底辺令嬢と拗らせ王子~私死んでませんけど…まあいいか

羽兎里

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自由に生きる!とは?

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ピーポーちゃん達が400㎞マラソンを終え、隣の村までしっかりした道が出来ました。
これなら兄様が呼んだ技術者達も、難なくここに辿り着く事でしょう。

「よく頑張ったね。途中で問題は起こらなかった?」
『いや、んー。まあ少しは有ったが、それほどの事じゃねえよ』

おやおや、やはり何かあったようですね。
取り敢えず、まずはリンデンさんの言っていた通り、ピーポちゃん達に掛けておいた魔法を解いておきますか。
して、何が有ったの?

『俺達の姿を見て、最初の頃、人間達は無様だ醜いと陰口を叩いていたようだが、まあこちらもこの図体だ。面と向かって俺達をあざ笑うことは無かったよ』

なるほど、畏怖の対象であるはずのドラゴンに羽根やシッポの無いのだ。
それは有り得る話だろう。
しかし我が子同然のピーポちゃん達に、村人達はそれを気取らすほどの気持ちを持ったのか。
ならば隣の村にはそれなりの加護を授けてやろうか…。

『確かに今の姿は自分でも滑稽だと思うよ。だがよ、自分達のやっている事は正しい事だと気が付いた俺達は、何を言われようと恐れる事はねえ。それに、人間達も俺達のやろうとしている事に気が付いたのか、すぐに態度が変わったよ』

まあピーポーちゃん達の通った後から緑が溢れ出し、踏みしめた跡が長く道になって行くのを目の当たりにしては、彼らが悪い者だと思う奴などいないだろうし、嘲笑していた自分達が、いかに卑しいかを思い知っただろう。

『そうそ、三往復もする頃には私達の姿を見ると、樽一杯の水を用意してくれたり、ねぎらいの言葉を掛けてくれりしたわ。水なんて、自分の分だってろくに無いくせにね』

そうプンプンしながら言うのは、きっとポッポちゃんの照れ隠しなんだろう。
うん、何て健気で可愛い子だろう。
お母ちゃん嬉しいよ。
よし、さっそくご褒美だ。
そう思い両手を組んで羽根や尾の治療を………あ……………。

「ごめんピーちゃん、ポッポちゃん。すぐに元の姿に戻してあげたいけれど、今やるとまた魔力切れ起こしそうだから、もう少し待ってね」
『俺達はまだ大丈夫だから、そう気にするなよ』
『そうよ、それとダーリンとも話したんだけど、私達を元に戻しても契約を解除しようなんて思わないでよね。そんな事をしたら一生あんたのストーカーしてやるんだから』

それは困るなぁ、あははは………、可愛い奴らじゃ。
この短期間で、この子達ってばずいぶんいい子になったな。



結局それから三日後ポッポちゃんを、間を一週間ほど開けピーちゃんを治療した。
もちろん泉の底に有る魔力の源を動かしたくないから、羽根と尾は新たに生やしましたとも。
魔力の源付きで。
いやーさすが神獣と呼ばれるドラゴンです。
かなり苦労しました。
これがリンデンさんだったらと思うと、多分現在の私では無理だったでしょう。
私はもしリンデンさんに何かあったら…と思うので、これからも精進しますね。

「それで、あんた達の名前を……」

何たってあの時は半分お仕置き、半分嫌がらせのノリだったから、成長したあんた達にはもう名前は要らないと思うんだ。

『あ~姉さん、久しぶりに翼が戻ったんだ。これからハニーとデートに行って来るわ』
『と、言う事で無粋な話は無し。じゃーねー』

じゃーねー……。
子供達がデートに出掛ける姿を見送る私。
この寂しさは一体なに?
まあ確かに人の恋路を邪魔する訳にはいかないしー、と言ってもあの子ら人じゃないしー、でもこの話は、あの子達にとことん拒否されそうだしー。
せっかく自由になれるのに、それをこのまま放っておいていいんだろうか。

『まあわしの名の事は放任し、あいつらの名だけ取り消すと言うのもな…。わしの名もあいつらと同じくお主が付けたのだから、わしの名を取り消さねばあいつらも納得せぬだろう』
「それはリンデンさんの名も取り消した方が良いと言う事ですか?」
『わしは今の状態が気に入っているからな。出来ればこのままのが楽しい。きっと奴らもそうなのであろう』

そんな物かな?
まああの子達がそれを望んでいて、楽しければそれが何よりですけれど。

そしてそれは有耶無耶のまま、時は流れます。
土壌改良は終わり、半月ほど掛かり到着した技術者及び労働力の皆さん達。
ご苦労様でした。
その間兄様の仕事の関係や、隊長のご機嫌伺のため、私達は何度もカリオンまで往復しましたけど、移動についての矛盾を感じるのは私だけでしょうか?
皆さんがもっと楽が出来るのなら、どんどん協力しますよ、私。

「楽を覚えれば、ロクな事にならないからな。少しぐらい苦労をした方が良いのだよ」

そうですか~?半月も強行軍で移動をする事を、少しぐらいの苦労とは言わないと思いますが、兄様の言う事はいつも正しいから、そう言う事にしておきましょう。

「エレオノーラ!」

到着した人達の中、聞き覚えのある声に振り替えれば、そこにはアレクシス様がいらっしゃいました。

「アレクシス様、一体どうなさったのですか?」
「あなたが国の為に努力しているのに、私が遊んでいる訳にはいかないからな。あなたの手伝いをしたいと思い、ここまでやって来たのだ」

そうでしたか、どうもご苦労様です。
でも私達はあなた達と入れ替わり、カリオンに帰る所なんですけれど。

「かまわない。一目でもあなたに会えただけでも私にとって十分だ。この後は私達が引き継ぐので、あなたはカリオンでゆっくりしてくれ」
「はい、お言葉に甘え明日はゆっくりさせていただきます」
「明日は?まさか明後日からまた仕事に戻るのですか?」
「いえ、明後日は次の目的地であるカゼインと言う港町に向かいます」
「そんな…ここの事を大体は聞いているが、かなり大変だったはずだ」

私はただ魔力を使っただけ。
本当に大変だったのは、采配をした兄様であり、リンデンさんであり、一番の功労者はピーポちゃん達です。

「この地をこんなに短期間で緑を取り戻すほどの魔力を使ったんだ、何もしていないなど………」
「まあ一度は魔力切れで倒れましたが、その後は兄様達が気を使ってくれましたので、そんなに大事にはなりませんでしたよ?」
「倒れた!?そんな………なぜだ。あなたはなぜ、そんなにも自分を大切にしないのですか!?」

はて?殿下は何を言っているのでしょう。

「私は家族から、自分の好きな事をしながら自由に生きなさいと言われました」
「それならなぜ!?」
「私には殿下が何を仰っているのか良く分かりません。私は今、自分のやりたい事をやっているのです。確かに周りの皆さんに助けられている事はたくさん有ります。でも、それを分かっていても私はやりたい事を貫いているのです。これほどの贅沢は他に無いでしょう」
『エレオノーラよ、自分を厭うのと、自由に行動するのは別物だと思うぞ。わしもお主がもう少し自分を大事にした方が良いと思うのだが』
「エレオノーラ。私もそう思うぞ」

=======

ただの掃除のつもりが、大掃除に発展してしまった。
それも3日間も掛かる大規模な物に………。
事実では有りますが、ただの良い訳です、ごめんなさい………。
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