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第一章 バグ編
カミリアさん
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俺は紫色のド派手なドアの前に立ち、束ねた鈴から垂らされた紐を振る。
ジャラジャラと鳴る鈴の音。
もう少し他の呼び鈴にすればいいのに。
「すいませーん。カミリアさーん。」
しばらくすると、バンと勢いよくドアが開かれた。
「うるさい。」
はい、そう言われるの分かってました。だからもう少し違う呼び鈴にしてよ。
「おや紗月どうしたんだい?」
「カミリアさんに真面目に魔法を習いたくて来ました。」
「何言ってるんだか。
あたしがいくら言っても、いつものらりくらりと逃げるくせに。
大方あたしの所に来るしかないほど暇だったんだろう?」
あはははは……。
まあ、普段が普段だからそう読まれても仕方ありません。
「まあいい、入りな。」
俺はいつもの広い講習場兼練習場兼居間的な不思議な空間に通された。
「さて、望んだのは紗月だからね、この際だから徹底的に叩き込んでやるから。
覚悟しておきな。」
その一言で、すでに後悔してます。
「まったく教えたものを、全て中途半端で逃げ出しおって……。」
カミリアさんがぶつぶつ呟いている。
ごめんなさい。謝りますからお手柔らかに。
そして俺はその日、一から叩き直された。
「だからその単語が違うんだよ。
オオイナルミズヲミタセだ!
オオイナルスミヲウミダセって何だ!
水じゃなく墨を生み出してどうする!阿呆!」
俺は今、空のコップを片手に全身に真っ黒な墨をかぶって床に突っ伏していた。
「あーあ、床もこんなに汚して、さっさと起きてこれを何とかしな!」
「はい!」
叱咤された俺はすぐさま起き上がり、自分が被った墨を含め、全てを一まとめにし、石のように固めた。
「…黒石にしたのか。」
「軟石にしてみました。だからほんの少しの水に浸して擦ると元の墨になるんです。」
ほら、と俺は手に持っていたコップに少量の水を満たし黒石を浸した。
「なるほど、こうすればペンで文字を書く時も便利だな。」
「ですねー。」
「というか、紗月お前、無詠唱の方がまともな魔法が使えるんじゃないのか?その水の加減と言い。」
そう言って俺の持っている墨を解いたコップを指さした。
「あ……。みたいな……。」
そう気が付いた俺達は、その後いろいろな魔法を無詠唱で練習しまくった。
「…ちょっと来い。」
最終的に俺はカミリアさんに台所に呼ばれた。
何の魔法の指導だろうと思っていたら、無詠唱で野菜を一定の大きさにカットしろとか、
鍋の中に一定量の熱湯を出せとか質量違う素材を湯の中でいっきに火の通った状態にしろとか。
つまりは魔法を駆使してシチューを作らされたんだよ。
「いちいち呪文を構築しなくていいから、紗月の魔法は便利で楽だなぁ。」
「…カミリアさん。これだったら今度は手作りで作りますよ。」
なんか魔法で作ったほうが疲れる気がする。
食事後、俺はカミリアさんにお茶を入れながら、自分の境遇を説明した。
アバターでもありカミリアさんは、このゲームの重鎮で、かなり初期からのゲーマーだという噂だ。
「成程な、そんな例は今まで一度も聞いた事が無いな。
だが、お前は間違いなく紗月だ。
これは何としても、原因を解明しなければならないな。」
「今、運営が調査してくれているんですが、
とにかく早くしてもらわないと、夏休みが終わっちゃうんですよ。
勉強が好きって訳じゃないけど………。
いや、待てよ。
このままなら、俺、ゲームやりたい放題じゃん。」
「馬鹿が。」
カミリアさんが、そう言いながら俺の頭の上に、大きな空の鍋を落とす。
「いって~!
酷い、カミリアさん。」
「酷いのはお前だろう。
今頃お前の身近な人が、どう思っているのか考えて見ろ。」
身近な人、父さんとか、母さんとか、じいちゃん……。
きっと心配してるんだろうな。
そうだ、涼太もいたっけ。
あいつがログインしてこないのは俺のせいかな?
俺がゲームの中にいるって事は、リアルの俺はきっと抜け殻状態なんだろうな。
それを考えれば、申し訳なくて、早くあちらに帰らなくちゃって思う。
ジャラジャラと鳴る鈴の音。
もう少し他の呼び鈴にすればいいのに。
「すいませーん。カミリアさーん。」
しばらくすると、バンと勢いよくドアが開かれた。
「うるさい。」
はい、そう言われるの分かってました。だからもう少し違う呼び鈴にしてよ。
「おや紗月どうしたんだい?」
「カミリアさんに真面目に魔法を習いたくて来ました。」
「何言ってるんだか。
あたしがいくら言っても、いつものらりくらりと逃げるくせに。
大方あたしの所に来るしかないほど暇だったんだろう?」
あはははは……。
まあ、普段が普段だからそう読まれても仕方ありません。
「まあいい、入りな。」
俺はいつもの広い講習場兼練習場兼居間的な不思議な空間に通された。
「さて、望んだのは紗月だからね、この際だから徹底的に叩き込んでやるから。
覚悟しておきな。」
その一言で、すでに後悔してます。
「まったく教えたものを、全て中途半端で逃げ出しおって……。」
カミリアさんがぶつぶつ呟いている。
ごめんなさい。謝りますからお手柔らかに。
そして俺はその日、一から叩き直された。
「だからその単語が違うんだよ。
オオイナルミズヲミタセだ!
オオイナルスミヲウミダセって何だ!
水じゃなく墨を生み出してどうする!阿呆!」
俺は今、空のコップを片手に全身に真っ黒な墨をかぶって床に突っ伏していた。
「あーあ、床もこんなに汚して、さっさと起きてこれを何とかしな!」
「はい!」
叱咤された俺はすぐさま起き上がり、自分が被った墨を含め、全てを一まとめにし、石のように固めた。
「…黒石にしたのか。」
「軟石にしてみました。だからほんの少しの水に浸して擦ると元の墨になるんです。」
ほら、と俺は手に持っていたコップに少量の水を満たし黒石を浸した。
「なるほど、こうすればペンで文字を書く時も便利だな。」
「ですねー。」
「というか、紗月お前、無詠唱の方がまともな魔法が使えるんじゃないのか?その水の加減と言い。」
そう言って俺の持っている墨を解いたコップを指さした。
「あ……。みたいな……。」
そう気が付いた俺達は、その後いろいろな魔法を無詠唱で練習しまくった。
「…ちょっと来い。」
最終的に俺はカミリアさんに台所に呼ばれた。
何の魔法の指導だろうと思っていたら、無詠唱で野菜を一定の大きさにカットしろとか、
鍋の中に一定量の熱湯を出せとか質量違う素材を湯の中でいっきに火の通った状態にしろとか。
つまりは魔法を駆使してシチューを作らされたんだよ。
「いちいち呪文を構築しなくていいから、紗月の魔法は便利で楽だなぁ。」
「…カミリアさん。これだったら今度は手作りで作りますよ。」
なんか魔法で作ったほうが疲れる気がする。
食事後、俺はカミリアさんにお茶を入れながら、自分の境遇を説明した。
アバターでもありカミリアさんは、このゲームの重鎮で、かなり初期からのゲーマーだという噂だ。
「成程な、そんな例は今まで一度も聞いた事が無いな。
だが、お前は間違いなく紗月だ。
これは何としても、原因を解明しなければならないな。」
「今、運営が調査してくれているんですが、
とにかく早くしてもらわないと、夏休みが終わっちゃうんですよ。
勉強が好きって訳じゃないけど………。
いや、待てよ。
このままなら、俺、ゲームやりたい放題じゃん。」
「馬鹿が。」
カミリアさんが、そう言いながら俺の頭の上に、大きな空の鍋を落とす。
「いって~!
酷い、カミリアさん。」
「酷いのはお前だろう。
今頃お前の身近な人が、どう思っているのか考えて見ろ。」
身近な人、父さんとか、母さんとか、じいちゃん……。
きっと心配してるんだろうな。
そうだ、涼太もいたっけ。
あいつがログインしてこないのは俺のせいかな?
俺がゲームの中にいるって事は、リアルの俺はきっと抜け殻状態なんだろうな。
それを考えれば、申し訳なくて、早くあちらに帰らなくちゃって思う。
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