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悲しみと憎しみ
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「父上、エレオノーラが家出したとは本当ですか!」
突然家から届いた手紙。
その内容に驚き、急ぎ仕事の都合をつけ家に向かった。
もちろん手紙の指示通り、道々エレオノーラの事を訪ねながら来たが、情報は何一つ掴めなかった。
「あの子は…エレオノーラは見つかった………」
見つかったのか、良かった!
だが何と人騒がせな妹だろう。
少し小言を言わなければ。
その後、買ってきた土産を渡し、近況でも話そうか。
だが、迎えに出てくれた父は、なぜそうも悲しそうなのだろう。
何か悪い事でもあったのだろうか。
いまだに姿を見せない母上と妹に、嫌な予感がよぎる。
「エレオノーラは、母上はどこですか?」
父上の視線の先を追い、胸騒ぎを覚えた私は、急ぎ階段を駆け上がった。
妹の部屋の扉を勢いよく開けると、ベッドには美しい布が被され、その傍らに跪いた母の姿が有った。
「とても綺麗よエレオノーラ」
布越しに話しかける母。
何故そんな事をと思うが、とにかく今はエレオノーラだ。
「母上、エレオノーラは……」
「あらシルベスタ帰っていたの?見てやってちょうだい。いつかはと思って、エレオノーラのウエディングドレス用に買っておいた布なの。とても綺麗でしょう?かなり高かったけれど買ってよかったわ」
そう微笑むも、母はなぜか、悲しそうに見える。
「母上…それは…その子はエレオノーラなのですか?」
横たわっているエレオノーラは、頭からつま先まで、すっぽりと布に覆われ、微動だにしない。
一体何が有ったのだ。
これではまるで、弔いの様では無いか………。
「いやねぇ、自分の妹なのにそんな事を言うなんて」
震える足で何とかベッドに近づき、その布を外そうと手を伸ばした。
「やめて!!」
母上は顔をゆがめ、私の手を抑える。
「母上、エレオノーラに会わせていただけないのですか?」
「ダメ!あなた達には…奇麗なままのエレオノーラだけを覚えていてほしいの…」
多分今の状態は、私の考えている通りなのだろう。
人目を憚るよう布で覆われている事は、それほど酷い有様なのだろう。
ならば父の様子も、母の言動も合点がいく。
私だって信じたくはない。
だが、エレオノーラを覆っている布を取りたくない…。
それを目にすれば、妹の死が現実の物となってしまうのだから。
だが目を背けてばかりでは、前に進めないのだ。
……いったい何が起こったのだ…誰が俺の大事な妹をこんな目に…。
「ジャクリーン、すまないがお茶を入れてくれないか?」
突然、部屋に父の声がした。
「あ…あら仕方ないわね、エレオノーラ、少し待っていてね。父様にお茶を入れた後、あなたにも持ってきてあげるから」
父は多分気をきかせてくれたのだろう。
母を伴い、下に降りて行った。
残された私はエレオノーラに掛けられた布にそっと手を掛けた。
そこには妹の変わり果てた姿があった。
「いったい……どうしてこんな事…に………」
考えをまとめようにも、悲しみが邪魔をして混乱する。
歪んだ視界に目を拭えば、大量の涙が目を覆い尽くしていた。
「エレ…エレオノーラ…一体何が有った………?」
こんな事になるのなら、家を離れず、ずっとエレオノーラを守っていればよかった……。
そう言い、後悔したところでエレオノーラが帰ってくる訳ではない。
稼ぎのいい仕事に着こうと、遠い地に行かなければよかった。
兄らしくエレオノーラの話を聞いてやりたかった。
彼女を守り、力になってやりたかった。
そんな考えはいくらでも浮かぶ。
いまさら、そんな後悔をしたところで、それが何になる、情けない。
妹の婚約、その大まかな話は聞いていた。
相手がこの国の第二王子だと聞いて、そいつには見る目が有ると感心していた。
エレオノーラは賢く美しい娘だ。
今は外見を整える事が出来ず、思った以上に残念だが、それは俺達が近くにいれない為の予防策でもあった。
俺と兄上は、いずれ家を出て、仕事をする事になっていた。
その間、可愛い妹を守れるのは父しかいない。
だがその父も、男爵としての仕事が有る。
ならば一体どうすればいいか、俺たちは考えた。
武術を習わせようとも思ったが、俺たちが稽古をつけてやろうにも時間がない。
それならばどうすればいいのか…解決策も思いつかないまま、やがて俺たちは家を出た。
そして稼いだ金を、少しでも足しになるよう家に送り始めた。
最初は微々たるものだったが、出世し、かなりの額を稼ぐようになると、当然仕送りの額も以前より多くなる。
だがそれは父から断られた。
「お前たちが送ってくれる金はすごく助かっているよ。ありがとう。だがそんな大金は要らない。それは貯めておいて、自分の将来のために役立てなさい」
そう言われても今送っている金だけでは、実家はかつかつの生活しかできないはずだ。
それではゆとりも持てないし、年頃のエレオノーラの身を飾る事も出来ない。
「父上があまり金を受けっとってくれないのだが、何とかならなかな」
兄上にも相談したが、どうやら兄上も同じように思案していたようだ。
「いや待て、もしかすると……これはこのままの方が良いかもしれない」
「何故だ?」
家族に楽をしてもらいたいのは、当たり前の事だろう。
それなのになぜ…。
「エレオノーラもそろそろ可愛くなる年だ。いや、あの子は幼少のころから可愛いが。しかし一応我が家も貴族、その名を利用しようとする輩のターゲットとなるのはエレオノーラだ」
「そうだよ!」
我々は、エレオノーラが無事で暮らせるよう、考えなければいけなかったのだ。
「今は借金まみれで、ドレスすら買えない状態だが、俺たちが金を送る事で、それが改善してみろ、敬遠していたハイエナどもが、たちまち群がってくる」
「ならば今は我慢していただき、俺たちが帰れる時になったなら、一気にそれを覆せばいい」
「あぁ、愉快だろうな。ボロボロだった屋敷が立派な建物となり、母上もエレオノーラもすごく美しくなって、領地も豊かになり、それから…」
「エレオノーラを思いっきり甘やかせてやれる」
「あぁ、楽しみだ!」
そんな夢を持たなければよかった。
ここに残っていたなら、こんな事にはならなかったのに。
だが何故だ。
エレオノーラは第2皇子と婚約をし、幸せの絶頂のはずなのに、どうしてこうなったのだ………。
疑問が湯水のごとく湧き上がってくる。
俺は、母が泣き疲れて眠った後、父を呼び止め食堂で詳細を聞いているところだ。
「つまり、エレオノーラ死に関しては、直接アレクシス様は関わっていない」
「だがエレオノーラが家を出た原因はアレクシス様のせいではないですか!?そのためエレオノーラは火事に巻き込まれ命を落とす事になったのです!」
父は私の言葉を、王族に対する不敬だと諫める事はしなかった。
つまり父も心の底では、俺と同じ気持ちを持っているはずだ。
「それでその女はどうしたんですか」
「女ではなく、コリアンヌ姫だ」
「そんな奴は女で十分です」
「まあ…な、だがアレクシス様はエレオノーラの事を聞き、彼女を放置したまま我が家に駆け付けてくれたのだ。一応敬意を持ってくれたのだろう」
父がその後に聞いた話によれば、コリアンヌ姫は殿下がサバストに向かった後も、数日城に留まったらしいが、退屈したと言い残しエルトランジェに帰ったようだ。帰りがけ、そんな下賤な女のために行動なさるとは、やはりアレクシス様は誠実でお優しい方なのですね、私はいつまでもお待ちしております、と言い残したらしい……。
「あいつらに必ず復讐してやる……」
突然家から届いた手紙。
その内容に驚き、急ぎ仕事の都合をつけ家に向かった。
もちろん手紙の指示通り、道々エレオノーラの事を訪ねながら来たが、情報は何一つ掴めなかった。
「あの子は…エレオノーラは見つかった………」
見つかったのか、良かった!
だが何と人騒がせな妹だろう。
少し小言を言わなければ。
その後、買ってきた土産を渡し、近況でも話そうか。
だが、迎えに出てくれた父は、なぜそうも悲しそうなのだろう。
何か悪い事でもあったのだろうか。
いまだに姿を見せない母上と妹に、嫌な予感がよぎる。
「エレオノーラは、母上はどこですか?」
父上の視線の先を追い、胸騒ぎを覚えた私は、急ぎ階段を駆け上がった。
妹の部屋の扉を勢いよく開けると、ベッドには美しい布が被され、その傍らに跪いた母の姿が有った。
「とても綺麗よエレオノーラ」
布越しに話しかける母。
何故そんな事をと思うが、とにかく今はエレオノーラだ。
「母上、エレオノーラは……」
「あらシルベスタ帰っていたの?見てやってちょうだい。いつかはと思って、エレオノーラのウエディングドレス用に買っておいた布なの。とても綺麗でしょう?かなり高かったけれど買ってよかったわ」
そう微笑むも、母はなぜか、悲しそうに見える。
「母上…それは…その子はエレオノーラなのですか?」
横たわっているエレオノーラは、頭からつま先まで、すっぽりと布に覆われ、微動だにしない。
一体何が有ったのだ。
これではまるで、弔いの様では無いか………。
「いやねぇ、自分の妹なのにそんな事を言うなんて」
震える足で何とかベッドに近づき、その布を外そうと手を伸ばした。
「やめて!!」
母上は顔をゆがめ、私の手を抑える。
「母上、エレオノーラに会わせていただけないのですか?」
「ダメ!あなた達には…奇麗なままのエレオノーラだけを覚えていてほしいの…」
多分今の状態は、私の考えている通りなのだろう。
人目を憚るよう布で覆われている事は、それほど酷い有様なのだろう。
ならば父の様子も、母の言動も合点がいく。
私だって信じたくはない。
だが、エレオノーラを覆っている布を取りたくない…。
それを目にすれば、妹の死が現実の物となってしまうのだから。
だが目を背けてばかりでは、前に進めないのだ。
……いったい何が起こったのだ…誰が俺の大事な妹をこんな目に…。
「ジャクリーン、すまないがお茶を入れてくれないか?」
突然、部屋に父の声がした。
「あ…あら仕方ないわね、エレオノーラ、少し待っていてね。父様にお茶を入れた後、あなたにも持ってきてあげるから」
父は多分気をきかせてくれたのだろう。
母を伴い、下に降りて行った。
残された私はエレオノーラに掛けられた布にそっと手を掛けた。
そこには妹の変わり果てた姿があった。
「いったい……どうしてこんな事…に………」
考えをまとめようにも、悲しみが邪魔をして混乱する。
歪んだ視界に目を拭えば、大量の涙が目を覆い尽くしていた。
「エレ…エレオノーラ…一体何が有った………?」
こんな事になるのなら、家を離れず、ずっとエレオノーラを守っていればよかった……。
そう言い、後悔したところでエレオノーラが帰ってくる訳ではない。
稼ぎのいい仕事に着こうと、遠い地に行かなければよかった。
兄らしくエレオノーラの話を聞いてやりたかった。
彼女を守り、力になってやりたかった。
そんな考えはいくらでも浮かぶ。
いまさら、そんな後悔をしたところで、それが何になる、情けない。
妹の婚約、その大まかな話は聞いていた。
相手がこの国の第二王子だと聞いて、そいつには見る目が有ると感心していた。
エレオノーラは賢く美しい娘だ。
今は外見を整える事が出来ず、思った以上に残念だが、それは俺達が近くにいれない為の予防策でもあった。
俺と兄上は、いずれ家を出て、仕事をする事になっていた。
その間、可愛い妹を守れるのは父しかいない。
だがその父も、男爵としての仕事が有る。
ならば一体どうすればいいか、俺たちは考えた。
武術を習わせようとも思ったが、俺たちが稽古をつけてやろうにも時間がない。
それならばどうすればいいのか…解決策も思いつかないまま、やがて俺たちは家を出た。
そして稼いだ金を、少しでも足しになるよう家に送り始めた。
最初は微々たるものだったが、出世し、かなりの額を稼ぐようになると、当然仕送りの額も以前より多くなる。
だがそれは父から断られた。
「お前たちが送ってくれる金はすごく助かっているよ。ありがとう。だがそんな大金は要らない。それは貯めておいて、自分の将来のために役立てなさい」
そう言われても今送っている金だけでは、実家はかつかつの生活しかできないはずだ。
それではゆとりも持てないし、年頃のエレオノーラの身を飾る事も出来ない。
「父上があまり金を受けっとってくれないのだが、何とかならなかな」
兄上にも相談したが、どうやら兄上も同じように思案していたようだ。
「いや待て、もしかすると……これはこのままの方が良いかもしれない」
「何故だ?」
家族に楽をしてもらいたいのは、当たり前の事だろう。
それなのになぜ…。
「エレオノーラもそろそろ可愛くなる年だ。いや、あの子は幼少のころから可愛いが。しかし一応我が家も貴族、その名を利用しようとする輩のターゲットとなるのはエレオノーラだ」
「そうだよ!」
我々は、エレオノーラが無事で暮らせるよう、考えなければいけなかったのだ。
「今は借金まみれで、ドレスすら買えない状態だが、俺たちが金を送る事で、それが改善してみろ、敬遠していたハイエナどもが、たちまち群がってくる」
「ならば今は我慢していただき、俺たちが帰れる時になったなら、一気にそれを覆せばいい」
「あぁ、愉快だろうな。ボロボロだった屋敷が立派な建物となり、母上もエレオノーラもすごく美しくなって、領地も豊かになり、それから…」
「エレオノーラを思いっきり甘やかせてやれる」
「あぁ、楽しみだ!」
そんな夢を持たなければよかった。
ここに残っていたなら、こんな事にはならなかったのに。
だが何故だ。
エレオノーラは第2皇子と婚約をし、幸せの絶頂のはずなのに、どうしてこうなったのだ………。
疑問が湯水のごとく湧き上がってくる。
俺は、母が泣き疲れて眠った後、父を呼び止め食堂で詳細を聞いているところだ。
「つまり、エレオノーラ死に関しては、直接アレクシス様は関わっていない」
「だがエレオノーラが家を出た原因はアレクシス様のせいではないですか!?そのためエレオノーラは火事に巻き込まれ命を落とす事になったのです!」
父は私の言葉を、王族に対する不敬だと諫める事はしなかった。
つまり父も心の底では、俺と同じ気持ちを持っているはずだ。
「それでその女はどうしたんですか」
「女ではなく、コリアンヌ姫だ」
「そんな奴は女で十分です」
「まあ…な、だがアレクシス様はエレオノーラの事を聞き、彼女を放置したまま我が家に駆け付けてくれたのだ。一応敬意を持ってくれたのだろう」
父がその後に聞いた話によれば、コリアンヌ姫は殿下がサバストに向かった後も、数日城に留まったらしいが、退屈したと言い残しエルトランジェに帰ったようだ。帰りがけ、そんな下賤な女のために行動なさるとは、やはりアレクシス様は誠実でお優しい方なのですね、私はいつまでもお待ちしております、と言い残したらしい……。
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