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第3章
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しおりを挟む「俺は大丈夫ってこと?」
「調子に乗んな。おまえがしつこいせいで耐性がついただけだから」
「へえ、よかったじゃん。これで一歩前進だな」
世の中のオメガ全員がダメというなら希望は見えないが、一人でも例外があるというのは彼にとっても朗報なのではないだろうか。
未紘がにかっと白い歯を見せて笑うと、藤城はばつが悪いとでも言いたげな様子で視線を逸らした。
「そういえば最近言ってこないじゃん、抱いてって」
「……っ」
──かと思えば突然そんな言葉が飛んできて、未紘は動揺して盛大に噎せてしまった。
「うわ、きったねー……」
「~~っ、急に変な話題ぶっこんでくんなよ!」
「おまえだろ、毎晩俺の部屋に来て抱いてって懇願してきてたの」
「わーーっ、もういいから! 忘れろ!」
我ながら既に黒歴史になりつつある。未紘は顔を赤くしながら必死に声を張り上げた。
軽い気持ちで抱いてくれと言っていたときは、まだそんなに深く考えてなかったのだ。他人に触れられることが、まさかあんなに恥ずかしいことだなんて。
藤城に身体を触られたときに初めて、自分がしようとしていることがこんなに生々しいことだったのだと知ってしまった。
平穏に生きていくためには番に抱かれる必要があるが、そんなことは一旦置いておきたくなるぐらいには、抱かれるという行為に抵抗がある。
(イヤっていうわけじゃない……んだけど)
藤城に触れられるのは気持ちが良かった。だからこそ、自分が自分じゃなくなってしまいそうで怖いという気持ちが何よりも大きい。
そんな未紘の葛藤を知らない藤城は、訝しげに眉根を寄せている。
「なんで急にそんな反応になってんの? 他に抱いてもらえる男でもできた?」
「んなわけねーだろ。俺は藤城と番ってるんだから、他の男とできないし」
「へえ、あんなにちょろいのに?」
「だから……っ! もう喋んなおまえ……っ!」
あの夜のことを指しているのか、鼻で笑いながら未紘の目を見てくるのだから意地が悪い。
未紘の方も耳元に吹き込まれた藤城の吐息や、堪え切れず声を上げる自分の痴態を思い出して、とうとう頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
「……った……」
その直後、ズキンと頭の奥が痛んで思わず顔を小さく声を漏らしてしまう。
オメリドの副作用は依然として治る気配はなく、夜になると特に酷い頭痛に悩まされていた。
「どうかした?」
「……いや、でかい声出しすぎて頭痛がしただけ。そういえば明日からしばらく帰れないから、飯作れないけど悪いな」
「なんかあんの?」
「ゼミのプレゼンの進捗がよくないから、大学に泊まり込みすんだよ」
「ふーん」
聞いてきたくせに然程興味なさそうな藤城は、ゆっくりと席を立って食器を片付け始める。
未紘もまだキリリと痛む頭を堪えながら立ち上がった。
藤城に抱かれない選択をとるということは、オメリドを飲み続けるということだ。
この頭痛もいつかは和らいでくれるのだろうか。
生きやすくするために番を作ったはずなのに、結局苦しむことになっているなんて──つくづくオメガという性に振り回されているのだと思い知り、うんざりするのだった。
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