【完結】無関心アルファと偽りの番関係を結んだら、抱かれないうちに壊れ始めました

紬木莉音

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番外編⑸はじめての巣作り

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 ぐちゃぐちゃになったシーツは洗濯機に詰め込まれ、代わりに藤城によって柔軟剤の香る新しいものに取り替えられた。
 四日間も続けば疲弊して、最後の方はほとんど気絶してばかりだったように思う。
 ヒートが終わった今、未紘は掛け布団を身体に巻き付けて、芋虫のように丸くなっていた。

「そろそろ機嫌直してよ」

 背後から呆れた様子の藤城に声を掛けられる。微かに肩を上げて反応してしまったが、聞こえないふりを決め込んで背中を向け続けた。

「ヒートで不安定だったんだから、ああなったって仕方ないって。あれぐらい別におかしいことじゃないでしょ」
「…………いまは喋りたくない」
「とか言ってもう一時間は芋虫じゃん、いい加減おまえの顔が見たいんですけど」

 つんつんと布団の上から身体を押されて、少しだけ心が揺らぐ。だけど振り向くわけにはいかない。自らのエベレスト級のプライドの高さが許してくれないのだ。

(人生最大の恥だ。二十二にもなってあんなぼろぼろ泣いて、死ぬほど情けねえ……)

 いつもはすぐに飛ばしてしまう記憶も、何故か今回ばかりは正確に残っている。
 だから自分が藤城の前で何度も愛の言葉をねだったことも、幾度となく涙を流したことも全て鮮明に覚えていた。
 だからこそヒートが終わった今、とてつもない羞恥に襲われているのだった。

「おまえはさあ、俺が今更泣き顔みたぐらいで未紘のこと嫌いになるとでも思ってんの?」
「……そんなことはないけど」

 むしろ藤城は喜ぶはずだ。実際に致しているときも、涙の止まらない未紘を見てかわいいかわいいと口元が緩むばかりだった。

「わかってんならうだうだ気にしたって仕方ないじゃん。そんなことより藤城さんは早くおまえを抱き締めたいんですけど」

 俺だって抱き締められたい。つい答えてしまいそうになった。まるで餌に釣られる魚のように、振り向いてその腕の中に擦り寄ってしまいたくなる。

「気にしてるとかじゃ、なくて、その」
「じゃあなに」
「そうじゃなくて、単純に情けないし恥ずかしいんだよ。あんな、み、乱れて」

 いつもヒートのときは記憶を飛ばしていたから、自分があそこまで頭を弱くしているなんて知らなかった。
 感情を司る神経でも馬鹿になっているのか、感情の振れ幅がとにかく大きいし、熱を埋めることしか考えられない。
 どれだけ中を突かれても足りなくて、何度も何度も藤城にねだって、自分から積極的に腰を振って、制止を振り切って彼の股座に顔を埋めて──。

「……っ」

 思い出しただけでも顔がかっと熱くなる。これまでもあんな痴態を見られていたなんて、できれば信じたくない。

「……っはは! かーわいー。確かにそうだね、『せりぃ』って可愛い声で呼んで激しく乱れちゃってたもんね?」
「だーっもう、言わなくていいっ! ばかにすんなっ!」

 耐え切れずにがばっと顔を上げれば、ベッドに寝転んだまま頬杖をついてニコニコと笑っている藤城と目が合った。
 機嫌良さそうにその笑みが深まる。
 
「やっと顔見れた」
「あっ」

 しまった。そう思ってももう遅い。往生際悪く再び布団に包まろうとすると、間髪入れずに片腕が伸びてきて、勢いよく引っ張られた。
 あっという間に藤城の腕の中に囲い込まれて、ぎゅうっと力強く背中に腕が回る。互いに横たわりながら素肌がぴったりとくっついて、熱を分け合うのが心地良い。

「積極的な未紘はヒートのときにしか見れないから、俺は結構好きなんだけど」
「……知らねえ」
「あとエッチのときしか名前呼んでくれないじゃん。特別な感じがするから超興奮する」
「もういいって、わかったから勘弁して……」
 
 何をしたって肯定されてしまう。藤城の胸に顔を埋めた未紘は、渋々降参することにした。
 不意にふにっと唇が彼の肌に触れて、未紘はあることを思い付いた。

「……どうしたの?」

 顔を埋もれさせたまま、胸の辺りでもぞもぞと動く未紘が気になったのだろう。藤城に声を掛けられるのとほぼ同時に、目の前の白い肌に唇をくっつけて、吸い付いてみた。
 ドキドキしながら顔を離すが、お目当てのものは見当たらない。もう一度、今度は首の方に頭を移動させて、その首筋に吸い付いてみる。
 しかしやっぱり藤城の肌は綺麗なままだ。

「くそ、全然つかねえ」
「もしかしてキスマつけようとしてる?」
「うん」

 藤城の質問に投げやりに返事してから、何度も何度も吸っては離れた。少し赤くはなったが、いつも自分が付けられているような鬱血痕とは程遠い。
 そうこうしているうちに段々むしゃくしゃしてきて、衝動的にその首筋にがぶっと噛み付いた。

「いった、おま、なに急に! 噛むなよ」

 すぐに藤城の慌てたような声が落ちてくる。しかし首筋には見事に綺麗な歯形が付いた。

「頸動脈噛みちぎられて死ぬかとおもったわ」
「ごめん。吸ってだめなら噛むしかねえと思って」
「なんで二択なの? マジでさあ、意地張らずに俺にやり方聞けばいいのに……」

 藤城は困惑した様子で首筋に手を添えている。すると少しの間黙り込んで、何かを考え込む素振りを見せた。

「まあいっか、これはこれで」
「よくねえよ、ちゃんとキスマがつけたい」
「こういうのって所有印だから、俺がおまえのものだってわかればなんでもいーの」

 宥めるようにくしゃっと頭を撫でられた。確かに不格好ではあるが、これなら一目で恋人がいるのだとわかる。
 
「……藤城」
「ん?」
「結構嬉しいね、これ」

 藤城が付けたがる気持ちもわからなくもない。
 ふにゃりと口元を緩めると、藤城もふわりと柔らかく目を細めた。

「でしょ?」
「消えたらまた付けてもいい?」
「いいけど、怖いから噛むのはやめてよ。ちゃんと付け方教えてあげるから」
「えー」
「えーじゃねえ」

 両手で頭を挟み込まれて、髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜられる。仕返しに同じことをしてやると、息ができなくなるまで深く口付けられて、返り討ちにあってしまった。


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