底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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友達とサヨナラ

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『……きて…、ねえ起きてよ、エレオノーラ』

んん?誰……?私まだ眠いのよ………。

『起きてよ、お願い』

「もう朝?分かったわよ、起きる、今起きるから……。」

何とか瞼をこじ開け、私はのっそりと起き上がった。

「ええっと、霧かな……?」

周りは真っ白い靄に覆われている。
野宿した翌朝、周りが霧で真っ白だったって、たまに有ったよね。

『ようやく起きた』
「ひっ!」

目の前には、ぼんやりとした物が動いている。
お化け、魔物、化け物!?

『エレオノーラ、それって酷くない?』

聞き覚えのある声、誰だっけ……?

「すいません、どちら様でしたっけ」

そう言われても霧に包まれていて、私を覗き込んでいる相手の顔が判別できない。

『二晩も一緒に寝たのにぃ。あれからまだロクに日も経っていないんだよ、もうあたしの事は忘れちゃったの?寂しいなぁ』

ほやぁ?
一緒に寝ただぁ~?
私落ち着け、落ち着いてよく推理しろ。
そして、あたりはだんだん晴れてきて、目の前のその子をじっと見つめ、ようやく気が付いた。

「もしかしてミシェル…!?」
『良かった、覚えていてくれた』
「どしたの?確か旅をするって言っていたよね」
『うん、でも今はひと休み中さ』
「そっか、疲れちゃったの?そういう時は休んだ方がいいよ、休み休みゆっくり進みなよ」

そうじゃなくてもミシェルは…ミシェルは……?何だっけ。

「どこかの宿に逗留してるの?お金は大丈夫?私、今ちょっとお金持ちなんだ。良かったら使って……」
『大丈夫だよ。今はとってもいい人達に会って、面倒見てもらってるんだ』
「へ~良かった!」
『うん、その人達にも会えてラッキーだった。でもさ、エレオノーラ髪を切ったんだ。でもその長さにするって、ずいぶん思い切ったね』
「へへ……似合う?」

久々に会うミシェルはとても健康そうに見えた。
今はいい人の所で休んでいるんだって。
だけど、きっとまたしばらくしたら旅を続けるんだろうな。

「ミシェルまだ旅を続けるんでしょ?次はどこに行くの?」
『そうだね…海……海を見たかったな。海ってさ、いろいろな生き物がいるんでしょ?小さい物からメチャクチャ大きい奴まで、それと水がしょっぱいんだって?それから…すごく広い。でもそんなに広い海のすべてが全部しょっぱいってすごいよね』
「そうか、そうだよね。すごいよね!塩取り放題だね」
『やっぱり1度は見たかったなぁ』

なんだかミシェルが寂しそうに見える。

「行けばいいよ、調子がよくなったら次は海!」
『んー、無理かな。行き先はもう決まっているから』
「そっか、ならそこに行って、その次に海へ行けばいいよ」
『行けるかなぁ。行けるといいなぁ』
「行けるよ絶対に。そうだ、二人で行こうか。私もミシェルと一緒に行くよ」

途端にミシェルの顔が険しくなった。

『だめだよ!絶対にダメ!エレオノーラは私と来ちゃだめだからね!!』
「わ、分かったよ。行かないって。そんなに怒らなくてもいいじゃない……」

いつもニコニコ笑っていたミシェルが、ただ旅の話をしただけなのに、メチャクチャ怒こっている気がする。

『ごめんエレオノーラ。じゃあね、そろそろ私帰るわ』
「帰る?そのお世話になっている人の所に?」
『うん、その人達ね、あたしの事、娘の様に大事にしてくれるんだよ』
「そうか、ミシェルを大事にしてくれる人が出来てよかった。仮にでもミシェルが帰る場所が出来てよかった」
『うん、ありがとう。じゃね』
「じゃあね、またね。」

ミシェルは私に背を向け歩き出すけど、いきなり止まり、振り向いた。

『あっ、そうだ。あんたの事情も分かるけど、なるべく早く家族の所に帰ってあげなよ。あんたもそれなりに大変だろうけど、心配している人も凄くしんどいんだから。それとあの人が、壊れて元に戻らなくなっちゃう前に会った方がいいよ。それと……あたしと友達になってくれてありがとう』

こちらこそだよ。
でも、壊れるって誰よそれ、何の事?あなたの言葉の意味が分からないんですけれど。

『じゃ、本当にさよなら、またいつかね』
「ん、またいつか、絶対に会おうね……」

そしてだんだん薄れていくミシェルの姿…………。



………い、お……だいじょ…か!

うるさい!私は今感傷に浸っている最中なんだって。
空気読んでよ。

しっかり………め…あけ……くれ。

ミシェルが行っちゃうの、別れぐらいちゃんとさせてよ!

「頼む!行かないでくれ!目を開けるんだ!!」

「グッ!ゴホッ!ゴホゴホッヴゥーーー」

何かが肺を圧迫し、気持ちの悪さが胃に込み上げてくる。
何かが気管支を塞いでいたのか、息をするのもままならない。
く、苦しい!なっ何なの、一体誰よ!私に何したの!!

「よ、良かった!戻って来てくれた…」

その声と共にいきなり誰かに抱きしめられた。
やめて!私、吐いたたから、汚いから、お願い離れて。
私を抱きしめる人を押しやろうと、咳をしながら盲滅法暴れまくる。

「大丈夫だ!もう大丈夫だから、いい子だから落ち着くんだ……」

声は優しいけど、腕は全然緩まない。
もういいや、後で謝ろう……。

「ゴホッ…ゴホ、ゴホ………」
「ああ良かった……暫く辛いだろうが、ゆっくり息を整えるんだ」

その人は私を膝に乗せ、背中をそっと摩っている。

「ジョ、ジョ…ンさん?」
「ああ、落ち着いたか?」

どうしてこういう状況になっているんだ?

……………………………。

「私が川に落ちて……ジョンさんが助けてくれた?」

記憶を整理するとそうなるな。
でも確か、大事な人に会った気がするんだ……

「そうだぞ、お前を見つけたお頭は、あの川にいきなり飛び込んだんだ。俺たちが止めるのを無視してな」
「それも命綱も付けずにだぞ、いやぁ肝を冷やしたわ」
「それとなアジトで、お前がいないと騒いだあのお頭の様子と来たら」
「あの形相は鬼だな鬼!」
「しかしお頭、よくこいつのいる所が分かったな、やっぱりあれか、野生の感ってやつか」

私が何も言わずに出た事で、皆さんにかなり迷惑を掛けちゃったんだ。

「うるさいぞお前ら!とにかく急いでアジトに戻るぞ」

そう言うとジョンさんは、私を抱いたまま立ち上がる。

「…軽いな……」

ガリガリで悪うございましたね。
ジョンさん達は馬で来ていたらしく、私を馬の上に押し上げ、その後ろに跨った。



「今、湯を沸かしている。お前は風邪をひくからさっさとその濡れた服を脱ぐんだ」

ジョンさんはそう言いながら、何の躊躇いもなく自分の服を脱ぎ捨てていく。

「嫌です!」

この男は何を言っているんだ!こんななりをしてはいるが、一応私は女だぞ。
プライドぐらい持たせてくれ。
いや…、多分ジョンさんは、私の体を思ってやって、そう言っているのだろう。
まあ大勢の人の前で服を脱ぐより、ジョンさん一人の前で脱いだ方がいいのかもしれないが、このままだと確実に風邪をひきそうなんだが、冷たく濡れた服を着ているより、裸の方がいいのかもしれないが………仕方ない脱ぐか。
意を決してボタンに手をかけて、何の気なしにジョンさんを見れば、まだ上を脱いただけだった、セーフ。
それにしてもジョンさんの体、傷だらけだな…。

「ん、どうした。俺の体に見ほれたのか?」
「え、は…い。いえ、すごい…筋肉ですね」

傷の事を言うのはマナー違反かもしれない。

「そうだろう?まぁお前もいずれ、俺の様に立派な体になるさ」

立派な体?
肉が付くのはいいけれど、付き過ぎは嫌だな。
それとも貧相な体を鍛えて、筋肉を付け方がいいと思われているのかな?
でも、筋肉が付いた方が、力仕事するにはいいかもしれない。

「クチュン」
「ああ、ほら風邪をひくじゃないか、さっさと脱げよ」

自分だって濡れたズボンはいてるじゃないですか。
いえ、出来ればそれは、脱がないで下さい。

「何だぁ、もしかして服が貼り付いて脱げないのか?いや、寒すぎて指が悴んだか。仕方がない奴だな、俺が脱がしてやるよ」

いえ、お手を煩わせずとも自分で何とか出来ますから。
出来れば私から目を外していただけたら幸いですうぅぅ。

「ほらほら、こんなに冷えて、仕方がない奴だな」
「や、やめて、脱げます!自分で脱げますから!」
「だがグズグズしてると風邪をひいちまうぞ、遠慮するな」

キャアァーーー。
しかしジョンさんに抗っても力の差は歴然。
あっという間に着ていたシャツを引っぺがされました。
残されたのは、木綿の簡単なシャツが1枚、体に張り付いているだけ。

「へー」

へっ?

「お前ガリガリかと思ったけれどさ、意外と筋肉ついてるんだな」
「きん…にく?」

今の私、筋肉付いてるのか?最近は健康的な生活をしてきたから付いたのかな?
そう思って自分の体を見下ろした。
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