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第二章 村のために、いろいろ頑張る!
38. 新しい仲間が増えました
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トーアル村が譲渡されてから、およそひと月。
俺がこの世界に召喚されてから、半年が経とうとしていた。
この一か月の間に起きた出来事で特筆すべきは、二つ。
まず一つ目は、役場に待望の職員が増えたこと。
彼はトーアル村で働くことを熱望し、わざわざ前職を辞めてまで王都から村へ移住してきた、やる気満々の人物だった。
◇◇◇
「今日は、良い天気だな……」
この日は朝からお洗濯日和ということで、俺はせっせと洗濯に勤しんでいた。
この世界に洗濯機という便利なものはないから、家の外に口が広くて高さのある壺を作り、洗濯物と水と洗剤を入れて、風で回して洗う『手動洗濯機』を自作してみた。
これが、脱水までできる優れもので、かなり重宝している。
洗濯機のすぐ隣にある、土魔法で作った物干し台へ洗濯物を干し終わったときだった。
「カズキさん、朝から精が出ますね」
後ろを振り返った先にいたのは、意外な人物……ドレファスさんだ。
「えっ……どうして、ドレファスさんが村に?」
「今日からまたこちらでお世話になりますので、よろしくお願いいたします」
ドレファスさんから、ご丁寧に引っ越しの挨拶の品をいただいてしまった。
聞けば、国家公務員を辞めて、村の職員へ転職したとのこと。
驚く俺に、「あなたは、いつ移住されるのですか……次期村長さん?」と言い残し、ドレファスさんはにこやかな笑顔で去っていった。
⦅あやつが村に来るとは意外じゃったが、よかったではないか?⦆
「そうだな」
まさか、超安定職の役人を辞めるなんて思いもしなかったけど、これほど頼もしい人材は他にいないよな。
ハクさんのオーラ測定面接も、無事にパスしたようだし……
この村で働く人は、ハクさんの面接を受けなければならない。
温泉開業時に新たに採用された人は、もちろん全員面会済み。
臨時職員だった俺も、改めて面会することになったのだ。
ハクさんは、その名のとおり白髪のおばあちゃんで、どことなく死んだばあちゃんを彷彿とさせる容貌をしていた。
「相変わらず、おまえさんは何も視えん」と、苦笑されたけどね。
◇
後日、各温泉施設に半自動洗濯機『センタク』が導入されることになった。
提案者はドレファスさんで、温泉に浸かっている間に『洗い』が終わることが売りらしい。
なぜ半自動なのかというと、水を溜める作業と脱水だけが手動だから。
いわゆる、あっちの世界でのコインランドリーのようなものだな。
大小さまざまな大きさの洗濯機を取り揃えて、小物から大物まで対応できるようにしてある。
発案者の俺には、売り上げに応じた『アイデア使用料』みたいなものが入ってくるとのこと。
洗濯機は俺のアイデアではないから使用料は要らないと言ったら、「オンセン開発の代わりです」と言われた。
あのときは国の直轄領であり村の財政が厳しいこともあって、発案者の俺へ十分な対価を支払うことができなかったことを、ルビー親子やドレファスさんはずっと気にしていたんだって。
そういうことなら、今回はありがたく頂戴します。
今後は以前よりも自由に裁量できるので、これからも村の発展にご協力を!とドレファスさんからいい笑顔で言われた。
なるほど、他にもたくさんアイデアを出してください!ってことね。
この人、飴と鞭の使い方が上手だな。
◇◇◇
特筆すべき二つ目の出来事は、俺に新しい家族ができたことだ。
◇
「ただいま」
臨時警備担当の仕事を終え家に戻ると、荷物が散乱し部屋の中がぐちゃぐちゃになっていた。
⦅ほお……これはまた、派手にやりおったわい⦆
俺を出迎えてくれた猫型トーラが申し訳なさそうな顔をしているから、どうやらトーラも一緒に参加したらしい。
「お~い、アンディ、散らかったままだぞ! 早く片付けてくれ」
俺の呼びかけに、黒髪の男の子が顔を出す。
≪父上、今日は帰りが早かったのだな。すまぬ、すぐに片付けるとしよう≫
俺のことを父上と呼ぶこの子の名はアンディ、七歳だ。
誤解がないように先に言っておくが、俺はアンディの父親ではないぞ。
アンディがパンパンと手を叩くと、どこからともなく下僕がぞろぞろと出てきて部屋の片付けを始める。
彼らも慣れたもので、収納場所をきちんと把握しているようだ。
あっという間に部屋が綺麗になったことを確認したアンディが、もう一度手を叩く。
すると、下僕たちの姿が一瞬にして消えた。
うん、朝とか昼間ならいいけど、夜にこの光景はあまり見たくないかも……
見慣れつつあるが、やはり骨をカチカチいわせた者たちが家の中を歩いているのは微妙だな。
そう、彼らは人間ではなく骸骨…眷属のスケルトンだ。
そして、彼らの主はいまだ天井から上半身だけを覗かせたまま。
アンディは……正真正銘のアンデッドだった。
◇◇◇
数日前、俺はアイテムボックスの整理整頓をしていた。
物を入れすぎて中身を把握できていないから、確認の意味合いもある。
猫型トーラが、アイテムボックスから取り出した荷物の匂いをクンクンと嗅ぎにきた。
彼が気になっているのは、魔物の素材と大小の壺。
ところが、トーラは何を思ったのか、急に爪で小さい壺を引っ搔き始めた。
⦅あやつを止めぬと、封印が解けるぞ!!⦆
えっ!?
「トーラ、止めろ!!」
しかし、時すでに遅し。
ビリッと紙が破れる音が聞こえたと思ったら、勝手に壺の蓋が開き白い塊がいくつか飛び出してきた。
それが一つに纏まると見る見るうちに形作られていき、最終的には男の子の姿になる。
黒い髪に、トーラとよく似た水色の瞳が印象的な美少年だ。
彼は、青地に金の刺繍が贅沢に施された貴族のような恰好をしていた。
≪ふわぁ~、久しぶりの外の世界だな≫
大きく伸びをした彼は、辺りを見回したあと俺を見るなり動きを止める。
ジーっとこっちを見ているけど、呪い殺されないよな?
⦅こやつ……弱体化しておったはずじゃが、完全に復活しておる。でも、安心せよ。人に危害は加えぬヤツじゃ⦆
たしかに、頭からつま先まで姿がはっきりと確認できる。
彼の正体を知らない人が見れば、生きている人間にしか見えないもんな。
たしか、いたずら好きのアンデッドだっけ?
俺は神聖魔法は使えないから浄化もできないし、どうするんだよ。
こんなの野放しにしたら、家どころか村中がめちゃくちゃにされるぞ。
≪其方……父上なのか?≫
男の子から、意外な質問を受けた。
いやいや、君みたいな美少年の父親が、俺なわけないでしょう?
「俺は、君の父親じゃない。君が封印されていた壺の持ち主だ」
≪では、私が札を破るよう誘導した、あの魔獣の主人ということか……≫
男の子に同じ水色の瞳を向けられたトーラは、俺の後ろにそそくさと隠れる。
トーラがこれだけ怯えるのは、珍しいな。
武闘大会でも、大勢の観客を前に堂々としていたのに。
そして、彼に操られたから、トーラはあんなことをしてしまったのだと納得。
トーラは良い子だもんな。
⦅この儂が鑑定できぬとは、いやはや恐れ入ったわい⦆
えっ? マホーが鑑定できなかったの?
封印した当時は、まだ自分のレベルが低いからだとマホーは思っていたらしい。
しかし、実際には今のレベルでも無理だと判明した。
ハハハ……この世界に来て、初めて鑑定不能の相手に出会ったわけか。
これまで、俺と対峙してきた人たちの気持ちが理解できるな。
底が知れない相手を前にした、言い様のない表現しようのない不安な気持ち。
男の子は俺を見つめたまま、何か考え事をしている。
さて、これからどうなるのか……
≪私の父上ではないと申したが、其方にはどこか懐かしさを感じるのだ。もしや、父上の生まれ変わりかもしれぬな……≫
どうやら彼は、父親に対してかなり深い思い入れがあるようだ。
でも、異世界人である俺が父親の生まれ変わりである可能性は、限りなく低いんじゃないだろうか。
「君は、鑑定スキルは持っていないのか? 俺を鑑定してもらうと、その正体がわかると思うが」
≪私は、持っておらぬ。でも、其方の正体とはどういう意味だ?≫
「俺は、異世界から召喚された『召喚勇者』だ。だから、この世界の者ではない」
≪なんと! では、其方はやはり私の父上の生まれ変わりで間違いあるまい≫
男の子はぱあっと瞳を輝かせると、≪父上!≫と抱きついてきた。
もちろん、アンデッドだから実体はなく、俺に抱きつかれている感覚はないけどね。
「えっ、まさかとは思うけど……君の父親って『召喚勇者』なのか?」
≪私の父上は、魔物や他国の脅威に晒されていた祖国を救うために召喚された勇者なのだ。その後、皇女だった母上と結婚し私たち兄弟が生まれた≫
男の子の話によると、兄弟は他に兄が二人いて、自分は末っ子。
皆、父親と同じ黒髪だったそうだ。
「母親は『皇女だった』って、君は王子なんだろう? 封印される前は、ある王国の王城に住み着いていたと聞いているぞ」
≪国はシトロエンデ帝国で、私は王子でも皇子でもない。父上は皇帝から爵位を賜り、母上が降嫁した。あの王城にいたのは、仕返しをするためだ≫
その王国は、いつも母親へ嫌味を言ってきたり嫌がらせをしてきた伯母(母の異母姉)の嫁ぎ先だったとのこと。
夜な夜な悪さをしていたのは、寝不足にして、美貌を鼻に掛けていた彼女の肌をぼろぼろにするつもりだったようだ。
なんとも子供らしい発想に、つい笑ってしまった。
≪あの女は、母上の美しさに嫉妬していたのであろうな。だから、私が母上に成り代わりきっちりお返しをしてやったのだ。しかし、なぜかその地に縛られてしまった。その後、封印されてしまったが、最初の目的は果たせたし、あの地から離れることができたから満足している≫
「それで、君はこれからどうするんだ? 俺は封印できないから、もう自由の身だぞ」
俺では、彼を止める術がない。
せめて、この村での暴走だけは阻止したいが……
≪私は、父上のそばにいてはダメなのか?≫
「君が居たいのなら構わないが、約束をしてほしい。俺が今住んでいるのは、ライデン王国内にあるトーアル村と言って、平和で静かな村なんだ」
俺はこの村の人たちに助けてもらったから、正体を隠して恩返しをしていること。
だから、この村では悪さをしないでほしいとお願いすると、男の子は≪約束する≫と頷いてくれた。
村人を驚かせないように、この家の中以外では姿を見せないようにと、固く念も押しておく。
男の子から、自分のことは愛称の『アンディ』と呼んでほしいと言われた。
俺は和樹だと名乗ったが、アンディはそのまま『父上』と呼ぶことにしたらしい。
こうして、俺は未婚なのに息子ができたのだった。
俺がこの世界に召喚されてから、半年が経とうとしていた。
この一か月の間に起きた出来事で特筆すべきは、二つ。
まず一つ目は、役場に待望の職員が増えたこと。
彼はトーアル村で働くことを熱望し、わざわざ前職を辞めてまで王都から村へ移住してきた、やる気満々の人物だった。
◇◇◇
「今日は、良い天気だな……」
この日は朝からお洗濯日和ということで、俺はせっせと洗濯に勤しんでいた。
この世界に洗濯機という便利なものはないから、家の外に口が広くて高さのある壺を作り、洗濯物と水と洗剤を入れて、風で回して洗う『手動洗濯機』を自作してみた。
これが、脱水までできる優れもので、かなり重宝している。
洗濯機のすぐ隣にある、土魔法で作った物干し台へ洗濯物を干し終わったときだった。
「カズキさん、朝から精が出ますね」
後ろを振り返った先にいたのは、意外な人物……ドレファスさんだ。
「えっ……どうして、ドレファスさんが村に?」
「今日からまたこちらでお世話になりますので、よろしくお願いいたします」
ドレファスさんから、ご丁寧に引っ越しの挨拶の品をいただいてしまった。
聞けば、国家公務員を辞めて、村の職員へ転職したとのこと。
驚く俺に、「あなたは、いつ移住されるのですか……次期村長さん?」と言い残し、ドレファスさんはにこやかな笑顔で去っていった。
⦅あやつが村に来るとは意外じゃったが、よかったではないか?⦆
「そうだな」
まさか、超安定職の役人を辞めるなんて思いもしなかったけど、これほど頼もしい人材は他にいないよな。
ハクさんのオーラ測定面接も、無事にパスしたようだし……
この村で働く人は、ハクさんの面接を受けなければならない。
温泉開業時に新たに採用された人は、もちろん全員面会済み。
臨時職員だった俺も、改めて面会することになったのだ。
ハクさんは、その名のとおり白髪のおばあちゃんで、どことなく死んだばあちゃんを彷彿とさせる容貌をしていた。
「相変わらず、おまえさんは何も視えん」と、苦笑されたけどね。
◇
後日、各温泉施設に半自動洗濯機『センタク』が導入されることになった。
提案者はドレファスさんで、温泉に浸かっている間に『洗い』が終わることが売りらしい。
なぜ半自動なのかというと、水を溜める作業と脱水だけが手動だから。
いわゆる、あっちの世界でのコインランドリーのようなものだな。
大小さまざまな大きさの洗濯機を取り揃えて、小物から大物まで対応できるようにしてある。
発案者の俺には、売り上げに応じた『アイデア使用料』みたいなものが入ってくるとのこと。
洗濯機は俺のアイデアではないから使用料は要らないと言ったら、「オンセン開発の代わりです」と言われた。
あのときは国の直轄領であり村の財政が厳しいこともあって、発案者の俺へ十分な対価を支払うことができなかったことを、ルビー親子やドレファスさんはずっと気にしていたんだって。
そういうことなら、今回はありがたく頂戴します。
今後は以前よりも自由に裁量できるので、これからも村の発展にご協力を!とドレファスさんからいい笑顔で言われた。
なるほど、他にもたくさんアイデアを出してください!ってことね。
この人、飴と鞭の使い方が上手だな。
◇◇◇
特筆すべき二つ目の出来事は、俺に新しい家族ができたことだ。
◇
「ただいま」
臨時警備担当の仕事を終え家に戻ると、荷物が散乱し部屋の中がぐちゃぐちゃになっていた。
⦅ほお……これはまた、派手にやりおったわい⦆
俺を出迎えてくれた猫型トーラが申し訳なさそうな顔をしているから、どうやらトーラも一緒に参加したらしい。
「お~い、アンディ、散らかったままだぞ! 早く片付けてくれ」
俺の呼びかけに、黒髪の男の子が顔を出す。
≪父上、今日は帰りが早かったのだな。すまぬ、すぐに片付けるとしよう≫
俺のことを父上と呼ぶこの子の名はアンディ、七歳だ。
誤解がないように先に言っておくが、俺はアンディの父親ではないぞ。
アンディがパンパンと手を叩くと、どこからともなく下僕がぞろぞろと出てきて部屋の片付けを始める。
彼らも慣れたもので、収納場所をきちんと把握しているようだ。
あっという間に部屋が綺麗になったことを確認したアンディが、もう一度手を叩く。
すると、下僕たちの姿が一瞬にして消えた。
うん、朝とか昼間ならいいけど、夜にこの光景はあまり見たくないかも……
見慣れつつあるが、やはり骨をカチカチいわせた者たちが家の中を歩いているのは微妙だな。
そう、彼らは人間ではなく骸骨…眷属のスケルトンだ。
そして、彼らの主はいまだ天井から上半身だけを覗かせたまま。
アンディは……正真正銘のアンデッドだった。
◇◇◇
数日前、俺はアイテムボックスの整理整頓をしていた。
物を入れすぎて中身を把握できていないから、確認の意味合いもある。
猫型トーラが、アイテムボックスから取り出した荷物の匂いをクンクンと嗅ぎにきた。
彼が気になっているのは、魔物の素材と大小の壺。
ところが、トーラは何を思ったのか、急に爪で小さい壺を引っ搔き始めた。
⦅あやつを止めぬと、封印が解けるぞ!!⦆
えっ!?
「トーラ、止めろ!!」
しかし、時すでに遅し。
ビリッと紙が破れる音が聞こえたと思ったら、勝手に壺の蓋が開き白い塊がいくつか飛び出してきた。
それが一つに纏まると見る見るうちに形作られていき、最終的には男の子の姿になる。
黒い髪に、トーラとよく似た水色の瞳が印象的な美少年だ。
彼は、青地に金の刺繍が贅沢に施された貴族のような恰好をしていた。
≪ふわぁ~、久しぶりの外の世界だな≫
大きく伸びをした彼は、辺りを見回したあと俺を見るなり動きを止める。
ジーっとこっちを見ているけど、呪い殺されないよな?
⦅こやつ……弱体化しておったはずじゃが、完全に復活しておる。でも、安心せよ。人に危害は加えぬヤツじゃ⦆
たしかに、頭からつま先まで姿がはっきりと確認できる。
彼の正体を知らない人が見れば、生きている人間にしか見えないもんな。
たしか、いたずら好きのアンデッドだっけ?
俺は神聖魔法は使えないから浄化もできないし、どうするんだよ。
こんなの野放しにしたら、家どころか村中がめちゃくちゃにされるぞ。
≪其方……父上なのか?≫
男の子から、意外な質問を受けた。
いやいや、君みたいな美少年の父親が、俺なわけないでしょう?
「俺は、君の父親じゃない。君が封印されていた壺の持ち主だ」
≪では、私が札を破るよう誘導した、あの魔獣の主人ということか……≫
男の子に同じ水色の瞳を向けられたトーラは、俺の後ろにそそくさと隠れる。
トーラがこれだけ怯えるのは、珍しいな。
武闘大会でも、大勢の観客を前に堂々としていたのに。
そして、彼に操られたから、トーラはあんなことをしてしまったのだと納得。
トーラは良い子だもんな。
⦅この儂が鑑定できぬとは、いやはや恐れ入ったわい⦆
えっ? マホーが鑑定できなかったの?
封印した当時は、まだ自分のレベルが低いからだとマホーは思っていたらしい。
しかし、実際には今のレベルでも無理だと判明した。
ハハハ……この世界に来て、初めて鑑定不能の相手に出会ったわけか。
これまで、俺と対峙してきた人たちの気持ちが理解できるな。
底が知れない相手を前にした、言い様のない表現しようのない不安な気持ち。
男の子は俺を見つめたまま、何か考え事をしている。
さて、これからどうなるのか……
≪私の父上ではないと申したが、其方にはどこか懐かしさを感じるのだ。もしや、父上の生まれ変わりかもしれぬな……≫
どうやら彼は、父親に対してかなり深い思い入れがあるようだ。
でも、異世界人である俺が父親の生まれ変わりである可能性は、限りなく低いんじゃないだろうか。
「君は、鑑定スキルは持っていないのか? 俺を鑑定してもらうと、その正体がわかると思うが」
≪私は、持っておらぬ。でも、其方の正体とはどういう意味だ?≫
「俺は、異世界から召喚された『召喚勇者』だ。だから、この世界の者ではない」
≪なんと! では、其方はやはり私の父上の生まれ変わりで間違いあるまい≫
男の子はぱあっと瞳を輝かせると、≪父上!≫と抱きついてきた。
もちろん、アンデッドだから実体はなく、俺に抱きつかれている感覚はないけどね。
「えっ、まさかとは思うけど……君の父親って『召喚勇者』なのか?」
≪私の父上は、魔物や他国の脅威に晒されていた祖国を救うために召喚された勇者なのだ。その後、皇女だった母上と結婚し私たち兄弟が生まれた≫
男の子の話によると、兄弟は他に兄が二人いて、自分は末っ子。
皆、父親と同じ黒髪だったそうだ。
「母親は『皇女だった』って、君は王子なんだろう? 封印される前は、ある王国の王城に住み着いていたと聞いているぞ」
≪国はシトロエンデ帝国で、私は王子でも皇子でもない。父上は皇帝から爵位を賜り、母上が降嫁した。あの王城にいたのは、仕返しをするためだ≫
その王国は、いつも母親へ嫌味を言ってきたり嫌がらせをしてきた伯母(母の異母姉)の嫁ぎ先だったとのこと。
夜な夜な悪さをしていたのは、寝不足にして、美貌を鼻に掛けていた彼女の肌をぼろぼろにするつもりだったようだ。
なんとも子供らしい発想に、つい笑ってしまった。
≪あの女は、母上の美しさに嫉妬していたのであろうな。だから、私が母上に成り代わりきっちりお返しをしてやったのだ。しかし、なぜかその地に縛られてしまった。その後、封印されてしまったが、最初の目的は果たせたし、あの地から離れることができたから満足している≫
「それで、君はこれからどうするんだ? 俺は封印できないから、もう自由の身だぞ」
俺では、彼を止める術がない。
せめて、この村での暴走だけは阻止したいが……
≪私は、父上のそばにいてはダメなのか?≫
「君が居たいのなら構わないが、約束をしてほしい。俺が今住んでいるのは、ライデン王国内にあるトーアル村と言って、平和で静かな村なんだ」
俺はこの村の人たちに助けてもらったから、正体を隠して恩返しをしていること。
だから、この村では悪さをしないでほしいとお願いすると、男の子は≪約束する≫と頷いてくれた。
村人を驚かせないように、この家の中以外では姿を見せないようにと、固く念も押しておく。
男の子から、自分のことは愛称の『アンディ』と呼んでほしいと言われた。
俺は和樹だと名乗ったが、アンディはそのまま『父上』と呼ぶことにしたらしい。
こうして、俺は未婚なのに息子ができたのだった。
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