸を付けたもの。それ以外は、不要だ」
追加項目があるのだと思ったクララだが、メモを見るとどうやら違うらしい。
丸が付いていたのは、『鍵』、『原稿』、『資料』のみ。
『本』と『印税』には×が付いていて、『役場への届け出』にいたっては線ではなく黒く塗りつぶされていた。
「本に関しては、お言葉に甘えてそのまま頂きます。でも、印税は困るわ。これからあなたの生活費になるのだし、受け取るわけにはいかない」
「これは、今までの感謝の気持ちだが、クララが困ると言うのであれば形を変えるとしよう」
エズラは、本以外の物を受け取った。
「ところで、なぜ『役場への届け出』が塗りつぶされているの?」
「ゴホン……その件は、これからも継続でお願いしたい」
「どうして?」
「そ、その……俺が版元へ行けないときに、またクララへ代理をお願いするかもしれないからな。俺の両親や兄弟へは、頼めないだろう?」
「たしかに、エズラの言うとおりね」
自分の苦しい言い訳を疑問に思うことなくすんなりと納得したクララに、エズラはホッと安堵の息を吐く。
霊になる前は、エズラ一人でも何の問題もなかった。
つまり、婚姻関係を継続する理由としてはかなり弱いのだが、鈍いクララは気付かない。
そして、自分との関係が維持される限り、クララは他の誰とも結婚はできないのである。
身分はなくなった元貴族でも、貴族は貴族。
『貴族物語』の作者である元第四王子殿下も、やはり策士だった。
「俺は、これから『恋愛物語』も書いていこうと思っている。その手伝いをしてくれないだろうか?」
エズラは、さりげなく話題を変えた。
「執筆の手伝いは、もう必要ないでしょう? 出来上がったものを読んで、エズラへ感想を伝えればいいの?」
「そうだな。ぜひ、クララには一番に読んでもらいたい」
◇
その後出版された物語は、のちに「エズラの『恋愛物語』シリーズ」と呼ばれる、『貴族物語』と双璧をなす代表作となる。
男性主人公の他愛ない日常を描きつつも愛する女性への想いがあふれた物語は、世の女性たちの心を鷲掴みにし、「片思い中の彼の恋が成就(完結)するのを見届けるまでは、絶対に死ねない!」と言わしめるほどの人気を博す。
もちろんクララもその内の一人で、「いつ、彼(主人公)の恋は実るの?」とエズラに毎度尋ねているのだが、にっこりと笑う彼の答えはいつも同じ。
「それは、彼女しだいだ」
物語は、売れない作家である主人公が、想いを寄せる幼なじみの女性が営むカフェで執筆活動をしながら少しずつ作家として成功していく過程のなかで、彼女との何気ない幸せな日常を描いたもの。
「これは一読者としての感想だけど、いくら何でも幼なじみの彼女が鈍感すぎない? まあ、あのじれったさもこの作品の魅力ではあるんだけどね……」
「『彼女が、なぜ彼の気持ちに気付かないのか?』については、俺もクララの意見に完全に同意!しかない」
「あはは! エズラは作者なのに、おかしな発言をするのね」
爆笑するクララは、目に涙を浮かべている。
そんな彼女を見やりながら、人知れず頭を抱えるエズラ。
彼としてはもっと早くに気付いてもらえると思っていたのに、クララの鈍感さは筋金入りで、自分が接近の方法を間違えたことは理解している。
遠回しではなく、直球で。
これからは、遠慮せず積極的に行くべきなのか?
しかし、クララに嫌われて婚姻関係を解消されてしまっては本末転倒。
そもそも、気持ちに気付いてもらえない時点で、男としての魅力に欠けている?
もしや、年下は恋愛対象外なのでは……
何が正解なのかも現状打開策も浮かばず、策士エズラは日々悶々と頭を悩ませる。
「これは私の個人的な感想だから、そんなに落ち込まないで。じゃあ、続きを楽しみにしているわね! あっ、いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
うなだれるエズラへ声をかけ、クララは客を迎える。
エズラはカウンター席一番端の定位置で、今日も執筆作業に勤しむ。
クララのカフェは、ミーサの頃から一人で対応できるよう客席数はそれほど多くない。
混雑してきたら、エズラは自宅へ戻ったり王立図書館へ資料を借りに行くなどして席を空ける。
そして、頃合いをみて、また店に顔を出すという生活を送っているのだ。
たまに、王都で評判の店の総菜やお菓子を差し入れすることもある。
クララは「カフェで提供するメニューの参考になるわ」と喜んでいるが、エズラとしては彼女と一緒に食べたい。
ただ、その想いだけ。
◇◇◇
「クララ、おはよう」
「おはよう、エズラ」
朝一番に挨拶を交わす二人は、結婚して半年になる新婚夫婦。
しかし、他の夫婦とは少し様子が違う。
挨拶の場所は寝室でも自宅でもなく、妻が営むカフェの中だ。
二人は同居しておらず、徒歩五分程度の距離に別々に住んでいる。
夫は毎日開店前の店にやって来て、一緒に朝食をとるのがいつもの日課。
カフェの営業が始まれば、定位置に移動し眼鏡をかけて仕事を始める。
そして、帰る際に三食の食事代や飲み物代を妻へ支払い自宅へ帰っていく。
「おやすみ、クララ」
「おやすみ、エズラ。また、明日ね!」
笑顔の妻に見送られて、夫は家路につく。
彼女は今日も、次々とやって来る客の対応に追われていた。
最近は、相談者の中に若い男性の姿もある。
さらに、妻はたまに霊の依頼も受けていて、その場には必ず同行している夫の心配が尽きることはない。
妻が、夫の発言の真意と作品に込めた熱い想いに気付くのは、まだまだ当分先のことになりそうだ。
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とても良いお話でした。なぜか、明治大正時代の雰囲気で読んでしまいました。
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作者様 楽しく読ませて頂きありがとう。
私も、明治大正時代の雰囲気はとても好きです。
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拙作を読んでいただき、感想もくださり、ありがとうございました。