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第四章 いよいよ、あの問題と向き合うときが来た
61. お披露目パーティー
しおりを挟む「はあ……」
出てくるのは、ため息ばかり。
俺、なんでこんなことをしているんだろうな……
⦅あやつに、どうしてもと頼み込まれたからじゃろう?⦆
だってさ、『これを引き受けてくれたら、皇帝陛下へ(帰国許可の)進言をする』って言われたら、受けるしかないだろう?
⦅『帰国』を餌に、いいように利用されておるような気もするがのう……⦆
ぐぬぬ。
マホーの意見に反論したいけど、できない……
◇◇◇
親善試合から十日ほどが経ったある日、宰相さんが久しぶりに離宮へやって来た。
今日はいつもの部下さんじゃなくて、別の人を連れている。
「本日は、サカイ殿にどうしてもお願いしたいことがございまして……」
非常に神妙な顔をしているけど、なんだろう?
宰相さんに代わって、若い文官さんが説明を始めた。
「『勇者お披露目パーティー』を、非公式ではありますが開催することになりました。はっきり申し上げますと、これは『お見合いパーティー』の代替え措置です」
親善試合後に殺到していた模擬戦に関しては、護衛さんたちの予想通り各領から精鋭が集められ、ついこの間試合をした。
勇者と対戦する権利を勝ち取ろうと、各領では熾烈な選抜試合が行われたらしい。
だからなのか、皆さんやる気十分で、そんな方々を一人で相手しないといけない俺はかなり大変だった。
大興奮する『某戦闘狂』を抑えるのも、一苦労だったし……
場所は同じ鍛練場で、観客は以前の倍くらいは居たのかな。
正体がバレたので最初から顔を出していたら、「勇者様は未成年者なのか!?」と驚かれちょっぴり傷心。
年齢を言っても、皆さん半信半疑のようだった。
しかし、お見合いに関しては、ケイトさんのおかげで話は立ち消えになったと聞いていた。
「勇者様のご事情を説明したのですが、それでも、『お見合いパーティー』を開催しないことに対して異議と唱える貴族が多少なりともおりまして、その不満を抑えるための『お披露目パーティー』でございます」
「なるほど……」
勇者と貴族の間に挟まれた宰相さんたちは、ホント大変だね。
不満はある程度は解消しておかないと、後々面倒なことになったりするもんな。
取りあえず事情は理解したけど、庶民の俺は社交マナーのスキルを一切持っていませんよ?
「それについては問題ございません。その為の、非公式開催ですから。これが、もし皇家主催の公式行事になりますと、勇者様にもマナーやダンス等々を覚えていただく必要が出てきますので」
えっ……マジですか!?
「今回は食事がメインとなりますが、立食形式ですのでご安心ください。離宮付きの侍女からは、勇者様の食事マナーに関しましては問題ないとの報告も受けております」
よかった。
堅苦しくないのが一番だし、食事のマナーに関しては、小さい頃から厳しく躾けてくれたばあちゃんのおかげだな。
「これが終わりましたら、サカイ殿のご希望に添えるよう私が皇帝陛下へ進言いたしますので、何卒よろしくお願いいたします」
「わかりました」
こうして、俺は参加を了承する。
お披露目パーティーの会場は、帝都郊外にある宮殿。
あっちの世界でいうところの、迎賓館みたいな場所らしい。
夜会になるから、その日はそこで一泊するとのこと。
アンディとトーラも、もちろん一緒だよ。
せっかく他国に来たのに、ずっと宮殿内にいるのはつまらないもんな。
≪そのような場には必ず不届き者が出て来るからな、私がしっかり目を光らせるとしよう≫
アンディ、頼むから変な『旗』を立てないでくれ。
トーラへコソコソ何かを話している息子を見やりながら、何も起きませんようにと祈る俺だった。
◇◇◇
パーティーが始まった。
貴族のような恰好をさせられた俺は、貴族の皆さんにお披露目される。
俺の隣に立って場を仕切っているのは、先日宰相さんに同行していた若い文官さん。
宰相さんのご子息で、エドワーズさんといいます。
そして、俺の傍に控えるアンディはこういう場には慣れているのか、実に堂々としている。
うん、貫禄が違うよね。
もうアンディが勇者で、俺が従者ってことでいいんじゃないかな?
模擬戦では自己紹介をしたが、あの場に居なかった人たちのためにこちらでもきちんと挨拶をする。
「初めまして。私は、サカイと言います。年齢は二十歳で、魔法使いの弟子をしています」
この国では、苗字だけを名乗ることにしている。
貴族と間違われると困るし、『カズキ』は勇者の名としてあまり周知させたくないから。
歓談の時間が始まると俺の周りに人が押し寄せてきて、収拾がつかなくなった。
エドワーズさんの判断で、急遽、別室にて個別対応をすることが決まる。
人数が多いから、持ち時間は一家族五分間と決められた。
彼らの目的は、最初からわかっている。
自分の家族(娘や姉妹)を、俺に売り込むためだ。
もうすでに相手がいる(ことになっている)俺にそんなことをする理由は、この国もライデン王国と同じで一夫多妻制だから。
第二夫人でも第三夫人でもいいから、『勇者』と縁を繋ぎたいのだという。
次から次へとやって来ては家族を俺にアピールしていく人たちを見ていると、貴族も大変なんだなと思う。
少しでも優秀な人材を取込み、家を繁栄させていかなければならない必死さが伝わってくる。
そんな中、俺の前に現れたのはある子爵家の女の子。
どう見ても、アンディと同年代にしか見えないけど……
「勇者さま、はじめまして。わたくしは……」
年齢は、やはり八歳とのこと。
ご両親は「七年後に成人いたしますので、第四夫人でも第五夫人でも!」って、正直にぶっちゃけすぎでしょう!!とツッコミを入れたくなった。
俺に必死で売り込みをかける両親とは反対に、彼女がチラチラ見ているのは隣に控えるアンディ。
「彼とお話しする?」と聞いてみたら、首を横に振って「抱っこしてもいいですか?」と言われた。
どうやら、アンディが抱っこしているトーラが気になっていたみたい。
いいよと言ったら、嬉しそうに目を輝かせた。
「うわあ! ふわふわで、いい匂いがするわ」
「毎日、(ケイトさんが)洗っているからね」
そういえば、最近トーラの顔がさらに丸くなったような気がするけど、気のせいだろうか……
⦅ホッホッホ、あれだけおやつを貰っておれば、丸くもなるわい⦆
ハハハ……ケイトさんの、猫可愛がりのせいか。
有り難いけど、トーラの体が心配だから、少しおやつは控えてもらったほうがいいのかな。
トーラを抱っこし大満足の女の子は、元気に帰っていった。
「勇者様、次で最後になります。お疲れでございましょうが、もう少しの辛抱です」
アンディ同様ずっと俺の後ろに控えるエドワーズさんが、声をかけてくれた。
彼も疲れているんだろうね。
『辛抱です』って、つい本音が漏れたみたい(笑)
最後に登場したのは見覚えのある女性だけど……誰だっけ?
⦅親善試合でおぬしと対戦した、あやつじゃ⦆
ああ、副師団長さんか!
今日は、父親と一緒のようだ。
「サカイ殿、先日は失礼いたしました。改めまして、わたくしはレイチェール・ワッツと申します」
エドワーズさんの説明によると、ワッツ家は侯爵家で、シトローム帝国で代々続く名家なのだそう。
良家のお嬢様なのにさらに副師団長の肩書って、もう最強だね。
彼女の夫になる人もそれなりの名家出身じゃないと、絶対につり合わなさそう。
「回りくどいことは無しにして、率直にお尋ねします。サカイ殿が心に決められた女性というのは、どのような方なのでしょうか?」
「えっと……」
まさか、こんな質問をされるなんて想定していなかったぞ。
でも、ここできちんと答えておかないと、嘘だと見破られるかもしれないからな。
「……彼女は、明るくて優しくて料理が上手です。芯は強いけど、たまに涙を見せることもありますね。普段は女神のように綺麗な人だけど、怒ると『般若』にもなります」
「ハンニャ……ですか?」
「そ、その、怒ると、とっても怖いってことです! 俺、彼女によく叱られますので……ハハハ」
「勇者様にお説教など、わたくしでしたらできませんわ」
「俺の正体はずっと隠していましたので、彼女が知ったのはつい最近です」
「では、求婚されたときは、お相手の方は勇者様とご存知でなかった……」
「そうですね」
「その方は『勇者』という肩書きではなく、あなたご自身を愛していらっしゃるのですね……」なんて言われたけど、ルビーは俺に対する親愛の情はあっても、恋情はないですよ…と心の中で呟いておく。
⦅おぬしは、どうなのじゃ?⦆
俺?
ルビーのことは好きだよ。
一緒にいて楽しいし、気を遣わなくていいし、言いたいことも言い合える。
でも、これはルビーと同じ親愛の情……いわゆる『友情』ってやつ。
⦅男女間の友情は、成立しないのじゃろう? おぬしが読んだ書物にも、そう書いてあったと思うが……⦆
アハハ、あれはラブコメだからな。
最終的に恋仲にならないと、読者から「詐欺だ!」と訴えられちゃう(笑)
父親からは「婚約者の方は、お師匠様の娘さんですか?」と、これまた意外な質問を受けてしまう。
「違います」と即答しちゃったけど、そういう設定にしておいたほうがよかったかもと少し後悔。
そして、終了の時間がきた。
ワッツ父娘を見送るために立ち上がったら、レイチェールさんがにこりと俺に微笑んだ。
「……わたくしは決めました。その方に勝って、サカイ殿の一番になってみせます!!」
…………え"?
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