底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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その頃………3

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バーバリアンに赴任してからかなりの時間が経った。
今では町の地理も網羅している。
朝も夜も、体を厭わず、がむしゃらに働く。

「殿下、少しお休みになってはいかがですか?このままではお体を壊してしまうでしょう」
「休む?私にはそんな資格など無いのですよ」

こんな事でもしていないと、私は自分の罪に押しつぶされてしまう。
それでも今日の仕事は無いと言われれば、自ら見付けるのみ。
今日は町の警備に歩こうか。
街の隅々に目を光らせ、そこで目に付いたドレスをエレオノーラが纏えば、どんなに美しいだろうと思い、店についふらふらと入ってしまう。

「店主、このドレスと同じものをオーダーしたい。サイズは全体的にもっと細身で、丈は…これより10センチメートルほど長く……」

などと注文を付け、買う事がたった一つの私の楽しみだ。
こんな事が何度も有り、既に衣装箱は6つほどある。
さて、これを一体どうしたものか。
彼女の家に送り届ける訳にはいかないし、いっそ燃やして、煙と共に彼女の下に送り届けようか。
その時は、私も一緒に……………。
だがその前に、彼女の未練を果たさねば。

彼女の家の爵位を上げる事を進言しているが、まだ色よい返事をもらっていない。

「何故です。金でも領土でも、私の物を全てあの家に渡します。それでも叶えていただけないのですか」
『いや、そちらの面ではないのだ。ただガルディア家が伯爵となる能力が伴っていず、それについて各家の了承が取れないのだ』

伯爵?いつ私が伯爵にとお願いしましたか。

「いつまでも放っておくならば、私も色々と考えなければいけませんね」
『お前は親を脅迫するつもりか。いや、お前の気持ちも分かるが、こればかりは、周りの貴族の了承を得なければどうにもならないのだ』
「話にならないな…。けっこう、それでは私が自分で動かせていただきます」

そう言い、コムルを切った。

「やはり人を頼る事自体が間違いだったのだ」

ここは直接、私の持つ物すべてをガルディア家に渡し、能力者を何とか用立てねばならないだろう。

「いっそ私が養子に入ろうか」

考えていると、それが一番いい方法だと思われてきた。
私が養子に入れば、あの家は侯爵の地位を手に入れ、資産もかなりの物となる。
そうだ、それがいい。
もし了承してもらえなくとも、勝手に申請をし、正式に養子になりそれから………。
まだあの家族には私の事を許してもらってはいないが、これ以上伸ばしたなら、私はいつまでたってもエレオノーラに許しを請いに行けない。
そうだ、早々に休みを申請し、トルディアを尋ねる事としよう。




「エルちゃ~~ん」

隊長の部屋の前を通りかかると、僅かに開いた扉の隙間から、白くしなやかな手が、妖気を醸しながら私をおいでおいでする。

「隊長、何か御用ですか?」
「エルちゃんが足りないの~~」

そう言って私をギュッと抱きしめる。

「ここのところ、副司令官がエルちゃんを独占しているでしょ?ルドミラ寂しくて寂しくて………」

でもジョンさん達を、生き生きと叩きのめし……しごいていたじゃありませんか。

「それはエルちゃんに会えない反動なの!ねえ、もう寝ちゃうの?少しルドミラとお茶でもしない?」
「えっ?えぇ、構いませんよ」

今日は母様たちの呼び出しも無いし、寝るにはまだ早い。
だから私は隊長の部屋にお呼ばれしました。

「ねえエルちゃん、そんなドレス姿のエルちゃん見るのは寂しいの。以前のような服を着てほしいな…」

ああ、あの隊服ですか?かまいませんよ。
そう言い、着替えに部屋に向かおうとした。

「あぁ、大丈夫よ、エルちゃんに似合いそうな服はルドミラが用意してあるから」

それって悪い予感しかしませんが…。
隣の部屋に行った隊長が、いくつもの箱を抱えて戻ってくる。

「ほらほら、見て見て~~」

ガサガサと私の前に山積みされる服、服、服。
隊長どんだけ用意したんですか。

仕方が無いので、隊長のストレス発散に付き合いますか。

「えっと、まずこのシャツとパンツ。それからこのリボンを結んで~~」

これって、以前の服とはかけ離れてますよね。

「う~ん、やっぱりエルちゃん可愛い!」

そう言い、抱き着いてきた隊長がおもむろに手を前に伸ばした。
その先にはキャメル(映像保存用装置)が…。

「隊長!それ今話題のキャメルですよね。発売されたばかりのとても高価な」
「そうなの!凄いでしょう?エルちゃんと一緒に撮りたくて買っちゃった」

てへっ。
じゃないでしょう、婚約者のシャインブルクさんと一緒に撮ってくださいよ。

「さて、次はこれよ。この若草色のシャツと、このベストのセットを着てから、このブローチを付けてね?」

まだまだ撮影会は続くようです…………。




「よっエル。久しぶりだな」

あら、ジョンさん。
別に久しぶりじゃないと思うんですけど、時々廊下ですれ違ったり、修練場で見かけたりしてましたよね。
尤も普段はドレス姿ですから、気が付いてもらっていなかったのでしょうか。

「お前隊長の弟とか、副司令官の妹とか、いろいろなうわさが有るけど、一体どっちなんだ?」

そう言い揶揄ってくるけれど、本当はだいたい想像はついているんでしょ?

「お前、色々な肩書があるならば、その中に…その、あれだ……、俺の……あの、俺の嫁ってのも加えてくれねえか?」

またまた~お得意のジョークですか。

「肩書なんて、たくさん有りすぎて、これ以上要りませんよ」
「そんなにたくさん有るのか?」
「ええ、たくさん」

ガルディア男爵家の娘で、アレクシス様の元婚約者で、副司令官の妹で、隊長の弟。
あと魔王とあだ名が付く母様の娘で、それから何かあったかな………?
ああそうだ、確かエクステット侯爵家の孫だったっけ?
後は…あれだ、ディア・アレルヤとかいう奴。
それにジョンさんの嫁が加わる?
無い無い無いわ~~。

「あっ、そう言えばジョンさん、この後お暇ですか?」
「わりい、昼飯の後、隊長のうっぷん晴らしに呼ばれてるんだ」
「そうですか……ジョンさんにはとてもお世話になったので、父様達に会ってもらおうと思って……残念です」

父様達に会ってもらって、とてもお世話になったジョンさんに、父様達からもお礼を言ってもらおうと思ったんですけれど。

「お前の親に会ってもらいたいと…!たった今暇になった!!予定なんて何にもない!是非会わせてくれ」

そうですか、良かった。
ならばさっそくと言う事で、私はジョンさんの手を取り、トルディアの家まで転移します。


「これは…一体何が有ったんだ……エルの仕業か?」
「ジョンさん、我が家にようこそ」
「はぁ?」

驚いているジョンさんの手を引き扉の呼び鈴を鳴らします。
そう言えば今日は父様って仕事だったわ。
まあいいか。

「母様!いますか?お客様ですよ」

急にどうしたの?という声と共に、パタパタと足音が聞こえます。

「母様、こちらが私のお世話になったジョンさんです!」

じゃじゃーん!

「ジョン?もしかしたあなたの胸を触ったとか、一緒にベッドで眠ったとかいうあのジョンの事?」
「はい、その通りです!」

ジョンさんは慌てふためいているけれど、そんなに遠慮しなくてもいいですよ。
お世話になったのは事実なんですから。

「そう、エレオノーラの母です。この度は娘が大変お世話になったようで………」

そう言い頭を下げるが、なぜに母様、そんなに怖い顔をなさるんですか?

「こ、こちらこそエル…エレオノーラさんには大変お世話になっております………」

ジョンさんは緊張しまくってる様子。
まるでアナコンダに睨まれているみたいですよ。

「とにかくここでは人目に付きます。どうか中にお入り下さい」
「あ、ありがとう…ございます……」


食事用のテーブル(我が家の応接セットです)に腰かけ、取り敢えず母様がお茶を入れてくれました。
とても薄くて、あまり美味しくないお茶です。
母様おまじないを失敗したみたいですね。

「で、エレオノーラからいろいろ聞いてますが、全て事実なんでしょうか」
「(コソッ)全てって、一体何を言ったんだよ」
「えっ、全てですよ。嘘は言っていないから安心してください。そう言えば母様、さっきジョンさんにプロポーズされちゃいましたぁ。もちろん冗談ですけれど」

次の瞬間、何故か室内に雷が落ち、ジョンさんを直撃しました。
あらら~、生きてますか?大丈夫ですよ。
私が元気にな~れ増し々のお茶入れてあげますからね。
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