聖女を冤罪で国外追放とはいい度胸ですね!

春局

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聖女は冤罪で国外追放される

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冷たくなった指先を握りしめながら少女は大きく息を吸う。
少女は淡い金髪に白肌、紫の双眸を持っていた。いつもは煌めく紫の瞳は黒く淀んでいる。
少女は目の前の光景を信じられない思いでただ見ていた。




アンデーク王国には神の加護を持った聖女がいた。
聖女は女神のような美しい容姿に慈悲深い心を持っている。誰も治せないような病も聖女は簡単に治して見せた。
聖女レティシアは誰にでも救いの手を差しのべ慈愛の笑みを浮かべる少女だ。


民に愛されし聖女レティシアには幼い頃からの婚約者がいた。
婚約者はレティシアが幼い頃ころは優しかったが聖女としての能力を使い始めるとだんだん冷たくなっていった。
冷ややかな目で見つめてくる婚約者にもレティシアはいつも微笑んでいた。
ー誰にでも慈愛を持ちなさい。
うまれてからずっと母から言われてきた言葉だ。
聖女だからそうしないといけない、聖女はそうじゃないといけない。
母はそうレティシアに教え込んだ。物心つくころから言われてきたことに疑問なんて持たなかった。
いや、持てなかった。


聖女として求められるレティシアは人を疑えなかった。
慈愛の聖女として生きてきたレティシアが異世界からきた少女に手を差しのべたのも必然のことだった。
少女は悠里と言う名前でレティシアに救いを求めてきた。


「私は貴方と同じ治癒ができますがまだ未熟なので助けて下さい」

癒しの力があると言った少女を信じてレティシアは手助けした。



今、思えばおかしなことだった。
癒しの力があるなら手助けなんていらないはずだ。






今、目の前で冷たい目を向けて来るのは婚約者だった青年だ。その隣にはレティシアに救いを求めたはずの少女、悠里が立っていた。

「お前は悠里の力を利用し、貶めた。聖女だったなんて嘘だったんだな」


「酷いです!レティシア様」


愉悦の笑みで見下す悠里に気づかない青年は思うまま言葉を吐き捨てた。


「レティシア、聖女の力を偽証したお前とは婚約破棄する。聖女ではなくなったお前はこの国にいることを許さない」


信じられない思いで婚約者であった青年を呆然と見つめた。
這い上がってくる思いは聖女ならあり得ないものだった。
怒り、憎しみ、悲しみ、苦しみ、憎悪すべての感情は等しくレティシアの気持ちだ。


「違う!そんなことしていない!!私は聖女として、私は・・・」


「聖女ではないお前など必要ない」



絶望した表情のレティシアをおいて彼らは去っていった。



ー私は何のためにここにいたの?都合よく捨てられるのが、聖女というものだったの?



母の言葉を信じて歩んできたレティシアはなにを信じるべきだったのか分からなくなっていた。


この国のために尽くしてきた神に愛されし聖女は冤罪で捨てられた。
















     ろくになにも持たせてもらえないままレティシアは手足を縛られ馬車に放り込まれた。
叫ばないように口を布で抑えられているせいで助けも呼べない。走り出した馬車がどこに向かっているのかは分からなかった。
馬車に揺られながらレティシアはそっと目を閉じた。







走っていた馬車はいきなり止まった。
少し薄暗い外の景色は馬車の中からでもわかった。

(ここはどこなの?)


馬車と扉が無造作に開き、手足を拘束されているレティシアを見知らぬ男が抱き上げた。
周りが木々しかない薄暗い森の中にレティシアをおろした男は憐れんだ目でレティシアの縄をナイフで切ると
「すまない」
と言って馬車に乗り去っていった。






    身一つで人がいない森の中に置き去りにされたレティシアはここがどこなのか見当がついた。

隣国アルサディスとアンデーク王国の国境にある森のはずれだ。
この森でさ迷えば魔物に殺されると言われている。
つまり元婚約者はレティシアに死を、望んでいるのだ。



     今まで神殿に閉じ込められてきた聖女が一人でいきていくことなど出来るはずもない。聖女としてしか生きられなかった、求められなかった聖女が人を救うことはあっても自分を守るすべなんて持ってなどいないと確信してここに連れてきたんだろう。

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