【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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第4章

20*

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 永遠に明けない夜のようだ。踠いても苦しんでも熱は引かない。世界で一番孤独な時間。

「はぁっ……うっ、あっ、んんっ……」

 カーテンの閉め切った薄暗い部屋には、自分の吐息と下腹部から聞こえてくる水音だけが響いている。
 未紘はベッドの上で虚な目をしながら、一糸纏わぬ姿で股座を弄っていた。

 扱きすぎたせいで陰茎はすっかり真っ赤に腫れている。何もしなくても先端からさらさらとした液体が漏れ出て、シーツはぐっしょりと水溜りを作っていた。

 ヒートが来てから三日が経った。いつもなら次第に落ち着いてくる頃なのに、今回ばかりはちっとも治まる気配がない。
 達しては気絶してを繰り返し、束の間の睡眠をとりながら乗り越えてきたが、心身共にとっくに限界がきていた。

(いつ終わるんだ、ずっと身体が熱くて苦しい……)

 朦朧とする意識の中、自分の呼吸だけが耳を満たす。
 頑なに触れずにいた後孔がひくひくと疼く。前を弄るだけではもう足りないことは、とっくにわかっている。

 触れたら楽になるだろうか。だけどそんなことをしたら、本当に後戻りできなくなりそうだ。

 一人でも強く生きてきた。だけどきっと後ろを触ってしまえば、ぽっかり空いた穴を埋めるように『誰か』を求めるようになるかもしれない。
 そんな自分が怖かった。

「はっ、んぅ、んん、イけない……っ」

 陰茎だけの刺激ではもう物足りない。それを認めたくなくて必死に擦り上げるけど、微弱な刺激を拾うだけだ。

(なんで……っなんでなんでなんで……!)

 焦りと不安と恐怖がごちゃ混ぜになって、目尻に涙が滲む。悔しい。一人では生きていけないんだと突き付けられているみたいで、悔しくてたまらない。 

 結局満足に快感を拾うことはできなくて疲労がピークに達した未紘は、仰向けのままベッドに四肢を投げ出した。
 すると視界の端でスマホが点滅していることに気付いて、緩慢な動作で取り上げる。

 確認すると大学の友人や家族からのメッセージがいくつか入っていた。その中に藤城からのメッセージがないことを確認して、こっそり落胆する。
 
(何を期待してんだよ、心配なんかしてるわけねーのに)

 ──なんかあったら呼んでもいいよ。

 あんな言葉を真に受けるほど馬鹿じゃない。だけどああ言われたときは、本当は少しだけ舞い上がった。

 適当な人間に欲を満たしてもらう趣味はない。あのときは確かに一瞬だけ、藤城となら──なんて、馬鹿げた妄想をしてしまったのは事実だ。

 メッセージアプリを立ち上げて、そっと彼とのトーク画面を開いた。必要最低限の会話しかない淡白な会話のやり取りが自分たちらしい。
 少し考えてから、文字を打ち込んでみた。

《かえってきて》

 文面を見てすぐに小っ恥ずかしくなって、素早く削除した。一体何を送ろうとしていたんだろう。こんなことを送ったってきっと馬鹿にされるだけだ。

 ぽいっとスマホを投げ出して、掛け布団を身体に巻き付けた。床にはいくつもの丸められたティッシュが転がっていて、自分の痴態に目を背けたくなる。

 ぎゅっと目を閉じて、熱を逃すようにふーっと息を吐いた。だけどどうしてか藤城の顔ばかりが浮かんできて、どうしようもなく胸が切なくなる。

「ん、ふじしろ……」

 名前を口にすると後ろがキュンとして堪らなくなった。熱に浮かされた頭でぼうっとしながら、ゆっくりと後孔に手を伸ばしてみる。
 あと少しで指先が触れそうだ。期待にごくりと息を呑んだ、そのときだった。

『──未紘?』

 近くで声が聞こえてハッと我に返った。がばっと起き上がり辺りを見渡すが、その姿は見えない。
 
『どうしたの?』
「あ、えっ……なんで繋がってんの」
『え? そっちが掛けてきたんだろ』
「えっ?」

 聞こえた声はさっきベッドに放り投げたスマホからのものだった。間違って通話画面を開いてしまったのだろうか。

(ってことは、さっきの聞かれた……?)

 無意識に彼の名前を呼んでしまったことを思い出して、未紘はぶわっと顔を赤らめた。
 そっと耳にスマホを当てて、平静を装いながら会話を続ける。

『もうヒート終わったの?』
「ま、まだ。今回なんか、重くて」
『そうなんだ』

 藤城の声が直接耳元に入り込んできて、やけにくすぐったい。通話の向こう側はシンと静まり返っている。
 彼もどこかの室内にいるのだろうか。

『寂しくなっちゃった?』
「は、何言ってんの」
『だってヒートの最中に連絡してくるの初めてじゃん。さっきも俺の名前呼んでたし』
「~~っ、ま、間違えただけだっ! 忘れろ!」

 やっぱりちゃんと聞かれていたらしい。ン゙ンッと咳をしながら声を荒げると、あはは、と楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

『ひとりでしてたの?』
「……悪いかよ」
『俺に聞かせてよ』
「………………は?」

 聞き間違いだろうか。まさかと思いながら聞き返す。

『してるとこ俺に聞かせて』
「そんなの、するわけねーだろ」

 またいつものように揶揄われているのだろう。
 そう思いつつも彼の声色がいつもよりどことなく甘ったるくて、言葉が詰まる。

『俺の言うこと聞けるよね?』

 甘さの中にナイフのような鋭さを含んだ声に、下腹部が疼く。
 この男のたまに見せる有無を言わさぬ態度が苦手だ。否が応でも従いたくなってしまうから。

 無言は肯定だと受け取ったのだろう、スマホ越しに小さく笑う吐息が聞こえた。


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