29 / 79
第二章 村のために、いろいろ頑張る!
29. <武闘大会4> もしかして……バレた?
しおりを挟むひぃ~!!
俺は、心の中で悲鳴をあげていた。
◇
試合開始直後から、Sランクさんは剣と魔法で果敢に攻め立ててきた。
慌てて火球を投げ応戦したが弾き返され、距離を詰められてしまう。
こっちは先手必勝とばかりに大魔法を発動しようと思っていたのに、その隙を与えてくれない。
⦅ほれほれ、ちゃっちゃと土壁を作らぬと、すぐにやられてしまうぞい!⦆
俺を叱咤しつつもマホーはどこか楽しげで、いきいきとした表情が頭に浮かぶ。
やっぱり、マホーは好戦家で戦闘狂だったんだな……(確信)
⦅一度、大きな火球を作ってみよ!⦆
えっ、大丈夫なのか?
マホーを信じて、土壁と同時に大きめの火球も作ってみた。
それを見た瞬間Sランクさんが後ろに下がり、攻撃の手が緩んだ。
⦅魔法使いは接近戦には弱いでのう、少し距離を取ったのじゃ。では、ここからはこちらの『ターン』じゃ!⦆
さっきの大玉を投げつけてみたけど、多少でも効いてくれよ……
Sランクさんも土壁で防御しようとしたが、穴が開いた。
多少威力は弱まり剣でどうにか防いだみたいだけど、少しケガを負ったようだ。
良かった……通用するみたい。
⦅刮目せよ! 『主人公補正』の前には、魔法耐性も敵わないのじゃ!! ⦆
それ、誰のセリフの真似?
てか、主人公補正じゃなくて、結局、レベル・魔力・攻撃力の差だろう?
あとさ、耐性スキルのない人だったら、今の攻撃で絶対に死んでいたよな?
⦅……かもしれんが、大丈夫じゃ。危なそうじゃったら、儂の上級ポーションを飲ませれば問題ない!⦆
ああ、マホーが本気モードになる前に早く試合を終わらせないと、大惨事になりそう……
俺は早期決着に向けて、動き出す。
火球が飛んできたら水で無効化し、剣は土壁で防ぎ、相手の土壁は強風で削り取る。
そしてついに、Sランクさんを場内際まで追い詰めた。
彼は疲労困憊状態で、体はすでにボロボロ。
できれば、もう降参してほしいんだけどな……
「……ここまで追い込まれたのは、本当に久しぶりだぜ」
「ならば、もう降参してくれんかのう?」
「ハハハ……この俺が、こんなじいさんから引導を渡されるとはな。だが、断る。仲間のためにも、俺はここで負けるわけにはいかねえんだ!」
Sランクさんは、何かを呟いた。
それが詠唱だと気付いたときには、時すでに遅し。
⦅例の『音操作』じゃ。油断するでないぞ!⦆
距離を取って身構えたが、何も聞こえない。
大音響でもするのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
Sランクさんは魔法を発動したあと、こちらを攻撃してくることはなく、肩で息をしている。
俺は何が起こるのかわからず、迂闊に動くこともできない。
しばらくこんな状態が続き、動かない俺たちに観客がざわざわし始めた。
「じいさん……もしかして、平気なのか?」
「えっと、何が?」
思わず、素で返事をしちゃった。
「年寄りだから、耳が遠いのか? それとも……魔法耐性? いや、でもな……」
Sランクさんは困惑したようなことを呟いているけど、俺は若者だぞ。
耳が遠いなんてことは、断じてない!……はず。
首をかしげながら、Sランクさんはまた詠唱した。
でも、やっぱり俺には何も聞こえない……が、今回は周囲から悲鳴が上がった。
「なんか、変な音がするぞ」
「いやだ、気持ち悪い!!」
「頭が痛くなってきた……」
えっ、なんだ?
何が起きているんだ?
マホーは、何か聞こえるか?
⦅おぬしに聞こえぬものが、儂に聞こえるわけがなかろう⦆
そうだよな。
周りを見渡すと、半径二百メートルくらいの場所にいる人だけに何らかの音が聞こえているようで、さっきの冒険者のように頭を抱えている人も多数いる。
⦅とにかく、おぬしには効かぬようじゃから、さっさと片付けよ!⦆
了解。
俺は風を起こし、Sランクさんを場外へ落とす。
彼はかなり限界だったようで立ち上がれず、仲間たちによって運ばれていく。
こうして、俺は決勝戦へ勝ち進んだのだった。
◇
決勝戦を前に、一旦休憩時間となる。
控え室で俺は、羽根ではなく腰を伸ばしていた。
「マジで、ずっとあの体勢はキツいぞ……」
⦅あとは、決勝だけじゃ。最後まで、気を抜くでないぞ!⦆
へいへい、わかってますよ。
そうだ、小腹が減ったからあれでも食べるか。
俺がアイテムボックスから取り出したのは、ゆで玉子と温泉サイダー。
お土産として、きちんとした商品となったものだ。
「うん、うまい!」
朝、茹でたてを、村の売店で買ってきた。
喉が渇くといけないから、ついでにサイダーもね。
わざわざ桶に氷を入れて、キンキンに冷やしてあるのだ。
「ぷはー、やっぱり炭酸は冷えていないと……」
温泉サイダーは、三種類ある。
ハチミツだけが入った、普通のサイダー。
普通のものに果汁を足した、果汁サイダー。
これは季節によって使用する果実を変えるから、様々な種類が作れる。
ちなみに、今は酸味の強い柑橘系を入れたレモンスカッシュのような味のサイダーだ。
最後は、生姜に似た野菜を使ったジンジャーエールみたいなサイダー。
甘さを控え、食事のときにも飲めるものを作ってみた。
あとは、ただの炭酸水もある。
そのまま飲んだり、お酒で割ったり、料理に使ってもいいかも。
子どもには甘いサイダーが人気で、大人は甘さ控えめのものを買っていく人が多いとのことだった。
⦅誰か、来たようじゃな。この気配は……あやつか⦆
髭も外し休憩時間を満喫していた俺は、急いで老人に戻る。
やって来たのは、Sランクさんだった。
彼は服を着替えており、顔色も悪くなく元気そうだ。
間近で見ると、銀髪に紫色の瞳の精悍な顔つきをしたなかなかの男前。
テーブルに置かれた色鮮やかなゆで玉子や、コップに注がれたシュワシュワと泡の立っている透明な液体を訝しげに見ているから、「美味しいから、一口どうじゃ?」と勧めてみた。
「魔法使いは、変な物を飲み食いしているんだな」
「失敬な! これは、超人気温泉の土産じゃぞ!!」
「オンセン? もしかして……トーアル村のことか?」
「なんじゃ。おぬしも、知っておるのか」
Sランクさんは、冒険者パーティーのメンバーと一度だけ行ったことがあるのだそう。
気になって、つい感想なんかを聞いてしまった。
観光案内がわかりやすかったとか、肌がしっとりしたと妹さんが喜んでくれたらしい。
ただ、湯浴み着が少しきつくて、もっとゆったりしたのがあればよかったとのこと。
たしかに、冒険者って厳つい人も多いもんな。
男性用のは、もっと大きいサイズの湯浴み着も必要だね。
村へ帰ったら、さっそくルビーたちへ報告だ。
トーアル村の土産と聞いて、Sランクさんは興味が湧いたみたい。
ここぞとばかりに営業すべく、ゆで玉子と普通のサイダーをあげたら、その場で飲んで食べてくれたよ。
気に入ったようだったから、パーティーメンバーへもどうぞと人数分のゆで玉子とサイダーをおすそ分けしておいた。
こういう地道な営業活動が、大事だからな。
そういえば、この人はここへ何をしに来たんだっけ?
用件を尋ねたら、どうしても聞きたいことがあるとのこと。
「……じいさんも、誰かに依頼されて武闘大会に出場したのか?」
「儂は違うぞい。でも、『も』ということは、おぬしはそうなんじゃな?」
「然る貴族に命令されて……このトーアル村を貰うために」
「…………」
試合中に「仲間のためにも、俺はここで負けるわけにはいかねえんだ!」とか言っていたから、なんか訳アリっぽいな。
俺に負けたことで任務は失敗したわけだけど、大丈夫なんだろうか。
「でも、負けてホッとしているんだ。あのぼんくらバカ息子には、あの村はもったいない」
「その馬鹿息子とは、もしかして……どこぞの伯爵家の四男のことかの?」
「ハハハ! じいさんはすげえな、なんでもお見通しかよ……」
そうか、Sランクさんが伯爵家からの刺客だったのか。
でもこれで、あいつの野望は阻止できたぞ。
「儂は、そんな貴族たちの魔の手からトーアル村を守るべく立ち上がった、大魔法使いモホーという者じゃ。優勝してトーアル村を賜り、村長殿へ譲渡する。それで、これからも安心して温泉に入るという壮大な計画なんじゃぞ」
せっかく作った設定なんだから、せめて一人くらいには名乗っておいてもいいよな。
「そいつは頼もしいな」と腹を抱えて笑っていたSランクさんだったが、急に真面目な顔つきになった。
口を開いたり閉じたりして非常に言いにくそうだけど、なんだろう?
「じいさん……アンタは、この世界の人間なのか?」
えっ!?
まさか……バレた?
5
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる