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思いがけない話
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『先日のサバストの火災現場から発見された性別不明の焼死体の一人の身元が判明しました。被害者の氏名はエレオノーラ・ガルティア嬢(15)です。』
突然、ミオーレの宿のティブ(広報用魔道具)から聞こえたその名には覚えがあった。
へえ、同姓同名っているもんだな、そう思い私はティブ(広報用魔道具)に目を向ける。
そしてそこに映し出された顔にも覚えがあった。
何故に私の顔がそこに有る……。
「同姓同名の上にそっくりさんか…………」
いやごめん、分かっているとも。
今の言葉は自分に対する現実逃避です。
現在、私エレオノーラは絶賛家出中である。
家を出てから一月弱?、そろそろ里心が付いてきました。
でもサバスト?
確かにサバトスには行ったよ。
あれは確か5日前、あの時は豪雨で2泊したっけな。
で、1日中、宿でごろごろするしかなかったから、次の日は朝早く宿を発ったのだ。
火事が有ったのはその日の昼過ぎだと言うから、その人は絶対に私では無い!
現に、私エレオノーラはここでこうして生きてここにいる…よね?
決して自分はお化けじゃないと思う。
『エレオノーラ様は、ガルティア男爵様の長女であり、先日グランタール王家の第二皇子であるアレクシス様との婚約が調ったばかりでした。そのため両家の悲しみは計り知れず…………』
「あっれ~?それなら私との婚約が、まだ破談になっていないと言う事か…それとも公になっていないだけなのかな?」
多分あちらさんとしても、私がいなくなってから、すぐにコリアンヌ様と婚約するのは体裁が悪いのだろう。
王室のイメージダウンに繋がりかねないものね。
申し訳ないですコリアンヌ様。
アレクシス様との結婚は、もう少しお待ち下さい。
「でも、こうなったのは絶好のチャンス!私が死んだとなれば、確実に破断確定!私はしばらく息をひそめて、隠れているだけで全てが丸く収まるの!」
自由よ自由!私は自由なのよ~~。
「あ…あれ………?」
何か忘れている気がする。
私……家に帰っていいの?
それに私だとされている人は、実際亡くなっているのだ。
ならばそれは誰なの?
遺体が性別不明と言うなら、損傷もかなり酷いのだろう。
ティーヴで私が死んだことが広がれば、当然家族にも伝わる(と思う…なんせ、うちはティーヴが無いし、町の皆は私達を、まさか男爵だとは思っていないだろうから、知らせる人もいないだろう)
でも、私が死んだと知った父様たちは、サバストまで迎えに来てくれるだろう。
そして私の死を物凄く悲しんで、手厚く弔ってくれるはず。
だがそれは私では無いのだ。
たとえ私の家族が悲しんでくれても、それは私に向けたもの。
サバストで亡くなった人に向けたものではない。
ならばその亡くなった人自身に向ける思いは?
本当に死んでしまった人に向ける悲しみは誰がするの?
と言う訳で、私は再びサバストに向かっている。
資金が底をつき始めているため、移動手段は徒歩かヒッチハイク。
サバストからミオーレに行った時は、乗合馬車を使ったから、おおよそ4日ほどで到着したけど、今回はそう早くは行けないだろう。
それは百も承知だけれど、だからと言ってサバスト行きをやめる訳にはいかない。
今私は、運よくヒッチハイクに成功し、牛車の荷台に寝転んでいる。
で、農家のおじさんと世間話の真っ最中だ。
いや~、空は青いし、空気は美味しいし。
のんびりとして、いいもんだね。
「姉ちゃんは、どこまで行くんだ?」
「サバストまで」
「ほうサバストかい、ずいぶん遠くに行くんだな」
「うん、だからおじさんに乗せてもらえて助かったわ」
おじさんはダッドの街に買い物に行くそうで、たいして乗せてやれないなと、申し訳なさそうに言う。
いや、ダッドの町までおよそ半日。
牛歩とはいえ、そんなに乗せてもらえて助かります。
「そう言やぁ、あそこで大きな火事があって、大勢死んだと聞いたが………もしかして」
「ええ…、私…」
関係は何て言えばいいんだ?
まあいいか。
「火事に巻き込まれたかもしれないの。だからそれが本当か確かめたくて、サバストに向かっているの」
「そうか……それは辛いだろうなあ。それを確かめるために、たった一人でサバストへ……なんと不憫な……」
おじさんは俯き、そっと涙をぬぐっているように見える。
おじさん、絶対に何か勘違いをしてるよ?
無くなったのは家族でもないし、私本人でもない……まあいいや。
ダッドの町に着き、おじさんは偶然知り合いに会ったらしく、途中までその人の馬車に乗れるように頼んでくれた。
別れ際、おじさんは私の手にそっと1000ゼラを握らせた。
おじさんだって余裕が有る訳じゃないだろうに、見ず知らずの私に、こんな事をしなくてもいいのに……。
有りがたく頂いておきます!
そしてミオーレを出てから9日、ようやくサバストに着きました。
行きは4日、帰りは9日。
帰りは歩きが多かったからなぁ、いやあ文明の利器(馬車)の威力を思い知らされるわ。
サバストに到着した時、日は高い所にあった。
まだまだ活動できる時間だ。
ならば聞き込みに行こう。
一度来た事があるとはいえ、あの日着いたのは夜だったものね。
次の日は宿に引き籠ったし、その次の日の早朝にサバストを出たのだ。
初めて来た場所と、そう変わらない。
「よし、適当に始めるか!」
最初はこの町のメインストリートと思われる所から。
人が多く、店や屋台が連なる道沿いからだ。
「すいません、劇場の火事で亡くなったエレオノーラと言う人の事を知りませんか?」
「さあねぇ、観劇に来ていた人は、ほとんどが観光客か他の町から来た偉い人ばかりだからね、あたしゃ知らないねぇ」
露店を3つほどアタックしてみたけれど、返ってくる言葉はほぼ同じだった。
でも4軒目の古着屋のおばさんがいい事を教えてくれた。
「この町の住人じゃ無い人の事は、よく分からないねぇ。でもこの町の役所に行ってごらん。多分あそこが詰め所になってるはずさ。そのエレオノーラさんの事も分かるかもしれないよ」
「えっ!本当に!?分かった行ってみるわ。ありがとうおばさん!」
「ああ、役所はそこの角を曲がった先の突き当りだ。気を付けてお行き」
何て親切な人だろう。
私は何度も手を振り、役所に向かった。
突然、ミオーレの宿のティブ(広報用魔道具)から聞こえたその名には覚えがあった。
へえ、同姓同名っているもんだな、そう思い私はティブ(広報用魔道具)に目を向ける。
そしてそこに映し出された顔にも覚えがあった。
何故に私の顔がそこに有る……。
「同姓同名の上にそっくりさんか…………」
いやごめん、分かっているとも。
今の言葉は自分に対する現実逃避です。
現在、私エレオノーラは絶賛家出中である。
家を出てから一月弱?、そろそろ里心が付いてきました。
でもサバスト?
確かにサバトスには行ったよ。
あれは確か5日前、あの時は豪雨で2泊したっけな。
で、1日中、宿でごろごろするしかなかったから、次の日は朝早く宿を発ったのだ。
火事が有ったのはその日の昼過ぎだと言うから、その人は絶対に私では無い!
現に、私エレオノーラはここでこうして生きてここにいる…よね?
決して自分はお化けじゃないと思う。
『エレオノーラ様は、ガルティア男爵様の長女であり、先日グランタール王家の第二皇子であるアレクシス様との婚約が調ったばかりでした。そのため両家の悲しみは計り知れず…………』
「あっれ~?それなら私との婚約が、まだ破談になっていないと言う事か…それとも公になっていないだけなのかな?」
多分あちらさんとしても、私がいなくなってから、すぐにコリアンヌ様と婚約するのは体裁が悪いのだろう。
王室のイメージダウンに繋がりかねないものね。
申し訳ないですコリアンヌ様。
アレクシス様との結婚は、もう少しお待ち下さい。
「でも、こうなったのは絶好のチャンス!私が死んだとなれば、確実に破断確定!私はしばらく息をひそめて、隠れているだけで全てが丸く収まるの!」
自由よ自由!私は自由なのよ~~。
「あ…あれ………?」
何か忘れている気がする。
私……家に帰っていいの?
それに私だとされている人は、実際亡くなっているのだ。
ならばそれは誰なの?
遺体が性別不明と言うなら、損傷もかなり酷いのだろう。
ティーヴで私が死んだことが広がれば、当然家族にも伝わる(と思う…なんせ、うちはティーヴが無いし、町の皆は私達を、まさか男爵だとは思っていないだろうから、知らせる人もいないだろう)
でも、私が死んだと知った父様たちは、サバストまで迎えに来てくれるだろう。
そして私の死を物凄く悲しんで、手厚く弔ってくれるはず。
だがそれは私では無いのだ。
たとえ私の家族が悲しんでくれても、それは私に向けたもの。
サバストで亡くなった人に向けたものではない。
ならばその亡くなった人自身に向ける思いは?
本当に死んでしまった人に向ける悲しみは誰がするの?
と言う訳で、私は再びサバストに向かっている。
資金が底をつき始めているため、移動手段は徒歩かヒッチハイク。
サバストからミオーレに行った時は、乗合馬車を使ったから、おおよそ4日ほどで到着したけど、今回はそう早くは行けないだろう。
それは百も承知だけれど、だからと言ってサバスト行きをやめる訳にはいかない。
今私は、運よくヒッチハイクに成功し、牛車の荷台に寝転んでいる。
で、農家のおじさんと世間話の真っ最中だ。
いや~、空は青いし、空気は美味しいし。
のんびりとして、いいもんだね。
「姉ちゃんは、どこまで行くんだ?」
「サバストまで」
「ほうサバストかい、ずいぶん遠くに行くんだな」
「うん、だからおじさんに乗せてもらえて助かったわ」
おじさんはダッドの街に買い物に行くそうで、たいして乗せてやれないなと、申し訳なさそうに言う。
いや、ダッドの町までおよそ半日。
牛歩とはいえ、そんなに乗せてもらえて助かります。
「そう言やぁ、あそこで大きな火事があって、大勢死んだと聞いたが………もしかして」
「ええ…、私…」
関係は何て言えばいいんだ?
まあいいか。
「火事に巻き込まれたかもしれないの。だからそれが本当か確かめたくて、サバストに向かっているの」
「そうか……それは辛いだろうなあ。それを確かめるために、たった一人でサバストへ……なんと不憫な……」
おじさんは俯き、そっと涙をぬぐっているように見える。
おじさん、絶対に何か勘違いをしてるよ?
無くなったのは家族でもないし、私本人でもない……まあいいや。
ダッドの町に着き、おじさんは偶然知り合いに会ったらしく、途中までその人の馬車に乗れるように頼んでくれた。
別れ際、おじさんは私の手にそっと1000ゼラを握らせた。
おじさんだって余裕が有る訳じゃないだろうに、見ず知らずの私に、こんな事をしなくてもいいのに……。
有りがたく頂いておきます!
そしてミオーレを出てから9日、ようやくサバストに着きました。
行きは4日、帰りは9日。
帰りは歩きが多かったからなぁ、いやあ文明の利器(馬車)の威力を思い知らされるわ。
サバストに到着した時、日は高い所にあった。
まだまだ活動できる時間だ。
ならば聞き込みに行こう。
一度来た事があるとはいえ、あの日着いたのは夜だったものね。
次の日は宿に引き籠ったし、その次の日の早朝にサバストを出たのだ。
初めて来た場所と、そう変わらない。
「よし、適当に始めるか!」
最初はこの町のメインストリートと思われる所から。
人が多く、店や屋台が連なる道沿いからだ。
「すいません、劇場の火事で亡くなったエレオノーラと言う人の事を知りませんか?」
「さあねぇ、観劇に来ていた人は、ほとんどが観光客か他の町から来た偉い人ばかりだからね、あたしゃ知らないねぇ」
露店を3つほどアタックしてみたけれど、返ってくる言葉はほぼ同じだった。
でも4軒目の古着屋のおばさんがいい事を教えてくれた。
「この町の住人じゃ無い人の事は、よく分からないねぇ。でもこの町の役所に行ってごらん。多分あそこが詰め所になってるはずさ。そのエレオノーラさんの事も分かるかもしれないよ」
「えっ!本当に!?分かった行ってみるわ。ありがとうおばさん!」
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