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第三章 雨降って、地固まる?
53. 思わぬ来訪者
しおりを挟むルビーたちが王都へ出かけた日、俺は臨時警備担当の仕事をしていた。
朝からアンディとトーラを仕事先へ送り、『イケス』で働く子供たちに付き添い、トーラへ昼食(肉)を届けるついでに俺も一緒に食事を取りながら、アンディから今日のオバーケ体験客の話を聞いていた。
≪今日は、変わった男性客がいたのだ。子連れの中に、ポツンと一人だけでおったな≫
「まあ、オバーケは親子限定というわけではないから、そういう人がいても別におかしくはないぞ」
よほど個人的にオバーケに興味があったか、もしくは、子供を連れて来る前のお父さんの下見とかね。
≪それが、オバーケの中身ではなく私に興味があるようだった。他の者が眷属と戦っているときに、質問を受けたのだ。「君は黒髪だけど、瞳の色は黒ではないのか?」と≫
⦅うむ? これは、ひょっとすると……⦆
……ひょっとするのか?
「アンディは、なんと答えたんだ?」
≪「私への質問は、すべて役場を通してくれ」と言っておいたぞ≫
ハハハ……さすがは、アンディ。
百点満点の答えだな。
「それで、その人物の風体などは覚えているか?」
≪年の頃は、父上より十くらい上だな。髪は濃い灰色で、瞳はドレファス殿よりやや薄い緑色だったか。ローブの下は旅装をしていたから、王都の者ではないと思う。魔法使いのようだったが……父上は、その人物に心当たりでもあるのか?≫
⦅こやつにも、話しておいたほうが良いのではないか?⦆
そうだな。
情報の共有は大事だからな。
「心当たりはある。アンディにはまだ話をしていなかったが、実は……」
アンディの封印が解けるひと月ほど前に、冒険者ギルドの掲示板に俺の行方を探す依頼が貼り出されていたこと。
依頼主は、俺が黒髪・黒目で、メガタイガー(トーラ)を召喚したことを知っていること。
おそらく、勇者を召喚した国からの依頼だと思われるが、俺は勇者として生きるつもりはないため偽情報を流しておいたことなどを話す。
「もしかすると、アンディは俺と間違われたのかもしれないな……」
あちらさんは、召喚した勇者が少年だと認識しているみたいだからね。
≪父上は、これからどうするつもりなのだ?≫
「俺としては、『このまま放っておいてほしい』というのが一番。でも、そうも言っていられないようだな」
トーアル村まで捜索が及んできた以上、見つかるのは時間の問題だ。
いよいよ、この問題と向き合うときが来たのだろう。
それにしても、魔法使いとは……俺の召喚主である可能性が高そうだな。
≪……父上は、元の世界に帰りたいのか?≫
「う~ん、向こうに残してきた家族はいないし、こっちに大切な家族と大事な仕事ができたからな……」
アンディとトーラを残したまま帰れないし、マホーだって界を渡ったら消えてしまうかもしれない。
それに、村はまだまだ発展途上。
やりたいことも、たくさんある。
何より、召喚された者が元いた世界へ帰れないのは、小説でもテンプレだ。
≪そうか、それは良かった≫
……うん?
いつもは自信満々なアンディの顔が一瞬曇ったように見えたけど、気のせいかな。
あっ、誰か来たみたい。
⦅ほう、珍しいのう。あやつが、やって来るとは……⦆
「カズキさん! 休憩中にすいません……」
ドレファスさんが、洞窟に来ていた。
モホーの言う通り、彼は事務担当だから基本的にここへ来ることはまずない。
「どうしたんですか?」
「あなたに会いたいと言うお客様が、役場にお見えです。シトローム帝国の魔法使いの方なんですが」
「!?」
⦅ホッホッホ、予想以上の早さじゃったな⦆
≪その者は、濃い灰色髪に薄緑色の瞳。ローブを羽織った三十前後くらいの男で間違いないか?≫
「その通りです」
≪父上、すまぬ。私が、役場へ誘導したからだ……≫
「アンディ、気にすることはない。遅かれ早かれ、こうなっていたんだからな」
ずっと先送りしてきたけど、いずれは決着させないといけない問題なのだから。
「その方には、仕事が終わるまで待つように伝えてもらえますか? 俺は、逃げも隠れもしませんからと……」
「やはり、同じ国の方でしたか。カズキさんが一向に戻られないので、学校の方が連れ戻しにいらっしゃったのでしょうね」
ドレファスさんは、俺が休学している(ことになっている)魔法学校の関係者だと思ったみたい。
いつまでも引き留めてしまって申し訳ないと、謝られてしまった。
役場へ戻るドレファスさんの背中に、こちらこそ本当にごめんなさいと呟く。
俺こそ自分の正体を隠し、周囲にずっと嘘を吐いているのだから。
⦅会って、どうするつもりじゃ?⦆
俺を召喚した理由を、尋ねてみるよ。
そして、俺は勇者として生きるつもりはないと、はっきり宣言するつもり。
それで、簡単に見逃してもらえるとは思っていないけどね。
≪その場には、私もトーラも立ち会わせてもらう。トーラ、私たちで父上を守るぞ!≫
気付いたら、トーラの食事が止まっていた。
昼食の肉が、半分以上も残っている。
ごめん、トーラにも心配をかけたみたいだな。
俺は大丈夫だからと頭を撫でてやったら、トーラは安心したように食事を再開したのだった。
◇◇◇
シトローム帝国からの使者と会う場所は、営業終了後の洞窟にした。
他の人に話を聞かれないようにするためが、一番の理由。
それと、相手が実力行使に出て万が一戦うことになったときに、村へ被害が及ばないようにする目的もある。
さてさて、どんな人物がやって来たのだろう。
国の代表者だから、かなりの強者なんだろうな。
俺はドキドキしながら、使者を迎えたのだが…………あれ?
「わ、私はシトローム帝国から参りました、ザムルバと申します! この度は、憧れの勇者様に拝謁を許されましたこと、恐悦至極に存じます。思えば、幼い頃に夢中になって読み進めました冒険譚の主人公である……」
えっと、いきなり目の前で跪かれて、唐突に自分語りが始まったけど……俺はどうすればいいんだ?
⦅そういえば、魔剣士とやらが武闘大会で同じように語っておったのう⦆
もしかして、この人もエミネルさんと同じタイプの人?
いやいや、残念キャラは魔剣士さんだけでお腹いっぱいなんですけど!
⦅ふむふむ。こやつは、宮廷魔導師のようじゃな。レベルが70近くあるようじゃが、フフッ…驚くほど偏っておるわい⦆
何が偏っているんだろう?
マホーの含み笑いが気になるから、俺も鑑定してみるか。
【名称】 ザムルバ/28歳
【職業】 シトローム帝国 宮廷魔導師
【レベル】 67
【魔力】 70
【体力】 20
【攻撃力】 魔法 65
物理 10
【防御力】 50
【属性】 火、水(氷)、土
【スキル】 製薬、鑑定、探知、空間、風操作、雷操作、召喚
……うん、わかりやすく魔法に特化している人なんだね。
さすがは宮廷魔導師というべきか。
⦅この若さで『氷魔法』を持っておるとは、恐れ入る⦆
たしかに!
レベルも高いし、魔導師としてはかなり優秀な人っぽいから、それなりの地位にいるのかも。
≪其方のことはもうよいから、早く用件を述べよ≫
ハハハ……長い自分語りに、アンディが痺れを切らしたみたいだ。
「大変失礼いたしました! 私は勇者様を元の世界へ送り届けるために、こちらまで参上した次第でございます!!」
⦅なぬ!⦆
えっ?
まさか、日本へ帰れるってこと?
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