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新兵が集まったそうです
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皆さんよほどウサギのシチューが気に入ってくれたのか、私にとても良くして下さいます。
隊長も皆と同じみたいです。
「私の事は、ミラ姉様って呼んでね」
そう言われましたがお断りします。
だって、一介の男爵家の娘が、伯爵令嬢様にお姉さま呼びは出来ません!
「ヤダ~、エルちゃんにミラ姉様って呼ばれないと、ルドミラ悲しい」
「無理な物は無理です」
「エルちゃんが冷た~い。ルドミラ泣いちゃうから~」
「何と言われようが、隊長に”ミラ姉様”などとは言えません」
「それなら”お姉ちゃん”でもいいわ」
「絶対にダメです」
隊長はその一言でようやく諦めてくれたのか、今までグダグダだった居住いを正し、背筋をしゃんと伸ばして私に向き直る。
「分かりました。ではこれから言う事はお願いではなく命令です。エル、これから私の事はミラ姉様と呼びなさい」
あぁ、なるほどな……。
私の事について、皆が隊長に職権乱用とか横暴と言った訳が分かった気がした………。
「そうだエルちゃん。新兵募集の件だけど」
「はい?少しは集まったんですか?確か期限は一月でしたよね」
「そう、そうだったけれど、何か一気に集まっちゃったの。それを上層部に報告したら、さっさと帰って来いって言われちゃった。だから明日にはバスクを出るわ。承知しておいてね」
ちょっ、ちょっと待ってください!
状況が把握できません。
「あの、仕事はこのバスクでするんじゃないんですか?」
「違うわよ。看板にも書いてあったでしょ?所属先はカリオンよ」
書いて有ったっけ?
覚えてないな…。
でもカリオンか…確かシュカルフ辺境伯の領地だったよね。
あんな国の端っこに行くのね。
でもそうなると問題が起きてくる。
私は兄様の帰る半年後、またバスクに来れるのだろうか。
いや、家に帰れますか?
「隊長、あの…私はやっぱりこの仕事は」
「違うわよエルちゃん。ミラ姉様でしょ?」
「はい…ミラ姉様」
「そーれーと、いまさらこの仕事を辞めますなんて言わない、いえ、言えないわよね~」
隊長は1枚の紙を取り出し、ひらひらと私の前にひけらかす。
「あなたは既にこの小隊、つまり国と契約をしているのよ。それを反故にするなど、反逆者と取られ、莫大な違約金を取られるか、牢にぶち込まれるか。一体どうなるのかしらね?」
確かにそれは私が書きました。
お礼を言いながら喜び勇んで。
ちゃんと確認を取らなかった私も悪いです。
でも、でも隊長!それって脅迫と言いませんか!!
除隊は叶いませんでした。
でも理由を話し、半年後またこのバスクに”一時的に顔を出す”事には了承してもらえました。
隊長は不満そうだったけど。
「隊…ミラ姉様、明日出発するなら旅の間の食糧などはどうしますか?」
「まあ大抵は宿か誰かの屋敷にお邪魔するし、野宿をする時の事は、私の参謀のラスバスが考えているはずだから大丈夫。まあその時はエルちゃんにも頑張ってもらうけどね」
本領発揮ですね、お任せください。
あっそうだ。
両手をお願いポーズに組み、目をウルウルさせて、斜め45度を見上げながら……。
「ミラ姉様、エルお願いがあるんです」
「まあエルちゃんたら、このミラ姉様に何でも言ってごらんなさい?」
「あの、出発前にご挨拶しておきたい人がいるから、出かけてもいいですか?」
「ええそうね、急な出発ですもの、ちゃんとお別れをしてきなさいね」
「それと兵隊さん達が集まったと言う事は、ここに来た人たちと合わせて40人以上になりますよね。多分私一人だと、お料理とか間に合わなくなると思うのです」
ジョンさんにお世話になっていた頃は、25人ほどの食事はルーベンスさんを手伝だって作った事あるけれど、けっこう大変だった。
だから40人分を一人で作るなど無理だと思います。
「あらあら、そんな事を心配していたの?大丈夫、新しく来た野郎どもの中に、料理が出来る奴がいたの。だからそいつに飯炊きをお願いしておいたわ。だからエルちゃんは、私のお願いだけ聞いてくれればいいのよ?」
お気遣いありがとうございます隊長殿。
でもそういう事はしてはいけません。
私の雇い主、給金を出すのは国なんですから。
「そう言えばこれから一緒に行動しなくてはならないわね。エルちゃんを野郎どもに紹介しておくわ」
隊長に連れてこられたのは、台所に隣した食堂。
そこには大勢のむさ苦しい………見慣れた顔の一団が屯していた。
こちらに気が付いた面々は、それぞれ挨拶を飛ばしてくる。
「よっ!エル、元気か」
「エル久しぶりー」
「寒いなぁ、風邪ひいてないか?エル」
いやそこは、まず隊長に挨拶するのが筋でしょう。
「ようエル、3日ぶりだな。大丈夫だったか?」
飛び切り優しい目のジョンさんが話しかけてきた。
大丈夫って何が?
あぁ、実は私が女だってことですか。
大丈夫、多分バレていないと思います。
そういう気持ちを込めて、にっこりと微笑んでおく。
「お前たち、エルの知り合いか?」
「ええ隊長。ここに来る前に、川に落ちたエルをこのジョンが助けて、それからしばらく面倒を見ていたんです。それからエルは当初の目的のためにバスクに、俺たちは以前の仕事をたたんで、新しい仕事を探すためにここに来ました。短期間とはいえ、いわば同じ釜の飯を食った仲間ですね」
やっぱりビルトさんが一番頼り甲斐が有りそうです。
でも、時間軸が折れてひん曲がっていますよ。
まあ事実はそう変わっていないからいいか。
ちなみに私たちの出会いは誘拐でしたよね。
ところでジョンさん、どうして私の居場所が分かったんですか?
ふむふむなるほど、自分は私を守ると言った以上責任があると。
だからあの後も隠れて私の後をついてきたと仰るんですね。
そして私の状況を知って、自分も新兵に応募すると言ったら、皆さんもそれに乗っかったと。
良く分かりました。
おまわりさーん、ここにストーカーがいまーす!
ーーーーーーーーーーーー
(関係ない話)
ちょっと思いついちゃったんですが、例えば詠唱が必要な魔法って、早く唱えられれば有利ですよね?ではもし詠唱のみの魔法大会が有ったなら、下手な被害が出ないよう、早口言葉で勝負も有りでしょうか。青巻紙、赤巻紙、黄巻紙×3とか。無しですか?いや、ただの独り言です……。
隊長も皆と同じみたいです。
「私の事は、ミラ姉様って呼んでね」
そう言われましたがお断りします。
だって、一介の男爵家の娘が、伯爵令嬢様にお姉さま呼びは出来ません!
「ヤダ~、エルちゃんにミラ姉様って呼ばれないと、ルドミラ悲しい」
「無理な物は無理です」
「エルちゃんが冷た~い。ルドミラ泣いちゃうから~」
「何と言われようが、隊長に”ミラ姉様”などとは言えません」
「それなら”お姉ちゃん”でもいいわ」
「絶対にダメです」
隊長はその一言でようやく諦めてくれたのか、今までグダグダだった居住いを正し、背筋をしゃんと伸ばして私に向き直る。
「分かりました。ではこれから言う事はお願いではなく命令です。エル、これから私の事はミラ姉様と呼びなさい」
あぁ、なるほどな……。
私の事について、皆が隊長に職権乱用とか横暴と言った訳が分かった気がした………。
「そうだエルちゃん。新兵募集の件だけど」
「はい?少しは集まったんですか?確か期限は一月でしたよね」
「そう、そうだったけれど、何か一気に集まっちゃったの。それを上層部に報告したら、さっさと帰って来いって言われちゃった。だから明日にはバスクを出るわ。承知しておいてね」
ちょっ、ちょっと待ってください!
状況が把握できません。
「あの、仕事はこのバスクでするんじゃないんですか?」
「違うわよ。看板にも書いてあったでしょ?所属先はカリオンよ」
書いて有ったっけ?
覚えてないな…。
でもカリオンか…確かシュカルフ辺境伯の領地だったよね。
あんな国の端っこに行くのね。
でもそうなると問題が起きてくる。
私は兄様の帰る半年後、またバスクに来れるのだろうか。
いや、家に帰れますか?
「隊長、あの…私はやっぱりこの仕事は」
「違うわよエルちゃん。ミラ姉様でしょ?」
「はい…ミラ姉様」
「そーれーと、いまさらこの仕事を辞めますなんて言わない、いえ、言えないわよね~」
隊長は1枚の紙を取り出し、ひらひらと私の前にひけらかす。
「あなたは既にこの小隊、つまり国と契約をしているのよ。それを反故にするなど、反逆者と取られ、莫大な違約金を取られるか、牢にぶち込まれるか。一体どうなるのかしらね?」
確かにそれは私が書きました。
お礼を言いながら喜び勇んで。
ちゃんと確認を取らなかった私も悪いです。
でも、でも隊長!それって脅迫と言いませんか!!
除隊は叶いませんでした。
でも理由を話し、半年後またこのバスクに”一時的に顔を出す”事には了承してもらえました。
隊長は不満そうだったけど。
「隊…ミラ姉様、明日出発するなら旅の間の食糧などはどうしますか?」
「まあ大抵は宿か誰かの屋敷にお邪魔するし、野宿をする時の事は、私の参謀のラスバスが考えているはずだから大丈夫。まあその時はエルちゃんにも頑張ってもらうけどね」
本領発揮ですね、お任せください。
あっそうだ。
両手をお願いポーズに組み、目をウルウルさせて、斜め45度を見上げながら……。
「ミラ姉様、エルお願いがあるんです」
「まあエルちゃんたら、このミラ姉様に何でも言ってごらんなさい?」
「あの、出発前にご挨拶しておきたい人がいるから、出かけてもいいですか?」
「ええそうね、急な出発ですもの、ちゃんとお別れをしてきなさいね」
「それと兵隊さん達が集まったと言う事は、ここに来た人たちと合わせて40人以上になりますよね。多分私一人だと、お料理とか間に合わなくなると思うのです」
ジョンさんにお世話になっていた頃は、25人ほどの食事はルーベンスさんを手伝だって作った事あるけれど、けっこう大変だった。
だから40人分を一人で作るなど無理だと思います。
「あらあら、そんな事を心配していたの?大丈夫、新しく来た野郎どもの中に、料理が出来る奴がいたの。だからそいつに飯炊きをお願いしておいたわ。だからエルちゃんは、私のお願いだけ聞いてくれればいいのよ?」
お気遣いありがとうございます隊長殿。
でもそういう事はしてはいけません。
私の雇い主、給金を出すのは国なんですから。
「そう言えばこれから一緒に行動しなくてはならないわね。エルちゃんを野郎どもに紹介しておくわ」
隊長に連れてこられたのは、台所に隣した食堂。
そこには大勢のむさ苦しい………見慣れた顔の一団が屯していた。
こちらに気が付いた面々は、それぞれ挨拶を飛ばしてくる。
「よっ!エル、元気か」
「エル久しぶりー」
「寒いなぁ、風邪ひいてないか?エル」
いやそこは、まず隊長に挨拶するのが筋でしょう。
「ようエル、3日ぶりだな。大丈夫だったか?」
飛び切り優しい目のジョンさんが話しかけてきた。
大丈夫って何が?
あぁ、実は私が女だってことですか。
大丈夫、多分バレていないと思います。
そういう気持ちを込めて、にっこりと微笑んでおく。
「お前たち、エルの知り合いか?」
「ええ隊長。ここに来る前に、川に落ちたエルをこのジョンが助けて、それからしばらく面倒を見ていたんです。それからエルは当初の目的のためにバスクに、俺たちは以前の仕事をたたんで、新しい仕事を探すためにここに来ました。短期間とはいえ、いわば同じ釜の飯を食った仲間ですね」
やっぱりビルトさんが一番頼り甲斐が有りそうです。
でも、時間軸が折れてひん曲がっていますよ。
まあ事実はそう変わっていないからいいか。
ちなみに私たちの出会いは誘拐でしたよね。
ところでジョンさん、どうして私の居場所が分かったんですか?
ふむふむなるほど、自分は私を守ると言った以上責任があると。
だからあの後も隠れて私の後をついてきたと仰るんですね。
そして私の状況を知って、自分も新兵に応募すると言ったら、皆さんもそれに乗っかったと。
良く分かりました。
おまわりさーん、ここにストーカーがいまーす!
ーーーーーーーーーーーー
(関係ない話)
ちょっと思いついちゃったんですが、例えば詠唱が必要な魔法って、早く唱えられれば有利ですよね?ではもし詠唱のみの魔法大会が有ったなら、下手な被害が出ないよう、早口言葉で勝負も有りでしょうか。青巻紙、赤巻紙、黄巻紙×3とか。無しですか?いや、ただの独り言です……。
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