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第三章 雨降って、地固まる?
52. 女子の買い物 in 王都
しおりを挟む馬車を降りたルビーとアニーは、長い行列に並んだ。
これから、王都へ入るための簡易的な手続きをしなければならない。
といっても、和樹と違い身分証明書のある二人はそれを確認してもらうだけ。
すぐに門をくぐり抜け、ルビーは約一年ぶりに王都の地へ足を踏み入れた。
「さて、ここからは効率よく行きたい所を巡るわよ。買いたい物を買って、食べたい物を食べて……」
村で事前に作成してきた計画表を見ながら、アニーはさっさと歩き出す。
帰りの馬車の時間に間に合うように、行動しなければならない。
『漆黒の夜』はスコット領を拠点に活動している冒険者パーティーではあったが、伯爵の命で王都へもよく来ていた。
だから、久しぶりのルビーより街をよく知っているのだ。
◇
二人の目的の店は、王都で女性向け商品を買うならココ!と言われるほどの有名店だ。
店に入ると可愛らしいものや綺麗な商品が所狭しと並び、目移りしてしまう。
「ルビーちゃんは、ペンダントを買うのだっけ?」
「そうなの」
「私は、指輪を見てくるわ。じゃあ、またあとでね!」
アニーは、お目当ての指輪が並んでいる売り場へ早足で行ってしまう。
ルビーも店員からペンダントの売り場を聞き、さっそく向かうことにした。
目的地へ歩いている途中、ふと目に留まったのは髪留めの陳列棚。
用事はないのに、つい足が止まる。
ちょうど売り場の担当者へ真剣に相談している男性がいて、微笑ましく眺めてしまった。
髪留めはまず本体の色と形、それから嵌め込む色石を順番に選んでいくのだが、一生に一度しか買わない物だからか、受け取る側の女性は買い方をよく知っていても、贈る側の男性は戸惑ってしまう者もいるとルビーは聞いたことがある。
丸や四角など形だけでも様々ある髪留めを興味深げに見ていたら、「おめでとうございます!」と声をかけられた。
振り返ると、先ほどまで男性の相談にのっていた女性店員だ。
「お客様が身に着けていらっしゃる髪留めは、私がお手伝いをさせていただきました」
詳しい話を聞くと、建国祭の日に猫を連れた男性客がやって来て一時間ほど店内を見回ったあと、髪留めを買っていったのだという。
「薄桃色の可愛らしい猫ちゃんでしたし、男性は黒髪・黒目の方でしたので、とても印象に残っています。髪留めの穴が、なぜ二つではなく三つのものになるのか、ずっと首をかしげておられましたね」
微笑んだ店員につられるように、ルビーも思わずクスッと笑ってしまう。
意味も知らず指示されるまま素直にルビーの色石を選んだ和樹の姿が、容易に想像できた。
「髪留めに、何か不具合でもございましたか?」
不安げな店員に今日はペンダントを買いに来たと伝えると、ホッと安堵の表情を見せたあとすぐに売り場へ案内してくれる。
ついでだからと、ルビーは男性へペンダントを贈る人はいるのか尋ねてみた。
「同じものを、お揃いで買われる方が多いですね」
「お揃い……」
予想外の答えに、ルビーの思考が停止する。
今日の目的は、髪留めに対するお返しの物を買うこと。
それは和樹へ渡す用だけで、自分の物は予定に入っていなかった。
お返しにペンダントを選んだのは、和樹は普段指輪をしていないという単純な理由から。
「婚約者の方と同じ物を持つなんて、素敵ですよね。憧れちゃいます!」
「そうですね」
もちろん、ルビーと和樹は婚約者ではない。
和樹は贈る意味も知らず、ただ実用的だという理由で髪留めを選んだのだから。
しかし、自分と同年代と思われる彼女の夢を壊さないように、ルビーは訂正をせず空気を読んだ。
女性店員のお薦めは、ルビーの髪留めにも付いている黒の色石『瑪瑙』だった。
「お客様は婚約者の方の色になりますし、これくらい落ち着いた色合いのものであれば男性も身に着け易いです。それに、こちらは『魔除け』の石でもありますから」
商売が上手だなと、ルビーは感心してしまう。
ここまで納得できる説明をされてしまうと、他の石にする理由が見当たらない。
結局、そのまま購入を決めた。
ペンダントの本体は、髪留めと同じシルバーを選ぶ。
和樹へ渡す口実は『髪留めのお返し』と『お守り』ということで押し通し、ルビーとお揃いだということは明かさない。
必死に言い訳を探す自分に気付き、ルビーは思わず苦笑したのだった。
◇
お目当ての菓子店で最近王都で人気だという焼き菓子を頂き、土産を買い、二人は帰宅の途につく。
ルビーは帰りの馬車の中で、菓子店でのやり取りを思い返していた。
◇◇◇
菓子店では、お互いに買った物を見せ合いっこした。
「アニーさんは、そのまま紺色の指輪にしたのね」
「髪色にするか、瞳の色にするか、最後まで悩んだけど……結局、髪の色にしちゃった。その点、ルビーちゃんはいいわよね。同じ色だからさ」
「わ、私は別にそんなつもりで買ったわけじゃないわよ。ただ、お返しとお守りのつもりで……」
さっそく、先ほど考えた言い訳が役立つ時がきた。
ルビーが頑なにお礼を強調している姿に、アニーは目を細め微笑ましいと言わんばかりの視線を送る。
「何とも思っていない男性からもらった髪留めを、いつも身に着ける子なんていないわ。だって、周囲に誤解されたら嫌じゃない? 相手に好意を持っていなければ、絶対にしないもの」
「…………」
「素直に、カズキくんへ気持ちを伝えたらいいのに。私は、二人はお似合いだと思うわよ」
「……カズキは、旅人なの。いつかは、学校へ復学するために村から居なくなってしまうのよ。だから……」
「じゃあ、ルビーちゃんも彼に付いていけば万事解決ね。カズキくんが学校を卒業したら、結婚すればいいわ」
あっさり簡単に、アニーは言い切ったのだった。
◇◇◇
(アニーさんは、いいわよね。好きな人が、同じ村に住んでいるのだから……)
鬱蒼とした森が広がる景色を眺めながら、思わずため息が漏れる。
父のゴウドからも、ルビーは同じようなことを言われたことがあった。
それは、和樹からもらった髪留めをルビーが初めて着けた日。
ゴウドへは、他国民の和樹が意味を知らずに贈ってくれたと最初に報告をしていた。
「もし、ルビーがカズキくんに付いていきたいのなら、一緒に村を出ていっても構わないのだよ?」
「父さんを、一人置いて行けるわけないわ。それに、村だって……」
「村のことは、気にしなくていい。トーアル村は『村長のもの』になったのだから、おまえの結婚相手が村長を継ぐ義務はなくなった。私の次は、村人の中からなりたい者が村長になればいいのだからな」
ルビーが、この村に縛られることはなくなったんだよ…そう言って、ゴウドは微笑む。
それは、村長としてではなく、娘の幸せを願う一人の父親としての顔だった。
(父さんを、一人残しては行けない。それに……)
和樹は、学校を卒業後は国の要職に就くべき優秀な人材だ。
本人が望めば、宮廷魔導師にだってなれるだろう。
そんな彼の足手まといにルビーはなりたくないし、なるつもりもない。
来る別れの日には、和樹を笑顔で見送ろうと心に決めている。
だから、それまでは……お揃いのペンダントと彼への想いを胸に忍ばせることを許してもらう。
◇
アニーとは、村の途中で別れた。
彼女は今から、役場にいるドレファスへ土産を渡しに行くという。
ルビーは、和樹の家へ寄ってから帰るつもりだ。
彼が家に居れば土産を渡し、留守であれば明日以降にもう一度訪問する。
ペンダントを渡したときに、和樹はどんな反応を示すのだろうか。
期待と不安が入り交じった気持ちのままルビーが家のドアをノックすると、すぐに和樹が出てきた。
「おかえり。王都は楽しかった?」
「ええ」
にこりと笑う、いつもの人懐っこい笑顔。
ルビーは、和樹の笑顔がたまらなく好きだ。
「今から役場へ行くつもりだったから、ちょうど良かったよ」
「何か、用事でもあるの?」
「実は急用ができて、来月、俺は村を離れることになった」
「……えっ?」
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