底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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プレゼント

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「例えお前が首を縦に振らなくとも、俺はお前についていく。お前を危険な目に会わせたくないんだ。せめてバスクまでは守らせてくれ」
「お頭、そんな事を言っても、きっとバスクに着いても、陰ながらエルさんを守るんでしょう?」

こらこらルーベンスさん、そう言うのは私やジョンさんに聞こえないように言うものですよ?

「俺はバスクまでエルを守り、そのあと新しい職を見つけようと思う。エルの望み通り、心を入れ替え真っ当な職に就こう」
「お頭、エルさんの書置きが、よっぽど身に染みたんですね」
「ふむふむ。エルさんに嫌われたくないから、こんなやくざな商売から足を洗いたい訳だ」
「いやん、お頭ったら純情さん」
「しかし、エルの姉御の影響は絶大ですね」
「エルの姉御は真っ当な人間だから、半端な事では認めてもらえませんぜ」

そろそろ口を閉じないと、後で蹴り入れますよ。
多分、屁でもないでしょうけど。

「でもお頭、真っ当な商売って、何をするんですか?俺達みたいな盗賊もどきが、どんな仕事に就けるんです?」

俺達?なんか引っかかるキーワードだ。

「その気になれば何だって出来るだろう。普通の人間がやっている事をするまでだ。今までの経験を活かすなら、傭兵でもいいし用心棒でもいい。」
「いっそご実家を頼ったらどうです?」
「それは死んでも嫌だ」

そうか、一応ジョンさんには実家があるんだ。

「とにかくバスクに着いた後の事は、あちらで考える。だが年を越せばここも雪に閉ざされてしまうから、その前にエルとここを発とうと思うんだ。お前ら、悪いがそういう事だ。本当に申し訳ない」

って、決定事項?私まだOK出してませんけれど。

「さあもう寝るか。明日は万聖節だ。お前らとは最後の祭りだな」

万聖節。
聖なるお方が生まれたとされる日。
その日は皆で無礼講、飲めや騒げやで大騒ぎする日。
じゃない、皆でご馳走を囲み、お祝いをする日でした。

「あ~、誕生日か…」

その言葉を発した途端、みんなの目が一斉に私に集まった。

「エル、明日はお前の誕生日なのか!?」
「はい。万聖節が誕生日なんて、覚えやすくていいでしょう?そう言えば私も明日で16歳か」

次に皆さんの目の色が変わった。

「こうしちゃいられねえ。エルさん明日は腕を振るわしてもらうぜ」

言い出しっぺは、ルーベンスさんだ。

「よし、そうと決まれば下ごしらえをしなきゃだな」

ルーベンスさんが勇んで台所に突進していく。

「花束になる花は近くに咲いていたかな?よし、ちょっと探しに行ってくるわ」

ブロワさん、今は真冬で、もう夜中ですよ。

「お頭、倉庫を漁ってもいいですか?」
「いや待て、最初は俺だ!」
「いつもほしい物は勝手に使えって言ってるじゃないですか、早い者勝ちですよね」

今から倉庫を漁って何するのかな?大掃除でもする気ですかね?

「おいサラン、料理の下ごしらえ手伝え」

ルーベンスさんが台所から顔を覗かせる。

「えー、俺、他にやらなきゃいけない事があるっす」
「いいから手伝え、エルさんに”とっても美味しい、ありがとうサランさん”って言ってもらえるかもしれないぞ」
「やらせて下さい、ぜひ!」

なんか皆さん、明日の万聖節の事ですごく張り切っているみたい。
だけど夜も更けてますので、後は明日にして、もう寝た方が良くありませんか?


みんなが忙しそうにしているのに、私だけ寝る訳にはいかないと頑張って起きていたつもりだけど、気が付いたら朝で、ベッドでぐっすり寝ていたエレオノーラです。
身支度をして部屋を出ると、なんとそこはお伽の国でした。

「ああ、お早うエル。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで。あの、これは一体…」

部屋はピカピカに磨き上げられ、壁にはキラキラのモールやら、花が飾られていて、所々に可愛い人形やカボチャのランタンが飾られている。(あちこちの陰や、目に付かない所に、空の酒瓶が転がっているのはなぜだろう)

「倉庫を漁っていたら奥の方からいろいろ出てきたんだ。いいだろう?さあ、エルも起きた事だし、お祝いを始めようか」

これはあれだな、みんな用意がてら、既に盛り上がっていたな。
しかしまだ朝です、私、起きたばかりです、ちょっと落ち着いて下さい。


先に寝ちゃって、ちょっと残念と思いながら、外の井戸で洗面を済ませる。
家の中に戻ると、ジョンさんがモジモジしながら、綺麗にラピングされた箱を私に手渡した。

「ハッピーバースデー、エル」

ああそうか、今日は万聖節であり、私の誕生日でもあったな。

「あ、ありがとうございます」

誕生日プレゼントと言われたなら、受け取るの一択だろう。
もらったプレゼントを手にし、後でゆっくり開けよう……と思っていたが、ふとジョンさんを見ると、耳が生えてシッポをパタパタさせているシェパードの幻影を見た。
なるほど、今すぐ開けて、その感謝を述べよって事ね。

仕方ない。
私はテーブルに移動し、椅子に腰かけ、もらったばかりのプレゼントを正面に据えた。
それから丁寧にそのラッピングを解く。

「ひゃあぁ……」

箱の中にはまた箱が。
それも深紅のビロード張りの箱。
まさかと思いつつそれも開ければ、予想に違わず直径1センチほどのキラキラとした青い石の指輪が入っていた。
私も今日から成人であり、装飾品の一つも持っていた方がいいかもしれないけれど、でも限度が有ります。
それにこれって、いくつかの理由で、もらっちゃダメな物だよね?

「ジョンさん、これって……」
「いやー、片付けしてたら偶然見つけたんだ。元手はタダだし、そんなに深く考えなくてもいいさ」
「いや、お返しします」

即答。
今現在、もしかすると私はまだアレクシス様の婚約者のままの可能性が……、いやそれは無いだろうけれど、とにかくこれは安易に男性から貰うべき物では無い。

「お頭がフラれた~」
「だから言ったじゃないですか、少しづつ距離を縮めてからの方がいいって」
「スケベ根性丸出し」
「いや、独占欲強すぎ~」

やっぱりただのプレゼントじゃなかったか。

「全く下心の塊ですね、それに比べてお兄さんのは純粋なお誕生日のプレゼントですよ~」

その言葉を皮切りに、私の前にはプレゼントの山が出来上がっていった。
ピンクのドレスのビスクドール、七色に輝くブローチ、七宝細工の手鏡、オルゴールが仕込まれた宝石箱、それからフリルがあしらわれた水色のリボン。
それには”早く髪を伸ばせよ”と言うカードが添えられていた。
私はそれらに感激して、皆さんにお礼を言って回った。
もちろんジョンさんにもお礼は言ったけれど、それでも肩を落とし、壁に向かい合っている。

「ジョンさん、ジョンさんの気持ちはとてもうれしいです。ありがとうございます。でもあれは受け取れないんです。だからあの指輪は、他の人にあげて下さい」

ゴージャスで、気品があって、美人で、ジョンさんと並んでも見劣りしないような人に。
しかしその言葉を聞いて、さらにジョンさんは落ち込んだみたいだ。
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